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06.焚火と不器用なエルフ

今日も見に来てくれてありがとう!!応援よろしくね!

 村を出てから初めての夜を迎えた。人里離れた野営地で迎える、静かな夜だった。とりあえず俺たちは寝床を確保するため平原にテントを張った。

 焚火をするため、夕食を作るためにも俺たちは薪を集めた。火を起こすのはエルフィーナに任せて、俺は美味しい夕食を作る。まだ日が暮れ始めた頃、平原を歩き回って食材を探していると丁度いい獲物を見つけた。

 ユニコーンのように角が生えて、クロヒョウのように黒い毛皮を持ったウサギを捕まえた。エルフィーナに聞いてみると〈ノクティホーン〉と呼ばれる小型のウサギで、古くから美味な肉と良質な毛皮を持つ小動物として重宝されていたという。


 捌いてみると脂身が少なく、淡白な味がしそうな気がする。多分だが燻製にするのが一番美味しい食べ方だろう。しかし焚火で肉を焼くのはハードルが高い。鍋はあるがフライパンが無いので直火でやるのはちょっとな……

 現場に関する資格は大量に持っているが、料理に関する資格は何一つとして持っていなかった。だから煮るなり焼くなりが俺にとって一番楽だろう。


「火起こせたか?」


 俺はエルフィーナの方を向いて聞いた。ウサギの解体から既に三十分以上が経った。とっくに焚火は出来上がっているだろう。


「何してんの……?」


 未だ火を起こせずにいたエルフィーナを見て、怒りといった感情は湧いてこなかった。むしろ、俺がウサギを解体していた間何をしていたのか疑問に思った。


「だってぇ……いくら擦っても火がつかないから!」


 いや魔法を使えよ。木を簡単に切断出来るくらいだし、火も楽々起こせるだろ。

 それとも……ツンデレみたいなのが発動したのか?

 俺は村長から渡されたエルフィーナ取り扱い説明書の中身を思い出した。時間がある時にパラパラと見てきたので一通り頭には入っている。しかしこういう状況で手伝わない人、とは書かれていなかったはずだ。


