22.「あなた、美穂さんではないわね」
玲奈の言葉は、診察室の空気を一瞬で変えた。
それは医師の口調ではなく、研究者が未知の現象に触れたときの声だった。
玲奈はカルテを閉じ、真帆をまっすぐ見つめた。
「あなたは、どうやら美穂さんではない。
これは私の“医学的な”見立てよ」
真帆は息を呑んだ。
だが、否定する気にはなれなかった。
玲奈は続ける。
「単刀直入に聞くわ。
あなた、この星のこと……どれくらい知っているの?」
「ここ、地球じゃないんでしょう?」
真帆は、あっさりと言った。
「さっき小春から聞いたわ。
ここ、地球じゃないんでしょう?」
その言葉に、
玲奈の目がわずかに揺れた。
真帆は気づかない。
だが玲奈は、
“地球”という単語に強く反応していた。
「あなた、地球から送り込まれたの?」
玲奈は、半ば独り言のように呟いた。
「あなた……地球から送り込まれたの?
でも、そんなはずはない。
我々の技術力では、地球に戻るどころか、
この船団に追いつけるはずもないのに」
玲奈は眉間に皺を寄せ、
自分の思考の複雑さに気づいた。
……これは、想定していたよりもずっと厄介な事態だわ。
「地球は、私たちの出発点よ」
玲奈は、タブレットを操作しながら言った。
「あなたの言う“地球”は……
私たち船団の出発点だったらしいわ」
真帆は目を見開いた。
「だったらしい……?」
「ええ。
私たちが生まれるずっと前の話よ。
地球は“神話”に近い。
データ上でしか存在を確認できないの」
玲奈は淡々と言うが、
その声にはわずかな興奮が混じっていた。
「あなたのように“地球”を当たり前のように語る人間なんて、
この船団には存在しないはずなのよ」
真帆の存在そのものが“異常”
真帆は、
自分の胸の奥が冷たくなるのを感じた。
私は……地球から来た。
でも、この世界の人たちは、地球を“歴史の彼方”としてしか知らない。
じゃあ私は……
どうやってここに来たの?
玲奈は、真帆の沈黙を読み取った。
「あなたの存在は……
この船団の歴史に、ありえない“矛盾”を生んでいる」
そして、玲奈は核心に触れる
「真帆さん。
あなたがここにいる理由は、
“偶然”ではないわ」
玲奈は真帆の左腕――銀色の義手を見つめた。
「その義手。
そしてあなたの脳波。
美穂さんの死。
二度の襲撃。
本船の秘匿通信」
玲奈は静かに言った。
「あなたは――
この船団の“禁忌”に触れてしまったのよ」




