7.事故の裏側
玲奈は事故の様子を淡々と語った。
「事故当時、どうやらあなたは意識がなかった。
銀色のなにかに掴まれて自動車に乗り込んだの」
「そして事故に遭った。まるで自殺ね。」
その言葉に、真帆は反発して言った。
「まさか、私、そんな事、しないわ」
玲奈は言った。
「そうね、なんだかいろいろ、あなたの周りって、怪しいことだらけね」
「残念ながらあなたの左腕は再生不能無ほど損傷していたの。
そしてなぜか傍らにこの義手が落ちていた。まるであなたに移植されるためみたいに」
真帆は少しゾッとした。
玲奈は続けて
「なかなか手に入るようなものじゃないわ。だけど、嫌だったら言ってもらえれば、普通の義手に交換できるわよ、ただ、相当不自由になるけれど」
玲奈は真帆を見た。
「これでいいわよ」
真帆はすっかり諦めたように言った。
「それより、私ってそんなに、誰かに恨まれていたのかしら?」
真帆の問いは、
「自分は誰かに殺されかけたのか?」
という恐怖と、
「この世界で自分は何者なのか?」
という根源的な不安が混ざった声だった。
玲奈は、しばらく真帆の顔を見つめてから、
ゆっくりと息を吐いた。
玲奈の返答:医師としての冷静さと、女としての直感
「……恨まれていた、というより」
玲奈は言葉を選ぶように、少し間を置いた。
「“狙われていた”と考えるほうが自然ね」
真帆の背筋がぞくりとした。
「狙われて……?」
玲奈は頷く。
「だっておかしいでしょう。
意識のないあなたを“銀色の何か”が掴んで車に押し込んだ。
その直後に事故。
そして、あなたの傍らには――」
玲奈の視線が、真帆の左腕に落ちる。
「――軍事レベルの義手が、まるで『拾ってください』と言わんばかりに置かれていた」
真帆は思わず左腕を抱え込んだ。
金属の冷たさが、逆に“生々しい”感覚として伝わってくる。
玲奈の推測:医師の範囲を超えた“違和感”
「普通の事故じゃないわ。
あなたの周りには、どう考えても“偶然”じゃ説明できないことが多すぎる」
玲奈はタブレットを閉じ、真帆に向き直る。
「それに……あなたの身体の状態も、妙なのよ」
真帆は息を呑んだ。
「妙って……どういうこと?」
玲奈は、医師としての冷静な声で言った。
「あなたの脳波。
事故直後から、ずっと“別人のパターン”が混ざっているの」
真帆の心臓が跳ねた。
別人……
それって……
私のこと?
玲奈は続ける。
「でも、あなたの脳は正常に働いている。
記憶障害とも違う。
むしろ――」
玲奈は真帆の目を見つめた。
「“あなたの中に、別の誰かが入ってきた”ように見えるのよ」
真帆は息を呑んだ。
真帆の恐怖と、言葉にならない直感
私は佐伯真帆。
でも、この身体は……
篠原美穂。
じゃあ、私は……
どこにいるの?
胸の奥が冷たくなる。
玲奈の結論:恨みではなく、“計画”
「恨まれていた、というより……」
玲奈は静かに言った。
「あなたは“巻き込まれた”のよ。
誰かの計画に」
真帆は震える声で言った。
「……誰の?」
玲奈は答えなかった。
ただ、真帆の左腕――LM-01A1――をじっと見つめた。
その視線は、
“医師”ではなく、
“研究者”のものだった。




