42.管制室の出来事
本船アーク・プロメテウスの管制室は、
ほんの数秒前まで勝利の空気に満ちていた。
評議会メンバーは、美穂のホログラムがノイズを走らせ、
弱々しく揺らぎ、そして――消えた瞬間、
確信したのだ。
「終わった」
「これで我々の支配は揺るがない」
アレクシスは満足げに息を吐いた。
「全く、実体を持たぬ地上メンバーごときが
我々に楯突くなどあり得んことだよ」
ミリアムもレムブラントも、
久しぶりに安堵の笑みを浮かべていた。
だが――その安堵は、
ほんの一瞬で崩れ去る。
本船エンジン、突如起動
ゴォォォォォン……!
本船の床が震え、
巨大な慣性が船体全体を揺らした。
照明が明滅し、
AIの音声が乱れる。
《警告:主推進機関、起動》
《軌道変更が開始されました》
アレクシスが叫ぶ。
「何だ?
誰がエンジンを起動した!?」
ミリアムが端末を叩く。
「制御権が……ありません!
推進機関が外部から操作されています!」
レムブラントが蒼白になる。
「外部……?
まさか……!」
航宙監察局、登場
その時、
管制室の扉が静かに開いた。
霧のような冷気が流れ込み、
三つの影が歩み出る。
エリオット・カシアン
リュシアン・ハートレイ
サラ・ヴェルナー
八十年眠らされていたはずの
航宙監察局のメンバーが、
堂々と姿を現した。
エリオットが静かに言う。
「久しぶりだね、諸君」
アレクシスは椅子から立ち上がり、
信じられないものを見るような目で彼らを見た。
「な……なぜ目覚めている……?」
エリオットは淡々と答える。
「さて、君たちには聞かなければならんことが
いくつかあるようだ」
その声は穏やかだが、
その背後にある“正統な権限”が
評議会の心臓を冷たく締めつけた。
そして――美穂、復活
突然、管制室の中央スクリーンが光を放つ。
ノイズが走り、
消えたはずのホログラムが再び形を取り始めた。
美穂が、
まるで何事もなかったかのように微笑んでいた。
「……驚いた?」
アレクシスが震える声で呟く。
「ば、馬鹿な……
ウイルスは確実に投入したはず……!」
美穂は軽く首を振った。
「ええ、確かに“あなた達が投入したウイルス”は
私の意識を一度消したわ」
そして、柔らかく続ける。
「でも、私の“本体”は地上にあるの。
ここに映っているのは、ただの端末よ」
評議会の顔色が一斉に変わった。
降下スタッフ、集結
その瞬間、
美穂のホログラムの周囲に
次々と人影が現れた。
地上降下のために目覚めた専門家たち――
科学者、技術者、医療スタッフ、航行士。
八十年ぶりに、
“本来のクルー”が揃ったのだ。
美穂は彼らを見渡し、
静かに、しかし力強く言った。
「さあ行きましょう。
目的地は――もう、眼の前です」
その言葉は、
地上の霧と雨の中で芽生えつつある
“新しい世界”へ向けた宣言だった。




