32.評議会の覚醒
本船アーク・プロメテウス:管理評議会の覚醒
冷たい霧がコールドスリープ・ポッドの内部から立ち上り、
ゆっくりと蓋が開いた。
アレクシス・ヴァルマーは、
長い眠りから覚めたばかりの目を細めながら、
AIの警告ログを確認した。
「……またか。
再び管理領域に侵入するとは。
全く、厄介な存在だな、彼女は」
隣のポッドから起き上がったミリアム・コルサが、
まだ冷たい声で応じる。
「おかしいわね。
彼女の意識は残っていなかったはずよ。
抜け殻はともかく、中身の消滅は確認したでしょう?」
レムブラントが、軍務用の端末を操作しながら答えた。
「ええ。前回の侵入時、
彼女の身体から“美穂のパターン”は完全に消えていました。
AIも同じ判断を下しています」
アレクシスは眉をひそめた。
「では、なぜ再び侵入が起きる。
こうなるのであれば、抜け殻の方も厳重に始末すべきだったのではないか?」
ミリアムは唇を噛んだ。
「それについても、計画通り実行されています。
……ですが」
「ですが?」
アレクシスの声が鋭くなる。
ミリアムは、信じがたい報告を読み上げた。
「考えられないことですが――
戦闘用ロボットがホライズンに紛れ込んでいたようです」
レムブラントが机を叩いた。
「馬鹿な!
あれは本船にしかない機密兵器だぞ!」
「どうやら、左腕パーツのみが持ち去られたようです。
おそらく……八十年前に」
室内の空気が凍りついた。
アレクシスは、ゆっくりと椅子に沈み込んだ。
「……八十年前。
ホライズンの墜落の時か」
ミリアムが震える声で続ける。
「しかし、ホライズンの関係者は――
子供以外、すべて処分したはずです。
なぜそんなことが……」
レムブラントは、静かに答えた。
「――子供、か」
アレクシスが顔を上げた。
「まさか……」
レムブラントは頷いた。
「あの時、生き残った子供が一人いた。
望月朔太郎だ」
ミリアムが息を呑む。
「彼が……左腕パーツを?」
「可能性はある。
あの混乱の中なら、誰にも気づかれずに持ち出せた」
アレクシスは、ゆっくりと結論を口にした。
「つまり――
美穂の意識は消えていなかった。
“左腕”に宿ったまま、生き延びたということか」
ミリアムは震える声で言った。
「そして今、その左腕は……
別の“器”に取り付けられている」
アレクシスは、真帆の存在を思い浮かべた。
「……厄介なことになったな」




