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虹色硝子  作者: 猫目aka
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第2話 とある春の日に 中編

だいぶ長めになってしまいました(汗)

微妙な終わりになってしまいすみません。やはり前中後編になりました。前の話との文字数の差がすごい。

 ドアの前にいた子供は、姉弟だった。しかも、こんな寒い夜なのに、防寒着を何も着ず、薄着。ただならぬ雰囲気を感じ取った。その時、姉の方が口を開く。

「一晩だけ、わたしたちを、泊めて、ください」

「僕、なんでもします」

なんとか平静を装いながら、私は話しかける。

「外、寒いだろ。とりあえず、家の中入ろっか」


「それじゃ、さ。ひとまず何があったのか教えてくれる?話せる範囲でいいから」

そう言ってみるが、子供たちは怯えて一言も発しようとしない。喋れないのでは、と言う考えが一瞬頭をよぎったが、さっき喋っていたことを思い出し、考え直す。

「喋りたくないなら、喋らなくてもいいよ。言いたくないことだって、あるもんね」

私にも勘ぐられたら困ることの一つや二つ、ある。もう思い出したくない記憶も。きっと子供達も似たようなものだろう。

 その時、盛大に三人の腹が鳴った。街からここまでは大人でもかなりの距離と感じるのだから、腹が空くのは当たり前だ。ん?三人分の腹の音?…ああ、私か。昼飯も軽食で済ませたし、そりゃあ腹もすくわ。今だって深夜だし、当然だ。

「私、まだご飯食べてないんだよね。良かったら一緒に食べる?」

そう提案すると、子供達は目を輝かせた。明らかに痩せ気味だし、日頃からあまり食べていなかったのではないだろうか。ひどいことをする親もいるものだなと思いつつ、料理の準備に入る。


 外に出ると、冬のような寒さだった。ここが山の麓付近だということもあり、春でも冬はかなり冷える。こんな寒さの中、あの格好でここまで歩いてきた子供達のため、体が温まるような料理を作ろうと思っている。家の中の暖炉も火を入れてあるし、今家の中はかなり暖かくなっているが、一度冷えた体は簡単には温まらない。だからこその料理である。辛いものはやめておこう。食べられるかわからない。

 そんな事を考えながら扉を開くと、スカスカになりかけの食糧庫が見えた。

「…うん。明日にでも買いに行くか」

しかし、少しだけだが残っている食料もあった。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ。それに小麦粉、バター、牛乳もあった。まるで、シチューを作れと言わんばかりのラインナップである。体も温まるし、ちょうどいいだろう。ここにある材料の量もちょうど明日の朝まで持つぐらいだし。

 しかし、あまりに出来過ぎている。特に牛乳。私は牛乳はすぐ痛むから使わない。買う機会もほとんどないし。つまり、ここに牛乳があるのは明らかにおかしい。

「十中八九あいつだよなぁ…」

ふらっとうちにやってきて、いつの間にか帰っている奴。逆にあいつ以外に心当たりがない。

「…メモは、残しておこう」


「今日のご飯は、シチューです」

そう発表すると、子供達は喜んだが、それと同時に申し訳なさそうにした。

「………いいの?私たちが食べて」

「いいよ。逆に今それぐらいしか作る材料がない。他の料理を作れって言われても困る」

「お料理なんて、食べていいの…?」

姉弟の親に脳内でドロップキックをかましつつ、「もちろん」と答える。当然、表情は笑顔のままで。

「今作るから、ちょっと待ってて」

30分後―――

ホカホカの作りたてシチューをリビングの机の上に並べていると、またもや盛大な腹の音が聞こえた。

「美味しそう…」

「ねえ、食べていい?いい?」

「待って。今スプーン持ってくるから」

料理をしている時に子供の声が聞こえるのは久しぶりである。もっとも、騒がしい成人男性の声はよく聞こえてくるのだが。勝手に来て飯だけ食べて帰るのはやめてほしい。本当に。

「はい。食べ始めていいよ」

「「いただきます」」

子供達はおそるおそるシチューを口へと運ぶ。最初はゆっくりだったそのスピードが、だんだん早くなっていく。気に入ってくれたようで何よりだ。

「すごく美味しい。ありがとう」

「気に入ってくれて何より」

なんせあった具が少なかったのである。そのため、必然的に具の量がかなり少ない。気に入ってくれるか不安だったが、良かった。

「それで、本題なんだけど」

「…はい」

なぜか空気が重い。一晩泊めた対価でも求められると思っているのだろうか。

「ウチで暮らさない?」

「……へ?」

「もちろん、君たちが居たいのであればだけどね。幸いにも部屋とベットは余ってるし。あとは最近薬草採取が大変でさあ。その助手が欲しいなと思ってたところなんだよね」

「……え?ん?」

「衣食住は保証するし、ちゃんと労働の対価も払う。住み込み見習いってとこだね」

数年前まで同じように子供を住まわせていたので、部屋もベッドも余っている。何より助手が欲しかったところなのである。最近店が有名になってきて、私だけで切り盛りするのが難しくなってきている。そのため、猫の手も借りたいところなのである。もちろん、子供にできる範囲の仕事を割り振る。

「どうかな?今決めなくてもいいけれど。孤児院に行くって選択肢もある」

「………孤児院は、嫌です」

 この国での孤児院に対しての印象はいいとは言えない。今日来たナディアさんのような人ばかりが運営しているとは限らない。劣悪な環境のことの方が多いのが現状だ。ナディアさんを紹介してもいいが、すでにあの孤児院は1人で切り盛りできる範囲の限界に近い。これ以上子供が増えるのは負担だろう。

「ま、重要な話だしね。急ぐ必要はないよ。ゆっくり考えて」

「はい」

きちんと頷いたのを確認し、いい子達だなあと思いながらも、置かれた環境を思うと悲しいことにも感じられる。受け答えがしっかりしているので話はスムーズだが、年齢と合っていない。8歳と6歳の子供の受け答えではない。

 とりあえず子供たちの境遇について考えるのをやめ、体を拭くことにした。夕ご飯は喋っているうちにいつの間にか食べ終わっていた。本当は風呂が使えたらいいのだが、毎回水を持ってきて湯を沸かすのは面倒だし、何より浴槽を設置する場所がない。はあ、何とかならないものか。

「そろそろ体拭きに行こっか。水汲む時間があるから、ちょっと待ってもらうけど」

「はい。分かりました。手伝うことはありますか?」

「いいよ。疲れてるでしょ。ここで待ってて」


裏の井戸に水を汲みに行く。ただ滑車を使って水を汲むだけの単純作業なのだが、これがかなりの重労働なのだ。しかもきょうは3人分汲まなければならないので、いつもよりも大変である。

空を見上げると、満天の星空だった。その中で満月が煌々と輝いている。あの日も、満月だった。

「…嫌なことを思い出した」

幼い頃の記憶を閉じ込め、汲み終わった水を持ち、家に戻った。

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