モテない俺が留学先でハーレムを作る
俺は佐藤直哉二十歳。趣味はゲームと漫画、特技は……特にない。
要するに、どこにでもいる平凡な大学生だ。
そして、平凡なだけならまだしも――俺には一つ、切実な悩みがある。
モテない。
いや、正確に言うなら。
これまで一度も告白されたことがないし、告白したこともない。
高校時代、女子とまともに話した回数は数えるほどしかない。
合コンに誘われても壁の花。
飲み会でも、空気。
友人からは「お前は真面目すぎるんだよ」と言われるが、どう直していいかすら分からない。
そんな俺が、なぜか今…留学を決意していた。
「……英語、喋れるようになりたいしな」
と、表向きはそう言っている。
けれど、本音は少し違う。
――このままじゃ、何も変わらない。
――環境を変えれば、俺も少しは変われるかもしれない。
そんな淡い期待と、自分でも笑ってしまうほどの打算が混じっていた。
親には「将来に役立つ経験になる」と言って説得した。
バイトで貯めた金をつぎ込み、足りない分は奨学金を借りることにした。
決して軽い決断じゃない。
でも、心のどこかでこう思っている。
「もしかしたら……俺にも、青春らしいことができるんじゃないか」
月日が過ぎ高校卒業。そうして迎えた、出発の日。
成田空港。
チェックインカウンターに並ぶ俺は、期待と不安で胃が痛くなっていた。
本当に大丈夫かよ…知り合い1人いない土地で…
隣ではカップルらしき男女が仲良く手を繋ぎ、英語で会話している。
それを見ただけで、劣等感が胸を締めつけた。
「はぁ……俺に、そんなこと、できるのかよ」
まだ何も始まっていないのに、弱気な言葉が漏れる。
だが同時に、心の奥で小さな炎が灯っていた。
――それでも、俺は変わりたい。
――この留学で、何かを掴みたい。
俺の平凡でモテない人生は、今、大きな転機を迎える。はずだ。
「直哉!行ってらっしゃい!」
「行ってきます!!」
両親が最後まで見送ってくれた。
飛行機に乗るのは二度目だった。
一度目は高校の修学旅行で北海道に行ったとき。だから十数時間も乗る国際線なんて初めてで、最初から緊張で体がこわばっていた。
映画を観ようとしても字幕の英語が頭に入ってこないし、機内食も正直あまり口に合わなかった。
隣に座っていた外国人の男性に話しかけられても、単語しか聞き取れなくて曖昧に笑うしかない。
「やっぱり、俺、英語…外国なんて無理だったんじゃ……」
心の中で弱気になりながら、それでも「ここで逃げたら意味がない」と自分を叱咤する。
そして十数時間後、ようやく飛行機が目的地の空港に到着した。
――アメリカ。
見渡す限り広い空、整然と並ぶ建物、そして行き交う人々の大きな声。
すでに空港の中から文化の違いが肌に突き刺さってくるようだった。
入国審査では、質問の英語が半分も理解できず、冷や汗をかきながらパスポートを差し出した。
「日本から来ました、留学生です」と必死に伝えると、審査官は「OK」と無表情でスタンプを押す。
それだけのやり取りなのに心臓がバクバクしていた。
荷物を受け取って出口へ向かうと、留学先の大学から来てくれたという迎えのバスが待っていた。
他にもアジア系やヨーロッパ系の学生がいて、みんな自信ありげに英語で話している。
その中で俺は一人、黙り込んで縮こまっていた。
「はぁ……これから大丈夫かな」
不安しかなかった。
それでもバスに揺られて数時間後、大学のキャンパスへ到着した。
広い敷地に並ぶ煉瓦造りの建物。芝生の上で寝転がる学生たち。日本の大学ではあまり見ない自由な雰囲気がそこにはあった。
「ここで……頑張るんだな」
そう小さく呟いたときだった。
「Hi! You must be Naoya, right?」
突然、明るい声が耳に飛び込んできた。
振り向くと、そこにはブロンドの髪を揺らす女性が立っていた。
背は俺より少し低いくらい。青い瞳が陽光を反射して輝いている。
にっこり笑う顔は、いかにもアメリカ人らしい開放的な雰囲気をまとっていた。
「あ、あの……えっと……」
名前を呼ばれて慌てる俺。すると彼女はさらに笑顔を深めた。
「I’m Emily. Nice to meet you!」
彼女はそう名乗って、ためらいなく俺の手を取った。
柔らかい感触に驚いて固まる俺。
「え、あ、ナイス……トゥー……ミーチュー」
舌がもつれて情けない英語になったが、エミリーは楽しそうに笑った。
