36.本船の決断
本船アーク・プロメテウスの管制室は、
レーザー照射後の熱とサージの余韻がまだ残っていた。
照明は完全には復旧せず、薄暗い中で警告灯だけが赤く点滅している。
そんな中、AIの冷たい声が響いた。
《映像、回復します》
スクリーンがノイズを走らせながら徐々に明瞭になり、
地上の熱が収まっていくにつれ、
パイロット船――パイオニア・ゼロの姿が映し出された。
そして、そこに映った光景は、
評議会の誰もが予想していなかったものだった。
「……損傷、ありません」
オペレーターが震える声で報告する。
「パイオニア・ゼロ、損傷ありません。
外装温度、正常範囲に復帰。
内部機能……むしろ活性化しています」
アレクシスが椅子から身を乗り出した。
「何が起こっている……?」
ミリアムは唇を噛む。
「レーザーが……効いていない……?」
レムブラントは拳を握りしめた。
「いや、効いていないどころか――
エネルギーを吸収している可能性がある」
管制室にざわめきが広がる。
パイオニア・ゼロ、変形開始
映像の中で、パイオニア・ゼロの外殻がゆっくりと動き始めた。
銀色の装甲がスライドし、
内部の構造が露わになり、
巨大なリング状の装置が回転を始める。
オペレーターが叫ぶ。
「パイオニア・ゼロが……変形しています!
これは……テラフォーミングモジュールの起動パターンです!」
ミリアムの顔が青ざめた。
「まずい……
例の感染症が広がる可能性がある」
アレクシスが低く呟く。
「テラフォーミングが始まれば、
地上の環境が変化し、
感染が制御不能になる……」
レムブラントが怒鳴る。
「我々の手に負えなくなる前に始末する必要がある!」
本船、再び“最終手段”へ
アレクシスは決断した。
「第2射を準備しろ。
今度こそ封鎖区域の息を止めるのだ」
オペレーターが震える声で応じる。
「は、はい……!
レーザー砲塔、再充電開始……!」
ミリアムがアレクシスに近づき、囁く。
「……アレクシス。
もしパイオニア・ゼロが本当に“吸収”しているのなら、
第2射は――」
「構わん」
アレクシスは冷たく言い放つ。
「地上を消すためのエネルギーが、
たとえ奴らの燃料になろうとも、
我々は撃つしかない」
レムブラントが頷く。
「撃てば、いずれ限界が来る。
吸収できる量には上限があるはずだ」
アレクシスは静かに命じた。
「――第2射、準備完了次第、発射しろ」
そして地上では
パイオニア・ゼロの内部で、
真帆の左腕が淡く光り続けていた。
美穂の声が、
真帆の意識の奥で囁く。
「来るわよ、真帆。
今度はもっと強い一撃が」
真帆は息を呑む。
「どうすれば……?」
「大丈夫。
パイオニア・ゼロはもう“眠っていた巨人”じゃない。
――今は、完全に目覚めている」




