表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の移民船団  作者: バッシー0822


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/27

1.春の桜並木と、40代の孤独の影

桜は満開だった。

風が吹くたび、花びらがスクーターの前を横切る。

まるで誰かが「まだ大丈夫だよ」と言ってくれているみたいに、優しい。


でも、胸の奥は重い。


佐伯真帆はハンドルを握りながら、

自分でも気づかないほど小さくため息をついた。


人並みにモテた、と思いたい。

実際、告白されたこともあった。

断ったことだってある。

あの頃は、まだ未来が広がっている気がしていた。


けれど、あれはもう遠い昔の話。


最近は、

会社でも、街でも、飲み会でも、

男の視線が自分を素通りしていくのが分かる。


「あ、もう私は“対象外”なんだな」


そんな現実を、

誰にも言えないまま飲み込んできた。


高望みなんてしていない。

ただ、普通に誰かと笑って、

普通に暮らして、

普通に歳を取りたかっただけ。


なのに気づけば、

周りは結婚して、子どもがいて、

家族の話をするのが当たり前になっていた。


真帆はスクーターを少しスピードアップさせる。

風が頬を撫でるけれど、

その冷たさが逆に胸に沁みる。


「私は、一体これからどうなるんだろう」


その言葉が、

桜の花びらのようにふわりと心に落ちる。


そして、

喉の奥まで出かかっている言葉を、

必死に飲み込む。


「こんなはずじゃなかった」


言ってしまったら、

何かが壊れてしまいそうで。


ひらひらと舞い散る桜の花びらの中を、

真帆は電動スクーターでゆっくりと走っていた。


春の匂い。

少し冷たい風。

遠くで子どもたちの笑い声。


その全部が、

「まだ大丈夫だよ」と言ってくれているようで、

真帆はほんの少しだけ、胸の痛みが和らぐ気がした。


けれど、次の瞬間。


風が変わった。


ざわり、と桜並木が揺れ、

花びらが一斉に舞い上がる。


まるで、

桜そのものが壁になって迫ってくるような――

そんな異様な光景。


「え……?」


言葉にならない声が喉に引っかかった瞬間、

その“桜の壁”は形を変えた。


車だった。


ブレーキ音も、クラクションもない。

ただ、静かに、しかし確実に迫ってくる質量。


あ、と思う暇もなく、

真帆の身体は宙に浮いた。


世界が反転する。

桜の花びらが逆さまに舞う。

空が近づき、地面が遠ざかる。


その一瞬だけ、

真帆は奇妙な感覚に包まれた。


――あれ、私、死ぬのかな。


でも、怖くはなかった。

むしろ、どこかで諦めに似た静けさがあった。


「こんなはずじゃなかった」


その言葉が、

桜の花びらと一緒にふわりと舞い上がる。


そして、

そこで記憶は途切れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