12.The Hanged Man(吊るされた男)
書くことは決まっている。
自分のことを書けばいい。
私がこれまでやってきたことを書けばいい。そうすれば、それが自己啓発本になるのだから。
ここまで四十歳のおっさんが今までの人生を変えようと、ほんの少し、習慣を変えてみた。
そして、いいと思える習慣を本気で取入れてみた。
今の私は、半年前の私とは別人のような人生を送っている。
これをキンドルで書けば、自己啓発本になるのではないか。
同じように人生を変えようと思う人が手に取ってくれるのではないか。
そう思うとワクワクして仕方がない。
私がここまでやってきたこと。
そしてじいちゃんに教わってきたこと。
それを書いていこう。
丁寧に、そして言葉を選びながら。
早起きの事について。
お金について。
生き方について。
筋トレについて。
サウナと風呂について。
読書について。
料理について。
そして、じいちゃんから口酸っぱく言われてきたこと。
努力の話。
学び、疑うことの話。
感謝について。
要旨は決まった。
後は書くだけ。
仕事柄、文章を書くことに抵抗はない。
時間のある限り、いや、時間を作り出してでも書いていく。
難しいことはない。だって、私が体験してきたことを書けばいいのだから。
そして、伝えたい内容を書けばいいのだから。
私は、時間を見つけては、書き連ねた。
出勤前の喫茶店で。
仕事の昼休みの合間に。
移動中の電車の中で。
家事が全部終わった後に。
週末の妻が眠った後に。
書くことで自分が取り組んできたことを再度、肯定し、受け入れる。
そしてその精度を上げていく意識さえ生まれてくる。
こんな気持ち、生まれてはじめての感覚だった。
私自身が、書くことでより「意識高くある」ことに誇りと自信を持つことができた。
***
一日の家事を終え、空いた時間で執筆をはじめる。
妻は、目の前で遅い夕食と晩酌を楽しんでいる。
テレビでお気に入りのユーチューブを見ながら。一日の疲れを笑いとともに吐き出している。
カラカラと小気味よい声で笑うその姿を微笑ましく思いながら、私は、一文字一文字を綴っていく。
こんな日常、数カ月前は想像できなかった。
突然、リビングの扉が開くと、詩が大袈裟なくらいの荷物を持って入ってきた。
ダイニングテーブルにドサリとそれを置くとノートと教科書を開き、何やら勉強をはじめた。
「お、おい。どうしたいきなり。明日テストか何かだっけ? 熱でも出たの?それともお腹でも痛いのか?」
思考が滅茶苦茶になっているときの質問は、それこそハチャメチャだ。
「違うし。こう見えて私、受験生だし。勉強してたって問題ないでしょ? たまたま、パパがここで仕事しているなら、私もしようかなって。ただ、それだけ!深い意味はないから! ほら! 自分のことをやりなよ!私のことは、いいの!」
妻と目が合う。
お互い「フッ」と笑顔を交わし、私はパソコンに、妻はユーチューブに視線を向ける。
まったく。
こんなにもわかりやすくツンデレると、こっちが恥ずかしくなる。
どうやら私のちょっとした「挑戦」や「努力」は、少しずつ家族にも伝染していっているらしい。
流行病のそれとは違い、温かく、そして心の奥底にじっくりと浸潤していっている。
生き方さえも変えてしまう新しい習慣。
これが世界を覆うのであれば、世界はもっと優しくなれるだろう。
「パパ~。明日提出のプリント、学校に忘れてきちゃった~。連絡帳に書いておいて~。え!? 何で詩ちゃんは、こんな時間なのに起きてていいの~? ずるい~。虎もまだ起きてる~!」
こっちの教育はもう少し、考えなければならない。
微笑とも苦笑いともとれる顔をした妻は、虎を寝室へと連れて行った。
四十歳でひょんなことから、はじめた自己改革。
そのお陰で自分は、ちょっとした幸せを受け取ることができている。
それを伝えたい。
深く、重い人生を歩んできた人からすれば、私の新しい習慣や取り組みは、薄っぺい内容かもしれない。
だけど、私は価値を感じ、そして、変えた。
自らの意識も、そして人生も。
そして、継続し、努力している。
それを記すんだ。
私がこの年齢で、人生にしっかりと向き合った意識を。
(つづく)
――――――――――――――――――――――――――
お読みいただき、ありがとうございます。
よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。
また、あなたと会えることを楽しみにしています。
白明
――――――――――――――――――――――――――




