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愚者:40歳からでも人生は変えられる  作者: 白明


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2.The High Priestess(女教皇)

シャワーを浴び、出勤の準備をする。

本来であれば、まだ夢の中にいたはずなのに。


いつもより三時間早いシャワーは、設定温度は同じはずなのに心なしか冷たい。

余計に目が覚め、脳味噌が稼働しはじめるのをアリアリと感じる。

シャワーの水しぶきたちを脳天に受けながら、歯を磨く。

「こんなに早く覚醒してもいいことなんてないのに……」

そんな自らへの恨み言を独りちる。


シャワーを出るとワイシャツに腕を、スラックスに足をとおす。

そして、二本目の煙草。

朝から二本も煙草を吸うとは、時間感覚がどうにかしている。


時計を見る。

午前五時を少し越えたところ。

「やることも無いし、仕事、行くか」

玄関には、昨日の夕食時に出たであろうゴミ袋が置いてある。

「ま、これもついでだ」


ゴミ袋を持ち、玄関を出る。

マンションのゴミ集積所は、二十四時間利用可能なため、ゴミ袋をぶん投げる。

まだ、日の昇りきらない駅までの道を歩きはじめた。



「なんじゃこりゃ!」

通勤で利用する電車は、いつも満員。

吊革につかまる人と人との間に滑り込み、約一時間を立ちながらスマホでゲーム。

会社の最寄り駅に着く頃には、肉体的にも精神的にも疲労を感じているのが当たり前だった。


しかし、なんだこれは。

電車内がガラガラ。

むしろ一席空けて座れるくらいだ。

いつもの通勤時間とは違う世界がそこにあった。


座席にいち早く座り、スマホを出してゲームをはじめる。

二十分ほどすると眠気が襲い、そのまま眠る。

会社の最寄り駅に到着する頃には、アタマもすっきり。

たった数時間の差で、こんなにもゆっくりと通勤ができる。

これは、ハマりそうだ……。



会社の最寄り駅に到着したのは、六時四十分。出社時間は、九時。

これには、参った。

こんな時間では、守衛さんだって準備中で、会社に入れてはくれない。

むしろあまりにも早すぎる出社は、「疚しい何かをしている」と思われかねない。

取りあえず、近くのコーヒーショップを探す。

七時からの開店に向け、コーヒーショップの前には数名が並んでいる。

「ま、あと十分くらいだし、待つか」



余裕のある時間というのは、こういうものなのか。

コーヒーを飲みながら、スマホゲームの周回を行う。

それでも時間を持て余す。

今度は、ユーチューブを開き、ダラダラと流し()をする。

こんなにも時間がある。今までこんなにも自分の好きにできる時間はあっただろうか。

いや。あった。が、パチンコをしていた。スマホゲームをしていた。ユーチューブを見ていた。


八時まで時間を潰し、出社する。

「あれ、今日、何かありましたっけ?スケジュール確認します!」

若手社員が驚き、声をかけてくる。

「いや、特にないよ。自分の時間を過ごして」

デスクに鞄を置き、パソコンを開く。


みんな遅くまでよく頑張る。

メールボックスには、二十二時を越えたメールが開封されるのを今か今かと待ち構えている。

始業時間ではないが、メールの返信や指示を出していく。

そういえば、これだけで午前中が埋まってしまうこともあったなぁ。とアタマをかすめる。



午後六時。

「じゃ、俺は先に帰るぞ~。適当にやってお前たちも帰れよ~」

そういうとジャケットをチェアから引き揚げ、帰り支度をする。

「え、今日は、お早いんですね。何かあるんですか」

「いや、とりあえず今できる仕事が無いんだ。また何かあったらメールしておいてくれ」


自分でも信じられなかった。

いつもなら終業時間を過ぎても一日のタスクの半分も終わっていないことが多い。

しかし、今日はなんだ?

今日片付けなければいけない仕事は とっくに終わり、終業時間を待つ自分がいた。

むしろ余った時間で明日の仕事の調整をはじめている。


数時間早く起きただけで、アタマがクリアになり、本来であれば時間を要する案件も即断できる。

生まれ変わったような自分の脳味噌に驚愕した。

まるで別人のアタマのようだ。

今までであれば、靄が半分かかっているようで、ときにそれは頭痛を(ともな)う。


それがなんだ?

まるで「聡明」。

自分を評する際に決して用いることはなかった言葉。

そして、瞬時に「判断」ができる。

私は、どうしてしまったのだ…?


「なんじゃ、こりゃ!」

本日、二回目である。

この帰宅時間の電車は、朝と同じく空いている。

いつもなら、帰宅ラッシュの中、フラフラになった身体を吊革で無理やり支え、明日の仕事のことを考える。

早速、人の少ないシートに座り、スマホでゲームをはじめる。

眠くなってきた。

結局、自宅の最寄り駅までぐっすりと眠ってしまった。



「え、ちょっと、なんかあったの? ちょっと帰ってくるの早過ぎじゃない? 体調とか悪いの?」

玄関で私を迎えたのは、妻の驚きに満ちた声だった。

「いや、特にないよ。なんか、仕事が早く終わったから 帰ってきた」


「パパだ~!おかえりなさ~い!」

「ちょっと聞いてよ~。学校でさ~、超ムカつくことがあってさ~」

娘の(うた)と息子の(とら)が、ここぞとばかりに話を投げかけてくる。

こんなに子ども達とゆっくり話をしながら夕飯を食べたのはいつ以来であろうか?



眠い。恐ろしく眠い。

まだ二十一時だというのに。

晩酌の発泡酒が効いてしまったのか?

いや、起床時間が早かったためだろう。

「ごめん、今日はもう寝たい」

妻にそういうと、寝室に向かう。

「あ、私もこども達の支度をしたら寝るから」


ベッドに入るとスマホゲームを立ち上げる気にもならず、枕に突っ伏した。

今日は一体何だったんだ?

はっきりと覚えてはいないが、アタマがとてもクリアになり、一日が凝縮されていたような気がする。

疲れた…。


意識が遠のきかけた瞬間、寝室の扉が開き、妻が入ってきた。

妻は、無言で定位置に横になり、モゾモゾと動いた後、小さく語り()けてくる。


「ねぇ、もう寝ちゃった? 学習塾、ありがとうね。早速、体験授業を登録しておいたよ。それと、ゴミ捨てまで……、何かあった? 昨日、言いすぎちゃったよね。ごめんね。そして、ありがとう」


「うん、ああ。大丈夫、気にしてないよ。いつも、ありがとうな。おやすみ」

眠気で朦朧としているアタマで応える。


「おやすみ。ごめん、ちょっとだけ、くっつかせてもらうね…」


(つづく)

――――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。


また、あなたと会えることを楽しみにしています。


白明

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