その笑い方は決して馬鹿にしているわけではなく、むしろ「大丈夫だよ」と励ましてくれているようだった。
「Don’t worry. Your English is cute!」
彼女の言葉をすべて理解できたわけじゃない。けれど「可愛い」と言われたことだけは分かる。
顔が一気に熱くなった。
「か、可愛いって……俺が……?」
日本で数十年年生きてきて、女の子にそんなことを言われたのは初めてだった。
その瞬間、俺の胸の奥で何かが弾ける音がした。
異国の地で、最初に出会った女の子。
彼女の笑顔は、慣れない土地に立つ俺の心を一瞬で明るく照らしていた。
「えっと……エミリー……?」
名前を呼ぶと、彼女は嬉しそうにうなずいた。
「Yes! Friends?」
差し出された手に、俺は少し迷ってから、自分の手を重ねた。
その温もりが、これから始まる新しい日々の象徴のように感じられた。
――モテない俺が、留学先で最初に出会った女の子。
その笑顔は、俺の未来を大きく変えることになる。
大学での生活は、思っていた以上に慌ただしかった。
ーーーーーーーー
初日はオリエンテーション。
学生証の写真を撮り、キャンパスの案内を受け、授業の登録方法を説明される。
やることが山のようにあって、英語が苦手な俺は一つひとつに時間がかかった。
「Naoya, this way!」
そんなとき、何度も俺を助けてくれたのがエミリーだ。
彼女は同じ学部の学生で、留学生をサポートするボランティアもしているらしい。
明るくて誰とでもすぐ打ち解けるタイプ。
俺の拙い英語も根気強く聞いてくれて、分からない単語は丁寧に言い換えてくれる。
正直、ありがたかった。
もし彼女がいなかったら、初日だけで心が折れていたかもしれない。
「Thanks, Emily. You help me a lot」
ぎこちない発音で伝えると、彼女は嬉しそうに笑った。
「Of course! We’re friends, right?」
そう言って肩をポンと叩いてくる。
その距離感の近さに、俺はまた心臓が跳ね上がった。
* * *
数日後。
授業が始まると、クラスメイトとの交流も増えた。
講義の内容を聞き取るだけでも必死だが、隣の学生にノートを見せてもらったり、質問されたりする。
少しづつコミュニケーション取りやすくなってきた。聞き取る力がついてきたのだろうか。
「ねぇ…あなた日本人なの?」
振り向くと、長い黒髪を後ろで束ねた女性がこちらを見ていた。
褐色の肌と大きな瞳が印象的だ。
自己紹介によれば、彼女の名前はソフィア。スペインからの交換留学生だという。
「え、あ、はい。Japan… from Japan」
「本当!!?私日本のアニメが好きなのよ!なんだけメンマだっけ?忍者の…」
彼女は無邪気に笑った。
その表情にはどこか挑発的な色気もあって、思わず視線を逸らしてしまう。
ソフィアもとにかく距離が近い。質問を重ねてくるし、俺の肩や腕に平気で触れてくる。
文化の違いなのか、彼女自身の性格なのか――日本でこんな女性に迫られた経験はなかった。
「You’re shy, but… cute」
またその単語。可愛い。
頬が熱くなる。
ーーーーーーーー
さらに別の日。
図書館で英語の参考書とにらめっこしていた俺に声をかけてきたのは、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女子学生だった。
「すみません、あなたもミラー教授のクラスだったよね?」
「え、あ……そうだよ。俺は直哉」
彼女は**リーアン**と名乗った。中国系アメリカ人で、真面目で成績優秀らしい。
会話はどこかぎこちないが、彼女の英語ははっきりしていて聞き取りやすい。
「もしよかったら、一緒に勉強しない?」と提案され、俺は思わずうなずいた。
机を並べて勉強すると、彼女は根気よく文法を教えてくれる。
ソフィアやエミリーのような派手さはないが、落ち着いた時間が心地よかった。
「You’re working hard. I like that」
彼女がそう呟いたとき、胸がじんわり温かくなった。
ーーーーーーーーーー
――気づけば、俺の周りにはいつも誰かがいた。
エミリーの明るさ。
ソフィアの情熱。
リーアンの知的な優しさ。
モテなかったはずの俺が、異国の地で少しずつ「違う自分」になっているような気がする!
