13.夕暮れのキッチン
夕暮れの弱い赤い光が差し込むキッチンで、
真帆はまな板の上の野菜を見つめながら、
頭の中で“事件の地図”を組み立てていた。
啓介は犯人ではない――その直感
「この小さな村だ、そんなことをする人間に心当たりはない。
気のせいだろう」
啓介はそう言ったが、
その声には後悔が滲んでいた。
美穂の話を、もっと真剣に聞いていれば。
その悔恨は、嘘ではない。
真帆はそれを感じ取った。
この人は、怪しいけれど“悪意”の匂いがしない。
もし犯人なら、もっと別の態度を取るはず。
会社員として、
“人を見る目”だけは鍛えられてきた。
啓介は、犯人ではない。
少なくとも、そう思えた。
では、佳奈はどうか?
さっき路地で見た佳奈の表情――
あれは、嘘をつく人間の顔ではなかった。
あの人が本当に家を乗っ取るつもりなら、
私が倒れたと聞いた時点で啓介に迫るはず。
でも佳奈は、
小春の幸せを祈るように見つめていただけだった。
じゃあ、誰が美穂を狙ったの?
真帆の中で、
犯人像は霧の中のままだった。
小春の声が、思考を止める
「お母様」
小さな声が、真帆の背中を引っ張った。
振り返ると、
小春がエプロンを握りしめて立っていた。
「私、晩御飯の準備のお手伝いがしたいのです」
その目は、
“母親に認められたい”という純粋な願いでいっぱいだった。
真帆は、ふっと笑った。
「そうね。お願いしようか」
小春の顔がぱっと明るくなる。
“母親になる”という役割が、真帆を変えていく
包丁を握る真帆の左腕――
金属の義手は、まだ冷たい。
でも、
小春が横で野菜を洗う姿を見ていると、
その冷たさが少しだけ薄れていく気がした。
私は美穂じゃない。
でも、この子の“母”であることは……悪くない。
その感情は、
真帆自身も予想していなかったものだった。
そして、事件の影は静かに迫る
真帆が小春と並んで夕食を作るその瞬間、
家の外の暗がりで、
誰かが静かに立ち止まっていた。
その視線は、
真帆の左腕――LM-01A1――に向けられている。
まるで、
「それは本来、私のものだ」
と言わんばかりに。




