43.見上げる空の輝き
真帆と小春は、ただ静かに空を見上げていた。
そこには――これまで一度も見たことのない光景が広がっていた。
巨大な移民船団の船体が、
次々と腹部のスラスターを点火し、
ゆっくりと、しかし確実に地上降下の軌道へと移り始めていた。
青白い光が雲を照らし、
空はまるで夜明け前のように明るく脈打っている。
「……きれいね」
真帆がぽつりと呟く。
その声は、
恐怖でも緊張でもなく、
ただ純粋な感動に満ちていた。
小春も同じ方向を見つめながら、
胸の前で手を組むようにして言う。
「私たち……
この狭い世界にずっと閉じ込められてるんだと思ってた」
「でも、あそこには……
たくさんの人がいるんだね」
小春は微笑んだ。
「なんだか……星に願いが届きそう。
こんなこと考えるなんて、ロマンチックすぎるかな」
真帆は首を振る。
「いいと思うよ。
だって、あれは……私たちの未来なんだから」
朔太郎の胸に去来するもの
少し離れた場所で、朔太郎も空を見ていた。
彼の目には、
降下を始めた船団の光が涙のように滲んで見えた。
「……ようやく、だ」
彼は小さく呟く。
「ようやく、私たちの願いが叶う。
長い……本当に長い道のりだった」
その声には、
かつて失った家族の面影が重なっていた。
彼らが夢見た“地上への帰還”。
その瞬間が、今まさに訪れようとしている。
地上は変わり始めていた
パイオニア・ゼロの周囲では、
テラフォーミング装置が静かに唸りを上げていた。
かつて荒涼とした砂漠のようだった大地は、
霧に包まれ、
細かな雨粒が降り注ぎ、
地面に吸い込まれていく。
やがて――
水が集まり、
湖が生まれようとしていた。
朔太郎が息を呑む。
「……信じられない。
数週間もすれば植物が芽吹く。
ここは……緑の土地になる」
真帆は胸の奥が熱くなるのを感じた。
八十年止まっていた世界が、
今、動き始めている。
そして――未来へ
真帆は小春の手をそっと握った。
「さぁ、これから――」
その先の言葉は、
まだ誰にもわからない。
けれど、
空から降りてくる光と、
足元で芽生え始めた新しい世界が、
確かに告げていた。
“ここからが始まりだ”と。




