10.The Wheel of Fortune(運命の輪)
って、格好イイことを言っている場合ではなくなってきた。
何かって?
物理的な問題である。
物理的って なにって?
本の量である。
私の性格的な問題でもあるのだが、何かをはじめると、とことんのめり込む。
周りの目も、そして、毎日の生活さえも巻き込んでしまう。
これで、何度、夫婦喧嘩に発展したことか……。
話を戻そう。
読書習慣が本格的にはじまると週に十冊の中古本の購入が、十二冊になり、十五冊になり…。
もちろん、購入した本は、我が家の本棚に収められていく。
妻も本やマンガが好きなため、我が家のリビングには、天井まで届く本棚がある。
そして、廊下には、チェスト本棚が三台設置されている。
これを埋めてしまうのは、瞬間であったことは容易に想像できるであろう。
私が買ってきた中古本が家庭内のいたるところの散乱し、夫婦の寝室にも溢れる状況がたった数カ月できあがった。
「いい加減にして!いつもこんなだから、こっちが困るのよ! はじめたら止まらない性格なのは、わかっているけど! は~。あなたは、いつもどうしてこうなの! まったく、子どもじゃないんだから! 今後は、一切、紙の本の購入は禁止!」
やってしまった……。
私は、妻の言葉には逆らえない……。
だって、私は妻に拾ってもらい、そして結婚したのだから……。
妻は、私より七歳年上で、養ってもらっていた時期もある。
完全降伏をした私は、それからの日々を悲しみとともに過ごした。
過去に購入した本の三度目、四度目の再読。
「ああ、新しい刺激を……。もっとたくさんの本が読みたい……」
再読をすることで新しい発見があり、曖昧だった情報がより定着されていく。
再読自体は、決して悪いことではない。
しかし、読書スピードは、一回目、二回目のそれより圧倒的に早くなる。
通勤時間は往復三時間。
少しでも本を読んでいたいと思う気持ちから、鞄の中には五冊の再読本が入っていることもあった。
世の中には、情報が溢れており、発信媒体も多岐に亘る。
テレビ、ネット、書籍、新聞、中吊り広告、看板などなど。
私達の生活において、完全に情報から切り離された生活を送るのは、既に不可能だといわれている。
特に情報収集・拡散スピードにおいては、ネットの利用が圧倒的だ。
通勤電車や喫茶店、どこにいても多くの人々がスマホに目を落とし、ネットで何かしらの情報を得て、そして発信をする。
しかし、私は、ネットではなく、本が読みたいのだ。
街を歩けば、ビルの上には新刊発表の巨大な看板。
電車の中吊り広告には、有名作家たちの新刊特集。
新聞の下部広告には、同じく新刊情報。
そして、テレビを見れば、「今、話題の新刊ランキング」。
気付かないだけで、本に関する情報はいたるところに散在する。
気にしはじめると、余計に目に付くようになる。
人間のメタ認知能力とは、凄まじい。
紙の本を買えないことがこれほど苦しいこととは。
あまりにも苦しすぎて、仕事で使用する専門書を持ち帰り、電車の中で読むことすらあった。
ここまでくると中毒者だ。
私自身ここまで読書に夢中になるとは思いもしなかった。
昔、母から「もっと本を読みなさい!」と激しく叱られたこともあったと思い出し、これまた自嘲する。
人生って何が起こるかわからない。
***
そんな、私に運命の女神は微笑んだ。
ある日、仕事から帰ってきた妻は、手に小さな包みを抱えていた。
仕事帰りに買い物のお願いをしても、忘れてくるのが当たり前となっている妻が買い物をしてきた。
悪い予感しかしない。
また、高額な何かを衝動買いし、自慢をしようと言うのだろうか……。
「あんな言い方して悪かったから、これ、買っといた。でも、やり過ぎ禁止。やるべきことは、きちんとやって。それと、家事はマストだからね」
相変わらず妻の言い方は、きつい。
ちゃんと考えようね。
大人なんだし。
そっと差し出されたそれは、水色と白を基調とした小さな箱。
子ども用クラフトおもちゃの包装によく似た、厚くも薄くも無いシンプルなデザイン。
表には英語の文字列がスタイリッシュに踊る。
私は、妻への文句の言葉を飲み込み、それを恭しく受け取った。
「ありがとう」
家事は完璧にこなします。
食事作りも、お風呂掃除も、子ども達の翌日の持ち物チェックもします。
手に入れました。
キンドル・ペーパーホワイト。
私の人生を変えた最強の相方を。
(つづく)
――――――――――――――――――――――――――
お読みいただき、ありがとうございます。
よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。
また、あなたと会えることを楽しみにしています。
白明
――――――――――――――――――――――――――




