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愚者:40歳からでも人生は変えられる  作者: 白明


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16.The Tower(塔)

その記事を目にした瞬間、全身に鳥肌が立った。

それほどの衝撃。

歓喜とも失望とも思えない複雑な感情。

出勤前のいつもの喫茶店の片隅で私は、鼻をすすり、涙を浮かべた。


「JAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)が十三年ぶりに宇宙飛行士を一般公募。

前回より募集資格を大幅に緩和。詳しくは…」


宇宙飛行士にあこがれたのは、いくつの時分からだろうか?

物心着く頃には、宇宙、惑星、そして星座の絵本や図鑑に夢中になり、時間を忘れ、読みふけっていた。

誰にも話したことが無かった将来の夢を語ったのは、忘れもしない中学校一年生 英検三級の二次試験だった。


「What do you want to be?(あなたは、将来何になりたいですか)」

どうせ英語の試験だし、この試験官とは二度と会わないのだから、正直に言ってもいいや。

と擦れていた少年の白明は思った。

「I want to be a space man(宇宙飛行士になりたい)」

「Yeah, Nice! I hope so !(イイね!がんばりや~)」

ってな、やり取りを当時十三歳の小僧と面接官で交わした。

せめて、Astronaut(宇宙飛行士)って言えよ。


そんな夢を隠しながら、高校、大学は理系に進んだ。

当時、宇宙飛行士になるためには、理系の中でもある程度の出身大学や、専攻が絞られていた。

そこも踏まえ、大学や学部選考をしたのは言うまでもない。

常に宇宙飛行士の募集に目を光らせていただのが、募集要項でネックとなるのは、年齢。

大学を卒業する頃には、チャンスが巡ってくることに期待を馳せながら大学時代を過ごした。


募集がかかったのは、二千八年。

私は、二十八歳になっていた。

肉体的にも精神的にも充実している年齢。

何が何でも応募したかった。

でも、それは許されなかった。


二十八歳の私は、入社二年目。

しかも四歳と一歳の子どもを抱え、妻と共働き。

妻に相談することさえもできない。

私は、親として夫として、この新しい家族を守っていかなければならない。

ようやく手に入りかけた自分の夢は、「するり」と手のひらから零れ落ちて行った。


それからも数年に一回かかるであろう募集を心待ちにして、仕事に、そして家族に時間を費やしていった。


***


その募集が十三年ぶりにかかった。

その興奮といったらこれこそ筆舌に尽くし難い。

しかし、同時に襲う失望感と虚無感。

私は、既に四十一歳だ。

子ども達は既に手を離れはじめている。

仕事だって順調に行っている。

今であれば、ある程度家族の協力を得られるであろう。


しかし、私は、四十一歳。

時間とは、いつも残酷だ。

身体的なものでいえば、二十代、三十代に敵うわけがない。

アタマの回転もしかりだ。

もう少し早ければ…。

またしても私の夢は、指の間から零れ落ちて行った。

私は、強い絶望を感じた。


***


「え? 何を迷っているの? やればいいじゃん。そうしろって言われたでしょ? おじいちゃんに好きにしろって、言われたでしょ?」


呆気ない返答で、こちらが面食らってしまった。

今朝のショックからか、今日は酒を飲み過ぎていた。

重ねて、弱気になっていた私は、つい宇宙飛行士のことを妻に話してしまったのだ。

しまった。と思ったが、返ってきた言葉は想像していないモノであった。


「でもな~、英語はヒアリングは得意だけど、喋るのはちょっとな~。でも、常夏の街に移住できるってなれば、サイコーだよね~。あ、本場のディズニーも近いんじゃなかったっけ? 子ども達も定期的に遊びに来るとなると、いい経験になるよね!」

妻は一人で話し続けている。


ちょっと待て。なんの話をしている?

私を置いて行かないでくれ。


「なに腑抜けた顔をしているのよ? あなた、いろいろ生き方とか変えてきたんでしょう? それに子ども達だって、手も掛からないんだし。好きなことに挑戦すればいいだけだよ。イヤって言っても私もフロリダには付いていくからね~」


こんなにも簡単に、直球に。そして、受け入れてくれた。

これまでたくさん迷惑をかけてきたにも関わらず。


やっぱり妻には敵わない。


ん?

フロリダ?

既に合格して、移住する気!?

これは、全力で挑戦しないと妻にコロサレルかも…。


(つづく)

――――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。


また、あなたと会えることを楽しみにしています。


白明

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