ただ、それがこの先どれほど大きな波乱を呼ぶのか――このときの俺はまだ知る由もなかった。
どこにいくにも三人のうち誰かがついてきてくれた。
そうして留学生活にも少しずつ慣れてきた頃、俺はキャンパスのカフェテリアで思わぬ再会を果たした。
「……佐藤くん?」
振り返ると、黒髪のロングヘアに落ち着いた雰囲気をまとった女性が立っていた。
どこか懐かしいイントネーションの日本語。その瞬間、俺の胸は大きく跳ねた。
「み、美咲先輩……!」
彼女の名前は高橋美咲。
高校の先輩で、俺と同じ学部に所属していた。
学内で顔を合わせたことはあったが、こうしてちゃんと話すのは初めてだった。
「まさか同じ大学に来てたなんてね。びっくりした」
「はい……俺も驚きました」
異国での日本語は、不思議なほど心を落ち着かせる。
緊張で固まっていた肩がすっと軽くなった気がした。
「留学は慣れた?」
「えっと……正直、まだ全然です。授業も大変だし、友達づくりも……」
弱音を漏らすと、美咲先輩は優しく微笑んだ。
「大丈夫。最初はみんなそうだよ。私も一年前は泣きそうだったし」
その言葉が、妙に胸に沁みた。
エミリーやソフィア、リーアンとは違う。
彼女の落ち着いた声は、日本での生活をそのまま切り取ってきたような安心感を与えてくれた。
「困ったことがあったら、遠慮なく相談してね。私、一応“先輩”だから」
「ありがとうございます、本当に……」
ーーーーーーーーー
その後も、美咲先輩とは何度か顔を合わせるようになった。
授業の合間に日本語で雑談したり、必要な書類を一緒に手続きしたり。
彼女の存在は、俺にとって「母国とのつながり」そのものだった。
ある日、キャンパスを歩いていると、エミリーが駆け寄ってきた。
「ナオヤ!ランチ食べに行こ!」
元気いっぱいに手を引かれ、俺はそのままカフェテリアへ。
そこにはすでにソフィアとリーアンが座っていた。
「ナオヤ。ここの座って!」
エミリーが席まで誘導してくれた。
「ナオヤこんにちは。あなたの為に席を取っておきましたよ」
ソフィアが椅子をポンポンして手招きしている。
「ランチ後に勉強しましょ?いいですか?」
リーアンは先にご飯を食べながら勉強してた。
三人から同時に声をかけられ、俺は目を白黒させた。
そして、そこへ偶然現れたのが美咲先輩だった。
「……佐藤くん、人気者だね」
少し困ったように笑う彼女。
その声に、エミリーたちが一斉に視線を向けた。
「え、貴方誰?」
「貴方ナオヤの何?彼女じゃないわよね?」
ざわめくテーブル。
俺は慌てて手を振った。
「ち、違います! 彼女は日本の先輩で……!」
だが、ソフィアの瞳はどこか鋭く光っていた。
「先輩……? ふーん」
その瞬間、空気がわずかに張りつめたのを感じた。
ーーーーーーー
夜、自分の部屋に戻った俺はベッドに倒れ込みながら考え込んでいた。
――俺は、どうすればいいんだろう。
日本では一度もモテなかったのに、今は複数の女の子から好意を向けられている。気がする。
嬉しいはずなのに、心の奥に不安が広がっていた。
「俺は、ちゃんと答えられるのか……?」
異国でのハーレムの芽生え。
そして、美咲先輩という安心感。
俺の留学生活は、思っていた以上に複雑な方向へ動き始めていた。
留学生活が一か月を過ぎた頃、俺の周りはすっかりにぎやかになっていた。
最初は不安だらけだったが、エミリーやソフィア、リーアン、そして美咲先輩のおかげで、毎日が慌ただしくも充実していた。
だが同時に――俺の心は大きく揺れていた。
ーーーーー
ある日の午後、キャンパスの芝生に腰を下ろしていると、エミリーが笑顔で駆け寄ってきた。
「ナオヤーー!パーティーしよ?」
突然の誘いに、俺は思わず固まる。
「パ、パーティー?」
「そう!ダンスしたり踊ったり!楽しいからいこ?」
彼女は当然のように俺の手を取る。
ドキリと心臓が跳ねた。
