30.80年前の事故の真相
封印区画の薄暗い空気の中で、朔太郎の語る“八十年前の真実”は、
ただの歴史ではなく、今も続いている“現在進行形の罪”として真帆の胸に重く沈んでいった。
ホライズンは“事故”ではなく“処分”だった
「連絡船ホライズンは……本船の工作で失われた」
朔太郎の声は、静かだが揺るぎなかった。
「事故なんかじゃない。
本船のリーダーたちは、感染の恐怖に飲まれ、
“地上から帰ってきた者たち”を危険因子と見なしたんだ」
真帆は息を呑む。
「……だから、帰還直後に?」
「そうだ。
ホライズンは、着陸の直前に“制御不能”になった。
だが、あれは故障じゃない。
本船側の遠隔操作で、墜落させられたんだ」
朔太郎の目は、八十年前の炎を見ているようだった。
テラフォーミング計画の中断
「パイロット船の本来の役割は、地上のテラフォーミングだ。
大気調整、微生物制御、地表改良……
本船が降りてくるまでの“橋渡し”をするはずだった」
「でも……」
「事故のどさくさで、全部中断された。
パイロット船の中枢機能の一部は破壊され、
本船は地上を“隔離区画”として扱い始めた」
真帆は、センターコアの朽ちた壁を見つめた。
……本来なら、この場所は“未来の都市”の核になるはずだった。
本船の罪と沈黙
「本船のリーダーたちは、自分たちの犯した罪を認められない。
感染の誤認、仲間の処分、地上の切り捨て……
どれも取り返しがつかない」
朔太郎は空を見上げた。
「だから沈黙している。
謝罪も救助もできない。
ただ、観察し続けるしかないんだ」
「……数万の移民は?」
「未だにスリープ状態だろう。
来るべき“入植の日”を待ちながらな」
真帆は胸が締めつけられた。
彼らは、永遠に来ない“入植の日”を夢見て眠り続けている。
疑心暗鬼と粛清
「本船では、感染の恐怖がクルー同士の疑心暗鬼を生んだ。
“感染しているかもしれない”というだけで、
多くの者が処分されたらしい」
「処分……?」
「記録は消されているがな。
美穂さんは、その痕跡を見つけたんだろう」
真帆の義手が、かすかに熱を帯びた。
パイロット船の機能喪失
「パイロット船の一部機能は破壊されたままだ。
連絡船もない。
つまり、地上から本船へ行く手段はない」
「じゃあ……相互に影響を与えるには?」
「通信回線を使ったシステムハッキングくらいだな。
本船のAIに干渉できれば、状況は変わるかもしれん」
真帆は眉をひそめた。
「でも……この封鎖された端末から、どうやって事件を?」
朔太郎は、意味深に微笑んだ。
「それを知っているのは――
美穂さんと、あんたの“腕”だけだろう」
真帆は息を呑んだ。
義手の内部で、
何かが微かに動いた気がした。
真帆の疑問が“次の扉”を開く
……この端末は封鎖されている。
なのに、どうして事件が起きている?
誰が、どこから、何を操作している?
その疑問は、
美穂が最後に残した“謎”と同じだった。
朔太郎は静かに言った。
「真帆さん。
あんたはまだ気づいていないようだが……
その義手は“鍵”なんだよ」
真帆の心臓が跳ねた。
「鍵……?」
「美穂さんが最後に触れた端末。
その時、何が起きたのか……
あんたの中に残っているはずだ」
封印区画の奥で、
古い端末がかすかに光った。




