5.目覚めたら美穂だった
病室に女医が入ってくる
看護師が連れてきたのは、
白衣の女性だった。
落ち着いた目。
無駄のない動き。
この世界の医療現場に慣れきったプロの雰囲気。
「篠原美穂さん。お目覚めになってよかった」
真帆は反射的に言い返したくなった。
美穂じゃない。
私は佐伯真帆。
でも、声は出なかった。
「私は担当医の久遠玲奈です。
事故の前後について、少しお話を伺ってもよろしいですか」
真帆は小さく頷いた。
玲奈はタブレットを開き、淡々と読み上げる。
「篠原美穂さん。
年齢は三十七歳。
ご職業は船団行政局の研究補佐。
既婚。
ご主人は篠原啓介さん」
真帆の心臓が跳ねた。
ぜんぶ違う。
私じゃない。
玲奈は続ける。
「……そして、子どもはいません」
真帆は息を呑んだ。
子どもはいない?
じゃあ、さっきの小春は……?
啓介も、気まずそうに視線をそらした。
真帆の混乱が頂点に達する
「ま、待ってください……」
真帆は震える声で言った。
「さっき……小さな女の子が……
“お母様”って……」
玲奈は眉をひそめた。
「女の子?
この病室には、先ほどまでご主人と看護師しかいませんでしたが」
真帆の背筋が冷たくなる。
じゃあ、あの子は……
誰?
啓介は唇を噛みしめ、
小さく呟いた。
「……小春は……美穂の子じゃない」
真帆は息を呑んだ。
玲奈が静かに言う。
「篠原さん。
あなたは“記憶の混乱”を起こしている可能性があります。
事故の衝撃で――」
真帆は首を振った。
「違う……違うの……
私は……美穂じゃない……」
玲奈は一瞬だけ目を細めた。
その目は、医師の目ではなく、
“何かを見抜こうとする研究者の目”だった。
そして、啓介が言う
「……美穂。
君が見た小春は……」
真帆は息を呑む。
啓介は続ける。
「……美穂の子じゃない。
でも……君のことを“母”だと思っている」




