41.航宙監察局の覚醒
霧が立ちこめる地上で世界が再生を始めるその頃、
本船アーク・プロメテウスの奥深く――
静寂に包まれていたコールドスリープ区画が、
八十年ぶりにゆっくりと目を覚ました。
美穂が最初に起こしたのは、
航宙監察局(Astral Oversight Bureau)の3名だった。
冷却霧が立ち上り、
カプセルが開く。
局長 エリオット・カシアンは、
まだ冷たい空気の中で深く息を吸い込んだ。
「……全く、評議会の連中には困ったものだ。
我々を八十年も眠らせるとは」
その声には怒りよりも、
呆れと失望が滲んでいた。
副局長 リュシアン・ハートレイが、
すぐに端末へアクセスしながら言う。
「地上降下の環境データを確認した。
問題はない。
当船団の当初の目標――
“カリュプスへの定住”がついに達成される時が来たようだ」
彼の瞳には、科学者としての純粋な喜びが宿っていた。
「眼の前にゴールがあるのに、
我々が動かないなんてありえない」
そして三人目、
政治監察担当の サラ・ヴェルナーは
すでに端末を操作し始めていた。
「評議会メンバーの不正リストを作成するわ。
もう彼らにこれ以上の罪を犯させない」
彼女の声は静かだが、
その奥には鋭い決意があった。
評議会は気づかないまま――
一方その頃、評議会は
航宙監察局の覚醒にも気づかず、
ただ一つの計画に没頭していた。
“美穂削除ウイルス”の投入。
アレクシスが言う。
「彼女の意識パターンを解読したのだな?」
ミリアムが頷く。
「ええ。このウイルスなら……
AIに融合した美穂の意識を上書きできるはずです」
レムブラントが冷たく言い放つ。
「よし。準備を進めろ。
今度こそ完全に消す」
彼らは知らなかった。
その瞬間、
すでに航宙監察局が目覚め、
本船の真実を暴き始めていることを。
そして美穂が――
地上降下のための“本来のクルー”を次々と起こし始めていることを。




