24.真帆の疑念
真帆が日記を読み返すたび、
“美穂”という人物の輪郭が、
ただの他人の記録ではなく、
この星の謎そのものに繋がる伏線として浮かび上がっていく。
そして今回読み返したページは、
まるで美穂が「死の直前に気づいていた真実」を
そっと残していたかのようだった。
美穂の心の変化、絶望から“疑念”へ
日記の前半は、
仕事に没頭することで自分を保とうとする女性の姿だった。
政略結婚への諦め
啓介の不倫に気づきながらも、感情を押し殺す日々
仕事だけが自分を保つ唯一の支え
しかし、ページをめくるごとに、
その感情は静かに変質していく。
怒り → 疑念 → 恐怖
美穂は、
夫婦生活の絶望よりも、
“プロジェクトそのもの”に疑問を抱き始めていた。
パイロット船の役割と、説明のつかない“沈黙”
日記には、こう書かれていた。
パイロット船は80年前に降り立った
本船を含む船団は数万人規模
この星が移住可能かどうかを判定するための先遣隊
本船は軌道上で待機し、パイロット船の報告を待つはずだった
ここまでは、
“開拓史の教科書”に載っているような話だ。
だが、美穂は疑問を抱いた。
「なぜ本船は、80年経っても何の決定もしないのか?」
「なぜ私たちは、半ば見捨てられたように地表に置き去りにされているのか?」
本船は沈黙している。
通信は断続的で、返答は曖昧。
まるで“意図的に距離を置いている”ように。
美穂は、
その沈黙に“悪意”を感じ始めていた。
真帆の胸に広がる違和感
真帆は日記を閉じ、
深く息を吐いた。
……これはただの愚痴じゃない。
美穂は“何かに気づいていた”。
そしてその“何か”が、
彼女の死に繋がっている。
80年も判断を下さない本船。
地表に取り残されたパイロット船の子孫たち。
センターコアの朽ち果てた姿。
本船との秘匿通信。
二度の襲撃。
すべてが一本の線で繋がり始める。
真帆の中で生まれる“恐ろしい仮説”
もしかして――
本船は、私たちを見捨てたのではなく、
“隔離”しているのでは?
この星に、何かあるのでは?
あるいは、私たち自身が……?
その仮説は、
あまりにも恐ろしく、
真帆はすぐに頭を振って追い払った。
……これはおとぎ話。
そう思っておけばいい。
そう思わなければ、
心が壊れてしまう。
しかし、日記の最後の一文が刺さる
美穂はこう書いていた。
「本船は、私たちを“観察”している。
判断を下すつもりがないのではなく――
“判断できない”のだ。」
真帆は、
その意味をまだ理解できない。
だが、
美穂が死の直前に抱いていた恐怖が、
確かにページの隙間から滲み出ていた。