 俺はエルフィーナの足元を見た。散らばった木片、爆弾が爆発したような地面の穴、何があったかわからないが少なくともろくな事ではない。


「火は俺が起こすからエルフィーナは野菜でも切っておいてくれ。着火したら呼ぶから、あとは頼んだぞ」


「うえぇん……ごめんタクミ」


 情けなく泣くエルフィーナは、包丁を握りしめて芋や人参を切り始めた。異世界に来て幸いだったのはこういう食べ物がゲテモノじゃなかったことだろう。

 異形の食べ物がここでの普通だったりしたら俺は生きていく自信が無かったはずだ。


 火起こしってのは思っているよりもずっと大変な作業だ。継続的に摩擦熱を与え続けて、火種の空気が絶えないように息を送り込む。吹く息が強すぎても、弱すぎてもだめだ。


「よし、エルフィーナちょっと来てくれ!」


「はーい」


 駆け足で俺の元にやってきたエルフィーナは依然包丁を右手に持っている。怖いからそれやめてくれ。


「この火種に空気を送り込んで絶やさないようにしてくれ、強すぎず弱すぎずだぞ」


「わかったわ、それくらいなら私にも出来るわよ!」


 ツンデレキャラは一体どこにいったのだろうか。

 黙っていれば美人とはこのことか……


 少し前エルフィーナが倒した切り株を見た。切り株を臨時のまな板として使い、野菜などを切っていたのだが……


「酷い有様だな……野菜切ってただけなのに、まるでモンスターと戦った跡じゃないか」


 返り血のように飛び散った汁、キチンと等分されていない野菜の切屑、皮には実がかなりくっつき食品ロスが激しい状態だ。

 多分エルフィーナは生きた野菜と格闘したんだろう。マンドレイクのように動く植物がいるんだ、動く野菜がいても何もおかしくはない。


「さてと、この食品ロスをどう処理するか……」


 *


「何か言うことはあるか?」


「……なんのことでしょうかタクミさん」


 数分前、鍋の具材を調理していた俺に災難が襲いかかった。後ろから爆発音が聞こえたかと思うと、大量の木片と土埃が野菜と兎肉を吹き飛ばした。

 野菜は地面を転がったがすぐに拾えた。兎肉はというと……


「今日の夜は野菜スープ、いや……生野菜を齧ることになりそうだな!」


 あの肉の塊は星になった。吹っ飛んだ方向を隅々まで探したが一切痕跡は残っておらず、見つかるのは野菜ばかりだ。

 多分今見つかったところで野生動物に食われているのは明白だ。

 ウサギを食べるつもりが、まさかウサギと同じように食べ物を食べることになるとはな。とんだ災難で皮肉だ。


「それに、せっかく起こした火も全部消えたじゃないか。どうしてこうなった?」


「だってぇ……タクミが空気を入れろって言うし……」


「だからといって魔法で吹っ飛ばすことはないだろ!」


「うう……」


「それに……魔法を使うならもっとそよ風みたいなのは無かったのか?風属性なんだから、それくらいは使えるはずだろ」


「だって、私高火力魔法しか習得してなくて……それに初級の魔法なんて今の時代誰も使わないわよ!」


 今にも泣きそうな顔でエルフィーナは俺を覗き込んだ。泣いてもどうにもならないんだよ。もう日も暮れてるし、森の奥に入れば獲物くらいは見つかると思うが……

 危険に違いない。日本でも夜の森は危険と言われてるくらいなんだ。魔物がそこら辺を彷徨いている世界なら、この行為は命取りだろう。


 そもそも、ノクティホーン一匹捕まえるのだって相当苦労したんだ。

 魔力の流れに敏感だから魔法を使おうとしたらすぐに姿を消す。エルフィーナのように手当り次第に魔法攻撃をばら撒くタイプには絶対捕まえられない。

 俺が気配を消して近づいてようやく捕まえた獲物だ。


「残ったノクティホーンは……この角だけか。食えるのかこれ?」


「角なんて食べたくないわよ!食べるならアンタだけにしてよね!」


 俺は片手にすっぽりと収まるサイズの角の先っぽを軽く齧ってみた。ほんのり苦味のあるナッツと言ったところか。食感としては外側はカリカリ、中はコリコリというなんとも不思議な味わいがする。


「うん、悪くない味だ。お前も食べてみるか?」


「つ、角なんて嫌よ!それに……ノクティホーンの角って闇属性の人が食べると属性強化が出来るんでしょ?」


 うん、初耳だな。それにどうしてそんなことををこと細かく知ってるんだよ。ツンデレか?

 ツンデレだったな。


「あ、ちょっと小便」


「遠くでしなさい!」


 俺は角を切り株の上に置くと、適当な草むらを探して走り出した。漫画で見かけるような丁度いい大きさの草むらがあったからそこに小便をかけた。

 日本と違って星が綺麗だ。産業文明が無いからこれだけ夜空が美しいのだろうか?ともかくここで寝転がってたらすごく気持ちのいい夜を迎えれそうだ。


 出し切ったので戻る。ズボンのチャックを閉じた時俺は気づいた。

 そういえば他の服が無かったな、次の街に到着したら買うとしよう。


「ただいまー」


「ごふっ」


「どした噎せた?」


 エルフィーナが口元を抑えて背中を見せた。何か隠し事でもあるようだが、こうやって星空の下で一緒に過ごすのに何を隠す必要があるのか。


「なんでもないわよ!」


 なんか怪しい。子供が悪いことをした時、母親の肩を揉んであげたりするその時と似ている気がする。何かを取り繕っているような、そんな感覚だ。まぁ生涯独身だったから子供なんていないが。


「美味しかったか?角」


「そげ、そんなわけないでしょ!食べてないわよ!ちょっと目を離した隙に鳥が来て持って行っちゃったのよ!」


 はは、俺は美味しかったか?しか聞いていないのに全部白状してくれたようだな。やっぱ体は正直だな。さっきからずっと腹の音がしてるし。


「とりあえず俺はまたスープを沸かすとするよ。お前はテントの中で寝ててくれ、頼むから魔法とかは使わずに安静にしててくれ」


「はいぃ……」


 夜はこれから始まったばかりで、不安な要素が山積みだがきっとなんとかなるだろう。

 と切に願っている。

明日は薬草を買いますよ

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