18.星の名前は
岬の風が止まり、世界が音を失ったように静まり返った。
小春の言葉は、
真帆の“地球という前提”を一撃で粉砕した。
「ここはプロキシマ・ケンタウリにあるフランティア32」
小春は本当に、当たり前のことを言うように続けた。
「人類がここに降り立ったのは80年前なんだって」
真帆の頭は、
理解を拒むようにぐらぐら揺れた。
プロキシマ・ケンタウリ?
地球から4光年先の恒星系?
そこに“降り立った”?
80年前?
まるでSF映画の設定を聞かされているようだった。
だが、目の前の赤い太陽は――
確かにプロキシマの光に似ている。
そして、
岬の先に広がる“世界の終端”は、
地球の風景ではありえない。
閉ざされた世界
真帆は、足元が崩れるような感覚に襲われた。
ここは……宇宙の果ての、
逃げ場のない閉ざされた世界。
まるで監獄みたい。
息が浅くなる。
胸が締めつけられる。
そんな真帆の手を、
小春がぎゅっと握った。
「お母様、センターコアに行きましょう」
“センターコア”――遺跡のような心臓部
小春に連れられて歩くと、
町の外れに巨大な構造物が現れた。
それは――
遺跡だった。
80年という時間が、
金属の外殻をくすませ、
壁にはひびが入り、
ところどころ植物が絡みついている。
しかし、
その中心には確かに“人工物の威圧感”が残っていた。
巨大な円柱状の塔。
崩れかけた外壁。
かつては光っていたであろうパネルの残骸。
小春が言った。
「ここが“センターコア”。
フランティア32の心臓部なんです」
真帆は息を呑んだ。
ここが……宇宙船の中枢?
でも、どうしてこんなに朽ちているの?
80年で、こんなにボロボロになるもの?
真帆の混乱は極限に達する
私は地球で事故に遭ったはず。
なのに、どうしてプロキシマ・ケンタウリにいるの?
どうやってここに来たの?
誰が連れてきたの?
そもそも、私は“誰の身体”にいるの?
美穂の日記にあった“船団本部”って……
まさか、この宇宙船のこと?
頭がクラクラする。
視界が揺れる。
小春は心配そうに見上げた。
「お母様、大丈夫ですか?」
真帆は、
小春の小さな手を握り返した。
その温もりだけが、
この世界で唯一の“現実”だった。
そして、センターコアの奥で――
風が吹き抜け、
古びたパネルがかすかに光った。
ほんの一瞬。
真帆の左腕――LM-01A1が微かに反応した。
まるで、
「ここに来たのは正しい」
と告げるように。