「でも俺、ダンスとか……」
「気にしなくていいの!」
彼女の自由さ、軽やかさ。
日本で出会ったことのないタイプの女子。
「恋愛は気楽に楽しむもの」――そんな価値観を全身で体現していた。
ーーーーーー
次の日、図書館でソフィアに会った。
「ナオヤ…私のメッセージみた?」
ぷいっと唇を尖らせる彼女。
「あ…ご、ごめん。授業で忙しくて……」
「忙しい?けど私は貴方に会いたかったの…忙しくても貴方は私を一番に選ぶのです!」
ソフィアの目は真剣だった。
彼女は冗談めかしているようで、本気で俺を独占したがっている。
「恋愛は奪い合うもの。情熱を注ぐもの」
彼女の熱い視線に、俺は圧倒されるしかなかった。
ーーーーーー
そのまた別の日。
リーアンとは勉強会をしていた。
静かな図書館の片隅、ノートに並ぶ英文。
「貴方は上達してきていますね」
「ほ、本当……?」
「ええ。貴方は一生懸命ですから。努力することが重要なのですよ。」
彼女は淡々と褒めてくれる。
目立つ言葉やスキンシップはない。
だが、心にじんわりと沁みてくる。
「恋愛は慎重に、お互いを理解してから」
彼女の姿勢は、俺にとって安心できる居場所のように感じられた。
ーーーーーーーー
そして夜、美咲先輩とカフェで話した。
コーヒーの香りに包まれながら、日本語での会話は不思議なほど心を軽くする。
「……佐藤くん、モテモテだね」
「そ、そんなことないですよ!」
「見てたら分かるよ。みんな君のこと、すごく気にしてる」
彼女の声は落ち着いている。
でも、ふと真剣な表情になった。
「恋愛ってね、その場の楽しさや勢いだけじゃなくて……相手の未来まで考えることだと思う」
未来。
その言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
エミリーの自由さ。
ソフィアの情熱。
リーアンの誠実さ。
そして、美咲先輩の大人びた視点。
みんな違う。
でも、みんな俺に向けて「想い」をぶつけてきている。
――俺はどうしたいんだ?
――どんな恋を選ぶんだ?
答えはまだ出せない。
けれど、このままでは誰かを傷つけてしまう予感だけは、強く胸を締めつけていた。
週末の夜、キャンパスで開かれた大きなパーティー。
俺はエミリーに誘われて、渋々ながら会場に足を踏み入れた。
煌びやかな照明、爆音の音楽、踊る学生たち――日本では味わったことのない空気に、ただ圧倒されるばかりだった。
「ナオヤ!こっちにきて!踊ろ!」
エミリーが手を引き、笑顔でステージに連れて行こうとする。
その瞬間。
「ナオヤ!」
鋭い声が背後から飛んできた。
振り返ると、ソフィアが腕を組んで立っていた。
彼女の表情は怒りに染まっている。
「貴方は私の一番近くにいるべきでしょ?なんで他の女と…」
「えっ……いや、その……」
場の空気が一瞬で張りつめる。
さらに、別の方向から聞き慣れた声が。
「……佐藤くん?」
リーアンだった。
少し困ったような顔で、手には教科書を抱えている。
「貴方は今日も私のそばで勉強…」
三人の視線が同時に俺に突き刺さる。
エミリーは笑顔を崩さずに、挑発的な目をソフィアに向けた。
「みんな邪魔しないでくれる?彼は私と踊るの。独占的なこと言わないでくれる?」
「独占!?貴方の方が!私はあれのことを思って」
「貴方は強引よ!彼はそういうのは好きではないはずよ!」
言い合いが激しくなっていく。
リーアンは一歩引き、静かに俺を見つめるだけだった。
その視線には「どうして嘘をついたの?」という問いが込められているようで、胸が締めつけられた。
ーーーーーー
俺は慌てて両手を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は別に……!」
だが、言葉は途中で途切れた。
ふと、パーティー会場の入口でこちらを見ている人物に気づいたからだ。
