第7話 解体
家の裏で解体作業をすることにした。
「う…臭い…」
「獣臭いのはどうしようもないね」
血抜きはしっかりしてあるので血の匂いはしないのだが、獣独特の臭いがする。
どうやらあまり解体などは慣れていないようだ。このぐらいの歳の子供であれば大概解体作業を手伝うぐらいはしたことがあると思うのだが…。やはり貴族の子供だったりするのだろうか。捜索が始まっているとすると後々面倒なことになりそうだ。
「じゃあその肉はこっちに置いて。内臓はこの容器の中に」
「内臓は処理どうするんですか?」
「明日辺りに山の中に捨ててくるしかないね。寄生虫とか怖いから食べられないし」
いくら腹が減っていても鹿の内臓は食べないほうが良い。寄生虫がいると暫くの間猛烈な腹痛に襲われるからだ。あれは地獄だ。二度と経験したくない。
「皮は…売りに行くか」
皮をなめす技術はないので、また街に行ったときにでもギルドに売りに行くことにする。氷雪鹿の素材はかなり高く売れる。どうせ服も買い替えないといけないし、収入があるのはありがたい。
「あのー、リマイスさん」
「なんだい?」
「この鹿、氷雪鹿ですよね?」
「よくわかったじゃん」
白い鹿がすべて氷雪鹿というわけではない。だが、確率は高い。そもそもほとんど氷雪鹿の目撃例がないこの地で氷雪鹿を知っていること自体が珍しいが。相当博識だ。
「北方地方ではたった1体で要塞1つを一瞬で壊滅させた記録もある魔獣ですよ…。討伐難易度も文句無しのSSですし」
アリスは呆れたようにこちらを見てくる。今の話、あいつ1体で壊滅する程度のヤワな要塞もあるのか。
「まあ討伐は面倒ではあるけど、そこまで大変ではないよ」
「今朝言っていた狼のような魔獣…あれもどうせハウドでしょう?1体で討伐難易度B、群れになるとAになる」
「正解」
ハウドはそこそこ有名な魔物だ。各地にハウドが起こした惨劇が伝わっているからだ。ほとんど出現しない氷雪鹿よりもそこそこ出現するハウドの方が一般にはよく知られているし、恐れられている。
「Aでも熟練の冒険者がパーティー組んでようやく勝てるような魔物なのに、国家単位で動かないといけないSSランクの氷雪鹿をソロで倒すなんて、あなた本当に人間ですか?」
「人間だよ。試してみる?」
そう言ってナイフを渡す。アリスの顔は青ざめ、指は震えている。
「何…言ってるんですか」
「気になるなら試せばいいじゃん。いいよ、やって」
「…そんなこと、やるわけないじゃないですか!急に何言ってるんです?」
「別に。そういう不信感は後々面倒なことになってくるから、やっておいたほうがいいかなって思って」
「本当に私がやったらどうするつもりだったんですか?」
アリスは怪訝な目で私を見る。
「ナイフを持ってる君だったら目をつぶっててもいなせるよ」
はっはっは、と笑いながら言う。
「まあ確かに、リマイスさんならやりかねませんね…。本当に規格外すぎますよ、あなた」
「規格外じゃないよ。努力しただけさ」
これは幼い頃から努力し続けた結果の強さだ。おそらく私程度の戦士ならば探せばどこの国にもいるであろう。
「そんなになるまで努力するなんて、何か目標でもあったんですか?」
「うん、あったよ」
ずっとその目標に向かって努力し続けてきた。
「でも、秘密かな」
「なんでですか、ケチ」
アリスは頬を膨らませて私をこづいた。




