第6話 氷雪鹿
とりあえず、氷雪鹿の攻撃パターンを確認する。一番厄介なのはあのデカい氷塊だ。かなりの質量とスピードを持って飛んでくる。あれに当たったら骨折は免れないであろう。骨折した状態で山を降りるのは不可能に近い。絶対に避けなければならない。しかし、スピードがあると言っても避けられないほどではないため、今のところは掠りもしていない。しかし、このまま同じ攻撃が続いたら?答えは「疲労によっていつかは当たる」だ。
「だから嫌なんだよ、こういうのと戦うのは」
もちろんあの攻撃の一番の狙いは氷塊を当てることにあるだろうが、それが当たらない相手に対しては体力を削るためにわざわざ攻撃しているのである。なんとも陰湿な攻撃だ。
絶えることなく続く氷の弾幕を避けながら思案する。
1秒。1秒でも攻撃を止められたら距離を詰めて角を折れる。しかしその一秒を稼ぐための手段はほぼ無に等しい。
一度、角を弓矢で攻撃してみる。すると、目が赤く光り、氷弾の数が増えた。っち。面倒くさい。
「角を弓矢で撃つのはなしだな」
…となると、うまいこと懐に潜り込まなければあいつは討伐できないだろう。はぁ、面倒臭い。
周囲に使えそうなものがないか探してみる。すると、大きな枝が落ちていた。断面から見ておそらく氷塊に当たって折れたのであろう。
「これは使えそうだ」
自分が身につけていたベルトで近くの木の枝に固定する。自分がここにいると錯覚させるためだ。鹿の視力は悪いため、この程度でも容易く騙せる。その後、木の陰に隠れながら氷雪鹿の真後ろに近づく。
一閃。
きらめくナイフが氷雪鹿の角を折る。その後、首筋にもう一度ナイフを刺し、確実に絶命させる。
「良し、これでもう安全だな」
氷雪鹿の角が氷を放つのはあくまでも体と離れていないときだけだ。魔力を供給しているのはあくまでも鹿の方。代わりに鹿を殺しても体から離さない限りは鹿から魔力を吸収し続け氷を放ち続けるのが厄介だが。血抜きをしながら角をカバンに入れる。
「まあ、氷雪鹿、討伐完了だ」
氷雪鹿の角はいい薬の材料になるのだ。魔力さえなんとかなれば氷代わりにも使えるのだが、どうにもならないだろう。このあたりには出現しないため、なかなか手に入らない高級品。ここで手に入れられてラッキーだった。ほしかった素材も採集したのでそろそろ時間だろう。いつの間にか日は高く上がっていた。
「さて、帰るか」
血抜きし終わった氷雪鹿を肩に担ぎ、家に戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい!…って、その服どうしたんです!?その鹿は!?」
「あー…」
そういえば避けているときにあちこち引っかかっていたんだった。服はぼろぼろになっている。
「ちょっとこいつと戦いになっちゃって。もとから擦り切れていたし、そろそろ買い替えるか」
「待ってください。服をよく見せて」
アリスはまじまじと服の素材を見ている。別に何かあるわけではないのだが…
「これ…オルディースの服ですか?」
「そうだけど?ちゃんと本物。証明書もあるよ」
「なんてもの採集用にしてるんですか!これ一着で平民1人の4ヶ月分の生活費賄えますよ…」
アリスは頭を抱えてしまった。オルディースというのは、ブランド物の冒険者服を販売している店のことだ。戦闘するのに軽い上強いので便利だと思い奮発して買った。
それにしても。
「良いもの食わせてもらってたんだねぇ」
本来は質素に暮らしていたら1年間は普通に暮らせる値段のものだ。それを半年分というからには、格式高い家に生まれたのだろう。どこぞの貴族のご令嬢とかだったのかもしれない。
「解体するから手伝ってくれる?」
「了解です!」
リムは実はかなりの金持ちでした。




