何処かのラジオっぽい話
ここはグンマー王国の首都“マエバシシティ”。
そして王国民の情報源といえば、グンマーFM。
木曜13時から20時までの生ワイド番組、その名も**『841』**。
王国では「数字は神聖」とされるが、番組名の意味は誰も深く考えない。ノリだ。
■ 正午 打ち合わせ
プロデューサー橋下直司は、スタジオ横の会議スペースで腕を組んでいた。
今日は年明け最初の木曜日。
——来るぞ。
ドアが開く。
「……だりい〜」
高山克己、入室。
「ねみぃ〜……」
椅子に沈む。
「早く帰りてぇ〜」
三段活用、王国指定無形文化財。
「高山さん、今日は新年一発目です」
「正月ってさ……王国暦いる?」
「います」
橋下は進行表をめくる。
・13:00 新年あいさつ
・13:10 王国民メール紹介
・13:40 バカ一代SP
・13:45 歌えバンバン
・13:55 グンマー王国ニュース
高山は半目で聞いている。
■ 13:00 生放送開始
ジングルが鳴る。
「グンマー王国のみなさーん……あけましておめでとうございまーす……高山克己で…す…。」
声が低い。
「いや〜……だりい〜」
副調整室の橋下は想定内と頷く。
「ねみぃ〜」
「もう…家帰っていい?…あ、ダメ…。」
メール着信。
《RN:上州スライム》 件名:通常確認
本文:今年も低いですね。安心しました。
「安心すんな」
《RN:赤城マグマ》 件名:初日の出
本文:高山さんの頭頂部が一番早く日の出迎えてました。
一拍。
「ハゲ関係ねぇだろ!」
王国、平常運転。
《RN:館林サボテン》 件名:新年の目標
本文:高山さんの毛根復興。
「だからハゲ関係ねぇって言ってんだろ!」
だが笑いが混じっている。
橋下はモニター越しに見る。
——王国民は優秀だ。
年明けはテンションが低いと知っている。
だから放置し、ネタを投げる。
■ 13:40
「新春バカ一代いきまーす……」
《RN:草津スチーム》 件名:抱負
本文:餅を減らす。以上。
「短ぇよ」
《RN:伊勢崎ブレード》 件名:お願い
本文:高山さん、今年は20時まで起きててください。
「失礼だな!」
だが声量はまだ70%。
■13:45
「歌えバンバン…のコーナーかぁ〜…今日やらなくても…ダメか…。まぁ…2曲てきと〜に流しとくから」
■ 13:55
番組開始から約1時間。
テンションはまだ低空。
「グンマー王国ニュースの時間です……ニューススタジオの桜川さん…」
読むスピードも若干遅い。
副調整室で橋下は考える。
——本番は15時だ。
毎週恒例のおやつコーナーで気圧は変わる。
だがそれまでは、この低空飛行もまた“様式美”。
ニュース終わり、メール。
《RN:上州スライム》 件名:現在高度
本文:テンション−8。例年並み。
《RN:赤城マグマ》 件名:14時報告
本文:眠気指数MAX。
高山がため息をつく。
「王国民よ……俺も人間だぞ……」
《RN:館林サボテン》 件名:人間証明
本文:ハゲでも?
間髪入れず。
「ハゲ関係ねぇだろ!」
スタジオに笑い。
14時を回った。
まだ6時間ある。
橋下は椅子にもたれかかる。
年明けの『841』は、まだ助走段階。
低く、ゆるく、だが確実に回っている。
グンマー王国の木曜は、
だりい〜から始まる。
そして15時、糖分で革命が起きる——
それはまた、次の時間の話だ。




