第5話 狩り
森に入ると、鬱蒼とした木々の中で、かすかに鳥の声や川のせせらぎが聞こえた。動物の気配はないので、普段のルートで山菜と薬草を取りに行くことにした。
今の時期に採れる山菜はたくさんある。なんせ春なので、たくさんの草木が育つのだ。まだ生えたてなのでやわらかく、非常に美味しい。この時期を逃してしまったら取れないような山菜もあるので、できる限り多くの量を収穫して帰りたい。
「うーん、まだ草蘇鉄は生えてないか」
個人的に春に採れる山菜で一番好きなのが草蘇鉄だ。春も後半になってこないと生えてきてくれないので仕方があるまい。シダの一種なため湿った場所でないと成長しない。そのせいで自分の家の近くに植えてもなかなか大きくなってくれなかった。山の中に入らないと採れないのは面倒だが、美味しいのでその手間をかける価値はある。
目当てのものが採れなかったので、それ以外の山菜を探す。アスパラソバージュやクマニラが生えていたので収穫しておく。
森のさらに奥に入ろうとしたところ、生き物の気配を感じた。足音がしないよう気をつけているのだろうが、私の耳はごまかせない。
人間…ではなさそうだ。仮に私を狙う人間だとすれば、殺気が漏れているはず。となると、動物か魔獣だが…。
種類を推測するまでもなく、その正体はわかった。
突然茂みから放たれたものは、巨大な氷塊。かなりの質量とスピードを持った氷が飛んでくる様は、さながら隕石の飛来のようだった。
現れたのは、一匹の白鹿。
「…氷雪鹿か!」
氷雪鹿を中心として、周囲の木々が凍りついていく。それと同時に辺りの空気は冷たくなり、近辺は極寒の地と化す。
「これはまた、面倒な魔獣が湧いたな」
普段はもっと低級な魔獣しか湧かないのに、よりにもよって今日発生するとは。なんて運が悪い日なのだろう。…いや、そもそも氷雪鹿はこの近辺での目撃例、討伐例はなかったはず。寒冷地でないと発生しない魔獣がなぜこんなところに?
(…誰かがここに持ち込んだのか?)
…あまり良くない想像をしてしまった。そんなことに頭を使うよりも、今はあいつを討伐することに集中する。一応一度だけ討伐したことがあったはずだが、当時はかなり手こずったはずだ。今回の狩りのためだけの貧弱な装備で勝てるだろうか。
「…微妙だな」
定期的に飛んでくる氷塊を避けながら討伐方法を考える。氷雪鹿の氷属性の魔法の源になっているのは、あの水晶のような角だ。あれさえ破壊してしまえば、倒すのは簡単。逆に、あれを破壊せずに倒してしまうと、破壊するまで辺りを凍らせ続ける厄介な代物だ。ここは私の薬の材料にもなっている薬草を採取できる場所。破壊できなくて辺り一面常冬になりました、なんてオチは絶対に避けたい。しかし、かなりの強度を誇るあの角を破壊するためには、弓矢では心もとない。希望があるとすれば持ってきた短刀だが、なんせ「短刀」の名の通り短いのでリーチも短い。普通に攻撃したとしても、あの角に刃が届くまでに飛んでくる氷塊に当たって終わりだ。
ああ、ワクワクする。久しぶりの強敵との戦いに心臓の鼓動が早くなり、呼吸のリズムもこころなしか乱れる。
「さあ、どうやって討伐してくれようか」
また短めです。
初戦闘。苦戦しそうですね。