美咲先輩だった。
少し離れた場所から、ただ静かに俺たちのやり取りを見ている。
表情は穏やかだが、その瞳にはわずかな寂しさが浮かんでいた。
俺の心臓は強く脈打つ。
――これは、完全に俺のせいだ。
優柔不断に流され続けた結果、みんなを不安にさせ、傷つけてしまった。
「俺は……どうすればいいんだ……」
胸の中で呟いたその声は、爆音の音楽にかき消され、誰にも届かなかった。
ーーーーーーーー
夜の帰り道。
美咲先輩が俺を呼び止めた。
「佐藤くん……あの状況、見てて正直心配になった」
「……はい」
「誰かを本当に大事にしたいなら、ちゃんと決めなきゃダメだよ。
みんなの気持ちを利用するみたいになっちゃうから」
彼女の言葉は痛いほど正しかった。
でも、今の俺にはすぐに答えが出せない。
ただ、分かっている。
このままではいられない。
いつか必ず、ひとりを選ばなければならない――。
俺の留学生活の試練は、ようやく本格的に始まったのだ。
パーティーの翌日。
俺は重い気持ちで講義室に向かった。
周囲の学生たちは楽しげに昨日の話題をしている。だが俺だけは、昨夜の修羅場が頭から離れなかった。
――エミリーの笑顔。
――ソフィアの怒り。
――リーアンの沈黙。
そして、美咲先輩の寂しげな瞳。
「俺……最低だな」
自分の弱さを噛みしめる。
逃げてばかりで、誰ひとり守れていない。
ーーーーーーー
授業が終わった後、廊下でリーアンに声をかけられた。
「ナオヤ…」
彼女は真っ直ぐに俺を見ていた。
「昨日……嘘、ついたよね」
「……ごめん」
「私は気にしてはいないですよ」
彼女の淡々とした声が、逆に胸に響いた。
「けれど、最後はちゃんと選んでくださいね?」
その一言で、目の奥が熱くなった。
リーアンは怒っているわけではなかった。
ただ、俺の「誠実さ」を信じたいと願ってくれていたのだ。
「……ありがとう。次は絶対、ちゃんと伝える」
小さな決意を、俺は口にした。
ーーーーーーーー
昼休み。中庭で座っていると、エミリーがやって来た。
「大丈夫?あんなことになって…やっぱり怒ってる?」
少し不安そうに首をかしげる。
「いや、怒ってないよ。ただ……昨日のことはごめん」
「貴方が謝ることなんてないわ…私が悪いんだもの」
エミリーは屈託なく笑った。
だが、その笑顔の裏に、ほんの少しだけ「不安」が見え隠れするのを見逃さなかった。
彼女は自由に見えて、本当は俺に拒まれることを怖がっているのかもしれない。
「……エミリー、ありがとう」
その言葉に、彼女は嬉しそうに目を細めた。
* * *
夕方。図書館を出ると、ソフィアが待っていた。
不機嫌そうな顔。だが、目は潤んでいた。
「あの…ごめん。本当に……昨日は俺が悪かった」
「謝らなくいいです。その代わり、証明してください。貴方が私の特別だと…」
ソフィアの言葉はまっすぐで、強引に思える。
でも、それは彼女なりの「真剣さ」だと気づいた。
俺はただ頷くしかできなかった。
ーーーーーーーーーーー
その夜。
寮の近くで美咲先輩と鉢合わせた。
「佐藤くん。顔色、少し良くなったね」
「……はい。みんなと話して、少しだけ気持ちが整理できました」
「そう。なら良かった」
美咲先輩は柔らかく微笑む。
「人の気持ちを受け止めるのって大変だよ。でも、逃げないことが一番大切だから」
彼女の言葉に、胸が熱くなった。
俺はまだ誰も選べない。
でも、もう逃げないと決めた。
「……俺、ちゃんと向き合ってみます」
「うん。その言葉が聞けて安心した」
夜風が心地よく頬を撫でる。
留学生活の新たな一歩を、俺はようやく踏み出せた気がした。
みんなと過ごしていく中で、俺は決めた。
1人の女性を。
俺は彼女を中にはにある木の下に呼び出した。
「俺と正式に付き合ってはくれないだろうか。 ソフィア」
「喜んで!」
何もなかった俺が、知らない土地で青春を送る話。