16.一人きりの部屋で
美穂の部屋で、ひとりきり
小春が学校へ行き、啓介も仕事に出たあと、
家の中は急に広く、静かになった。
真帆は美穂の部屋に戻り、
机の上に広げた日記を見つめた。
ページをめくるたびに、
胸の奥がざわつく。
「……ここ、本当に“未来”なの?」
赤い太陽。
荒れた大地。
どこか薄暗い空気。
地球の未来がこうなるのか、
それとも――
ここはそもそも地球ではないのか。
そんな考えが頭をよぎる。
日記に書かれた“未来の言葉”
日記には、真帆の知らない単語が並んでいた。
船団本部
ピケットベース
外殻維持班
赤色矮星の観測データ
第七区画の再調整
「船なんてどこにもないのに……船団?」
窓の外には、ただ荒涼とした大地が広がっているだけ。
海もない。
港もない。
宇宙船の影すら見えない。
なのに、美穂の日記は“宇宙船の中の生活”を前提に書かれている。
「……どういうことなの?」
真帆の胸に、じわりと不安が広がった。
美穂は科学者だった
日記の後半には、
美穂が関わっていた研究の断片が書かれていた。
外殻振動の異常
本部の隠蔽
乗員の失踪
“敵”の存在
そして、左腕に関する謎のメモ
「とても……私にはできそうにない」
真帆は日記を閉じ、
深く息を吐いた。
自分はただの会社員。
研究なんてしたこともない。
ましてや宇宙船のトラブルなんて、想像すらできない。
美穂の人生は、
あまりにも遠い。
自信が揺らぐ
「私……この世界でやっていけるのかしら」
美穂の夫。
美穂の家。
美穂の仕事。
美穂の秘密。
そして――
美穂の“死”。
真帆は、
自分が背負ってしまったものの重さに押しつぶされそうになった。
しかし、ひとつだけ確かなことがある
そのとき、
玄関のほうから小さな足音が聞こえた。
小春が帰ってきたのだ。
「……あの子の前では、弱音を吐けないわね」
真帆はそっと日記を閉じ、
深呼吸をした。
美穂の役割はできない。
科学者にもなれない。
宇宙船のこともわからない。
でも――
小春の“母”なら、できるかもしれない。
その小さな確信だけが、
真帆を支えていた。




