17.岬のある世界
岬の先に広がる“何もない世界”は、
真帆にとってただの風景ではなく、
現実そのものが揺らぐ境界線だった。
岬の先の“終わり”
小春に案内されて歩いた町は、
どこか懐かしいようで、どこか作り物めいていた。
小さな商店
古い診療所
低い家々
そして、どこまでも続く赤い光
だが、岬に立った瞬間、
その“日常の皮”が剥がれ落ちた。
岬の先には――
本当に、何もなかった。
海もない。
地平線もない。
ただ、灰色の大地が途切れ、
その先は“空間の空白”のように見えた。
真帆は息を呑んだ。
「……どういうこと?
ここ、世界の端みたいじゃない」
小春の“当然”が、真帆の常識を壊す
真帆が呆然と立ち尽くしていると、
小春が首をかしげた。
「お母様?
この町はここまでしかありませんよ」
まるで、
「今日はいい天気ですね」
と言うような自然さで。
真帆は混乱した。
町がここまで?
じゃあ、この先は何?
どうして世界が途切れているの?
環境破壊?
核戦争?
地球温暖化の末路?
そんな言葉が頭を駆け巡る。
「地球は……こんな姿になってしまったの?」
真帆の呟きに、
小春はさらに不思議そうに首を傾げた。
「お母様、ここは地球じゃありませんよ」
小春は、
本当に“当たり前のこと”を言うように告げた。
「お母様、ここは地球じゃありませんよ」
その瞬間――
真帆の思考が完全に止まった。
風の音も、
赤い太陽の光も、
小春の声も、
すべてが遠くなる。
ここは……地球じゃない?
じゃあ私はどこにいるの?
美穂の日記にあった“船団”って……
まさか、本当に宇宙船のこと?
この町は……宇宙船の一部?
じゃあ、あの“世界の端”は……
船の外壁?
真帆の膝が震えた。
小春の無邪気さが、逆に恐ろしい
「お母様、どうしたの?」
小春は心配そうに手を握ってくる。
その手は温かい。
現実の温度がある。
でも――
その温かさが、逆に恐ろしかった。
私は……本当に“別の世界”に来てしまったの?
ここは地球じゃない。
じゃあ、私はどこで目覚めたの?
そして――
美穂は何を知っていたの?
真帆の中で、世界が音を立てて崩れ始める
赤い太陽。
荒れた大地。
世界の端。
船団という言葉。
美穂の日記。
銀色の義手。
すべてがひとつの線で繋がり始める。
ここは“村”じゃない。
ここは“宇宙船の中の一画”なんだ。
私は……宇宙船の中で目覚めた?
真帆は呆然と空を見上げた。
赤い太陽は、
まるで“真実を隠すための照明”のように弱々しく輝いていた。




