第2話 正論悪役令嬢”レティシア”
乙女ゲームらしく、魔法っぽいよく分からない授業が学園には多くある
薬学の授業もそのうちの一つ
「へへ…これ混ぜてみたら面白いんじゃね?」
「うわっ!?煙っ……!」
「ちょ、おまっ!入れすぎ——」
ばふん、という鈍い音とともに、白煙が立ち上った。教室の空気がざわつく。
ふざけて試薬を混ぜていたモブ男子生徒二人の実験台から、小さな火花が散っていた。
「熱っ……!手、やけどした……っ!」
一人が手を押さえてしゃがみ込んだ
(…ヒロインアピールのイベントか)
無視してもめんどくさいので、私は心の中でため息を吐くと慌てたように駆け寄った
「あっ、とっても痛そうです…大丈夫ですか?」
「でも、すぐ治りますからね」
そういって治癒のチカラを発動させた。
温かい光が傷を癒していく…
モブ男は熱い視線で私の顔を見て、こう言った
「あ、ありがとう…アリシア嬢…はじめてこんな俺…」
「君たち、何をしている!これは遊びの場では——」
教師が怒ってズカズカやってくる
もうすぐ授業が終わるのに、無駄に伸ばされてはたまらない私は一芝居うった
「先生っ…悪気があったわけじゃな…あっ」
立ち上がった際、わざと椅子にスカートのスソを引っ掛けて転んだ
やだー♡ドジっちゃったのサービス付き
モブがアリシアたん可愛い、優しい、平民なのに高貴さを感じる…とか適当なことを喋っている
教師も気が抜けたのか
「…次からは気を付けるように」
怒る気を無くしたようだ。やれやれと首を振っている
(やれやれはこっちの台詞だ。自分の責任だろ)
(…馬鹿やったモブふたりに貸しひとつ、管理不足な教師にも貸しひとつ)
何かの機会に回収させてもらおう
「おまちなさい」
和み始めた教室を貫く氷のような鋭い美しい声が響いた
(うわっでた…正論悪役令嬢)
真っ直ぐに伸びた背筋。
冷たいまでに整った銀髪。
王妃教育で叩き込まれた優雅な所作。
そして、衣服の上からでも隠しきれない豊かな胸元——
攻略対象の”王子”の婚約者悪役令嬢の”レティシア”である
レティシアはモブ男子に視線を向けながら、こう言った
「危険な授業であることは事前に説明されていたはず。
他の者を危険に晒したのならば謝るのが筋です」
ついでに教師にも、
「先生、教室の管理者はあなたです。こんなことでは困ります」
そして私にもド正論を突きつけてきた
「そしてあなた、この程度の火傷…通常の手当で良かったはず。治癒は万能ではありません。能力をひけらかしたいならおやめなさい」
目があった時、レティシアの目には何の感情も浮かんでいなかった
ただ凪いだ静かな瞳がそこにあった
その時、授業が終わる鐘が鳴り…
レティシアは
「本学の生徒である慎みと誇りを忘れずに」
とひと言残して1番最初に教室を出ていった
「お人形さんみたいに綺麗だよね」
「感情、どこに置いてきたんだろうねー」
「アリシア嬢は優しいだけなのに、酷いよね」
モブたちが思い思いに騒いでいた
(せっかく、丸く抑えたのにめんどくさ…)
レティシアねぇ……悪役令嬢というより…
ただの生きづらそうな女って感じ…馬鹿じゃない?と思う
自分が周りにどう見られてるのか分かってないのか、どうでもいいのか
本音と正論だけで渡り歩けるほど………世の中は楽じゃない
私はお先に失礼しますっとモブたちに声をかけて教室を出た