第5話 王道♡王子にアピールをしよう
「突然、こんな事頼んでしまってごめんなさい」
生徒たちが主に過ごす校舎と渡り廊下で繋がった別棟、
その王子の執務室にアリシアはいた
「君が気にする事はないよ」
王子は優しげにそう言った。
乙女ゲームのテンプレ····王子のお手伝いがしたい大作戦
「君が学園に来た理由は王家の都合だ、
卒業後について不安な気持ちは分かる。気にせず頼るといいよ」
·····だけだと理由が弱いので、
就職したいから経験が積みたいという口実で、ここに入れてもらったのだった
(嘘では無い、結婚よりは自立したい·····)
結婚して閉じた環境で旦那の顔色を伺う日々·····出来ないとは言わない··
···でも絶対めんどくさい·····そんな日々は”嫌”だと思う
そこからはただの作業だった。
王子の指示を受けて、書類を整理し、モブ従者と王子の会話から次を予測して、
前準備をしておき、疑問点があったら、質問をして。
(·····こういう単純作業嫌いじゃない·····何も考えなくていいから)
もし卒業後に就職するなら、なるべく人と会話をしなくて済む就職先がいい
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
モブ従者が対応に出て、やってきた文官と何かを話している。
そして、王子にのみ聞こえる距離感と声量で報告をしていた。
その報告が終わると、モブ従者は何故か私の目をしっかりと見てきた。何か言いたそうな目だと思った。しかし、モブ従者は
「アリシア嬢…数刻ほど退室させて頂きます」
ひと言短くそう報告し出て行った
(…なに?あの目。立場をわきまえろってこと??)
ちゃんと距離感考えて”いまの時点では”何の問題もなく接触してるじゃん
「アリシア嬢。休憩しないかい?少し疲れただろう」
モブ従者が出て行った後、王子は微笑みながら話を始めた
「紅茶をいれさせてこよう。君は何が好きだい?」
「えっと、恥ずかしいのですがお水はありますか?」
「レモン水とか。冷たいものがいいです」
2時間ほど作業をしたので疲れのせいか、身体が火照っていた。
「じゃあ、そうしよう。……アリシア嬢は冷たい飲み物が好きなのかい?」
「はいっ!平民ですから」
元の世界でも水出しの麦茶をよく飲んでた
…お貴族様は冷たい飲み物はお嫌いだろうが
「…っ。僕も実は紅茶じゃなくて、冷たい果実水が飲みたい時があるよ」
王子はどこか寂しげだった
「……貴族的ではないからね。内緒にしててくれないか」
寂しげだったのは一瞬のことで、王子は柔らかく微笑んだ
(…ここだ)
「じゃあ、2人だけの·····秘密ですね」
私も照れた風に見えるように笑いかけた———
その時、
ノックの音した。王子が入るように言うとドアが開き——花の香りがした
甘い——花の香り、紅茶とクッキーが乗ったトレイ
銀髪の美しい少女が…”レティシア”が立っていた
(あ、この香り……王子が“好きって言ってた”やつだ·····)
レティシアがそれを覚えて持ってきたのだとしたら…なのだとしたら!)
(そろそろ潮時かな·····見たいものは見れたし。今日はジャブ程度で済ませよう)
「王子さま、レティシア様、わたし失礼しますね」
私はぺこりとお辞儀をすると、部屋を出た
部屋の外に出て廊下を歩き始めると、
「おまちなさい」
同じく廊下に出てきたレティシアに声をかけられた
「リチャード殿下と業務とはいえふたりで密室にいましたね。」
「殿下には私という婚約者がいます。そのような行為は品位を疑われますよ。
あなたの為にもなりません……今後は誰かを部屋に置くように」
レティシアはいつも通りの凪いだ瞳で、いつも通りの鋭い声でそう言った
「えっと…レティシア様は王子さまの事が好きなんですね」
私がそう声をかけると、凪いでいたレティシアの瞳がかすかに揺れた
「傷つけちゃったのなら、ごめんなさい」
レティシアは何も返事をせずに、揺れた瞳も元に戻ってしまい——唇はかすかに震えていたが、そのまま王子の執務室に戻って行った。
花の香りだけがその場に残っていた———
ふむ·····次はもう少し派手にやってみるかな
·····そう·····例えば嫉妬させるとか
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