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愚者:40歳からでも人生は変えられる  作者: 白明


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15.The Devil(悪魔)

休日の朝のトレーニングが完全に習慣化され、それに伴い、私の身体も変化した。

腰にまとわりつくように付着していた脂肪は落ち、垂れ下がっていた胸には、張りが生まれ、むしろ上を向いてきた。

こんな身体になったのは、かれこれ二十年ぶりだ。


食事にも気を遣い、そして、不必要な間食を控えることで身体への効果はさらに躍進した。

加えて消費行動の抑制などにもつながり、貯蓄もでき、月々の支払に困ることは無くなっていた。


ジムには、有酸素運動も兼ね「あさんぽ(朝+散歩の造語(ぞうご))」をしながら向かっていく。

その途中に長い行列を目にする。

朝八時前だというのに、二十代から七十代の男女が列をなす。

パンやおにぎりを食べながら待つもの。

スマホや携帯用ゲームを食い入るように見つめるもの。

座り込み、惰眠を貪っているもの。

その中に、数年前の私がいた。


***


八時には、抽選会がある。

そのためには、七時半には列に並ばなければならない。

休日だというのに朝早く起きると急いで歯を磨き、足早に向かう。

どこにって?

パチンコ屋だ。


当時、研究部門の仕事をしていた私は、成果の出ない焦りやストレスをパチンコに求めていた。

パチンコで当たる。煌びやかな演出を目に入れることで、ストレスを解消していると勘違いしていた。

上手く行けば稼ぐことだってできる。

こんな「小学生か!」と言いたくなるような、取って付けたような言い訳を自らにしていた。


眠い目を擦り、列に並ぶ。

スマホで昨日の「大当たり」の回数や、回転数をチェックし、本日狙う台にあたりをつける。

店舗に併設されたコンビニでアメリカンドックを買い、簡単な朝食とする。

妻や子ども達はまだ夢の中であろう。

食事は、きちんとするだろうか。


私は、ストレスを解消しに来ている。そして、稼ぎに来ている。

そんな言い訳にもならない言葉で自分と家族を騙し、そして、今日も台の前に座り、ただただ、時間とお金を浪費する。

心のどこかにほんの少しの呵責を感じているが、見て見ぬふりをする。

そうしなければ、私自身を保っていられなかった。

聞こえはいいが、ただの言い訳だ。


抽選を終え、開店までの時間をコンビニのイートインスペースで(つぶ)す。

今日になって何度目かのメール確認をスマホでする。

仕事や友人からのメールなんて来ているわけがない。

スマホゲームを立ち上げ、寝そうになりながらも周回作業をこなしていく。

「俺、なにやってんだか…」


開店と同時に、抽選番号順に入店していく。

抽選番号もいい番号とはいえないものだが、早い入店には必要。

抽選券を「グッ」と握り、自分の番号が呼ばれるのを待つ。

早く、早く。

この頃には既に理性と呼べるものが、ほとんど無くなり我欲の塊となる。


番号を呼ばれると、急ぎ足に狙っていた台に向かう。

よかった。まだ、空いていた。

財布から一万円札を抜き、早速、打ちはじめる。

台を凝視し、そして、パチンコ玉の行方だけに集中する。

気付いた頃には、財布の中身は空になっていた。


「クッソ、もう少しなんだよな~」

何がもう少しだ。お前には未来を見通せる力でもあるのか?

仮に見通せる力があるのであれば、パチンコなんかには来ていない。


併設されたコンビニに行き、さらに五万円出金する。

そういえば今週は、詩の塾代が引き落とされると妻が言っていた。

「とりあえず、勝てば問題ないだろう」

こうなると思考が既に無いものと同然になる。


気が付くと二十時過ぎ。

余り球を清算し、帰路につく。

「クソっ! 結局、五万円も負けかよ! クソっ!」

この頃になると少しずつ冷静になり、使った時間とお金を勘定しはじめる。

そして、この後に待っているであろう、きついお金のやりくりについても考えを巡らせる。

「クソっ! めんどくせーな! クソっ!」


「パパ、おかえり~。今日はね、ママがカレー作ってくれたよ~」

家に帰ると子ども達が出迎えてくれる。こんなクズみたいな父親なのに。

リビングでは、妻が既に終えた夕食の食器を洗っていた。

「どう? ゆっくりできた? 今日、カレーだけど、すぐ食べる?」

私の今日一日をわかっているだろうが、自然な態度で接してくる。

それが私の罪悪感をさらに抉る。

こうなることがわかっているのにパチンコに行くのをやめられない。


妻の気持ちや、子ども達からの視線からも逃げるように酒を飲む。

カレーよりも流し込んだ酒の量の方が多くなる。

妻は、何の感情も無い目でユーチューブを見ている。

もちろん私との会話はほとんどない。


酔いがまわる。

今日、一日を無かったことにするように、言い訳がアタマの中を駆け巡る。

それが余計に酔いをすすめる。

「ごめん。今日は、もう寝るわ」

私は、妻からも子ども達からも、そして自分からも逃げ、眠りについた。


翌日もまったく同じ行動。

夜にはあんなにも自責の念に駆られていたにも関わらず、同じことをしている。

これが 依存 というものなのだろうか? と自嘲するが、その思考も瞬間で飛んでいく。

既に依存では、無く依存症。病のレベルだ。


心が無くなるくらいにパチンコに集中していて、何も飲んでいないことに気が付いた。

缶ジュースを買おうと自動販売機に向かう。

私の前に、その二人はいた。

およそ七十歳前後の老夫婦が。


「負けちゃったね」、「うん。負けちゃったね」

二人はそう話しながら缶コーヒーを一つ買い、二人で分け合いながら出口に向かっていった。


一場面を切り取っているだけであり、他人の私がどうこういう立場ではない。

ましてや、想像だけで勝手なストーリーを構築しているのは百も承知。


私は、なんともいえない感覚に囚われた。

これも一つの幸せ、なのか…?

私と妻の将来が、このようなものでいいのか…?

今のままパチンコを続けている私に待ち受けるのは、なんだ?

私は、このままでいいのか…?

缶ジュースを買いに来たのに、私は、その場で立ち尽くした…。


***


その後、いつの間にかパチンコには行かなくなっていた。

これまで見てきた、筋トレや読書などにその時間とお金は、とって代わられた。

そうするといつの間にかお金も増えていた。

どんだけパチンコに使っていたんだよ。って感じだ。


いつの間にか、家族との時間と笑顔が増えていた。

もっと早く気付いてもよかった。

だけど、気付けたことが何よりの成果だ。

妻よ。

離婚しないでいてくれてありがとう。

今後の人生、全力で尽くします。



な、なに!?

「新世紀エヴァンゲリオン」の新台がでるだと!?


「逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。いや!全力で、逃げます!」


(つづく)

――――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。


また、あなたと会えることを楽しみにしています。


白明

――――――――――――――――――――――――――


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