15.「町を見たいわ」と美穂は言った
朝の光がまだ弱々しく赤みを帯びている。
この世界の“太陽”は、どうしてこんなにも頼りなく見えるのだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、真帆はパンをちぎって口に運んだ。
「町を見たいわ」
朝食の席で、真帆はふと口にした。
「町を見たいわ」
啓介はコーヒーを置き、少し驚いたように目を上げた。
「そうだね。次の休日に一緒に町を回ろう。
ゆっくり案内するよ」
その声は穏やかで、どこか安心させる響きがあった。
真帆は、まだ彼を完全に信じてはいないけれど、
この“穏やかさ”が嘘ではないことだけは感じ取れた。
小春の申し出
「お母様」
小春が、真帆の顔を覗き込むようにして言った。
「今日は私が近所を案内します」
その目は期待で輝いていた。
“母親と一緒に歩ける”という喜びが、隠しきれないほどに。
真帆は自然と微笑んだ。
「そうね。お願いしようか」
小春はぱっと顔を明るくし、
まるで花が咲くように嬉しそうに頷いた。
「まずは学校でしょう?」
「さぁ、まずは学校でしょう?」
真帆がそう言うと、
小春は嬉しさと緊張が混ざったような表情で頷いた。
啓介は二人を見て、
どこか安心したように微笑んだ。
「行ってらっしゃい、小春。
美穂……無理はしないでね」
真帆は軽く手を振り、
二人を見送った。
小春の新しい生活を思う
玄関の扉が閉まると、
家の中は静かになった。
真帆はふと、
小春の小さな背中を思い出した。
新しい学校。
新しい家。
新しい“母親”。
あの子は、どれだけの不安を抱えているのだろう。
……大変よね、小春ちゃん。
真帆は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
美穂ではない。
母親になったこともない。
でも――
あの子を守りたい。
そんな気持ちが、
静かに芽を出し始めていた。




