第12話 食堂
二人とも魔力測定試験が終わった。出口から出てきたアリスの顔色が悪い。試験会場から出てきているということは、測定値は基準値以下ではあったんだろうが……。大方、ギリギリだったってところだろう。マークされると面倒なことになるかもな。
暗いことを考えすぎるのは良くない。そっちに引っ張られる。明るい方向のことを考えよう。
「何食べたい?」
「僕はハンバーグが食べたい、です」
「私は何でも大丈夫です。嫌いなものとかも特にないです」
「じゃあ、あっちの通りの食堂かな。安くて美味しいんだよね。……多少治安が悪いけど」
5分ほどで食堂に到着した。いつも通り、壁には落書きがある。うっすらとした落書きを消した跡も見えた。
中に入ると、いかにもな感じのガラの悪い男たちがたむろしている。変わらないな、ここは。外にいたときはがやがやとしていたが、私が入った途端にしんと静まった。
ずんずんと中に進んでいき、厨房の中に声を掛ける。
「おやっさん、いる?」
「ああ、リマイスさんですか!来てくださりありがとうございます!貴女が来ると、この店の中も落ち着くもので」
「そうだね。……今日は新入りくんがいるのかな?」
肩に手が置かれている。屈強な男の手だ。傷を見た感じ、冒険者だろうか。他の職業ではまず付かない場所に傷跡がいくつもある。
「おい姉ちゃん、ここに何の用だ?」
まわりにいる冒険者たちが騒ぎ始める。
「おい、あいつまじかよ。リマイスさんに喧嘩売りやがった」
「洗礼の噂、聞いてねぇのかよ……」
「ご飯を食べに来ただけだよ。悪い?別に君たちの邪魔をするわけでもないだろう?」
「喧嘩売ってんのか?その細っこい腕で俺に勝てんのかねぇ」
……まったく。冒険者ってのはどうしてこうも喧嘩っ早いかな。薬屋にも冒険者の客が何人かいるが、ほとんどが売られた喧嘩は買うタイプ。ごく少数、冒険者の中でもかなり強いのはそうではなかったが。
「そう思うんだったら、殴ってみなよ。……二人とも、ちょっと外で待っててね」
ずっと扉の外で硬直していた二人に声を掛ける。流石に子供には見せられない。
子どもたちが頷き、外に行ったのを確認する。それと同時に、男の大きな拳が振り上げられる。
遅い。その拳を止めてから、男の足を軽く払う。思っていたよりも簡単に倒れてくれた。体幹がなってないな。最近できたばかりのような傷も多い。駆け出しの冒険者だろうか。
「いっ……てぇ!何しやがった!」
「足を払っただけ。図体のデカさだけが強さじゃないんだよ」
普通に殴り合いに持っていかれたら負ける。なんせこの身長差だ。私は素のパワーはあまりないし、まず敗北するだろう。
どうしても、身に付けられる筋肉量には限界があった。だから、技術を極めた。それだけのことだ。
「で?まだ戦いを続ける?君の技量だと、多分私に一方的に殴られるだけだけど」
強めに圧をかける。男の顔はどんどんと青ざめていく。
「ヒィッ!す、すみませんでしたぁっ!」
「いいよ。……二度目はないからね」
喧嘩をふっかけられたのが私だったから良かったものの、一般人だったらまず間違いなくまずいことになっていた。怪我を追って仕事にあぶれた人が出たら大変だ。次は許さない、と念を押す。
ドアを開けて外に出る。ドアの外でしゃがんでいた子どもたちに声を掛ける。
「終わったから入ってきていいよ。ごめんね、私の事情に巻き込んじゃって」
ここに来るたびに、ガラの悪い男に絡まれるのである。一見すると、身長は高いが力は強くない女性に見えるだろうからな。
「大丈夫、です。リマイスさんって、本当に強いんですね。分かってはいましたが」
「だから、別にそこまで強くはないんだって」
実際に、力勝負に持っていかれたら負けると思う。あくまでも技術で勝っているだけだ。
「そんなことより、お腹、空いてるでしょ。早く頼もう」
隅に空いていたテーブルに座る。隣りのテーブルに座っている冒険者に、にこりと微笑む。途端に冒険者の顔が青ざめ、引きつった笑みで会釈を返される。
「ヒューゴはハンバーグだっけ。アリスは何が食べたい?」
メニュー表を渡して選んでもらう。私はいつも通り、日替わりランチだ。これまで両手に収まらないほど食べているが、外れたことがない。
「じゃあ、ジェノベーゼをお願いしてもいいですか?」
「了解。おやっさん!ハンバーグとジェノベーゼ、日替わりランチを一つずつ!」
「あいよ!」
20分ほど待つと、料理が運ばれてきた。どの料理もとても美味しそうだ。特にハンバーグ。今まで頼んだことがなかったが、ハンバーグの焼き加減が良い具合だし、ソースもよく煮込まれた特製ソースなのだろう。次回はハンバーグにしてもいいかもしれない。
「「「いただきます」」」
日替わりランチはピザだった。チーズとトマトソースがたくさん乗ったマルゲリータだ。チーズがとろりとしていて、とても美味しい。お高いチーズの味がする。
「このジェノベーゼ、とても美味しいです!」
アリスのジェノベーゼも美味しいらしい。ここの料理は本当にハズレがない。このクオリティを低価格で出しているのはおやっさんの努力の賜物だろう。
あまりに美味しかったため、手が進み、すぐに食べきってしまった。欲を言うならもう少し食べたかったが、子どもたちが満腹そうなので良しとしよう。
「ごちそうさまでした」
「アリスさん、食べるの早いですね。あんなに大きいピザだったのに」
「そうかな?」
そんなに大きかったか?子供だから大きく見えるだけだろうか。
「二人は食べ切れそう?」
「はいっ!美味しい料理ならいくらでも食べられます」
「僕も、食べ切れると思います」
「急がなくていいから、ゆっくり食べてね」
暫くの間子どもたちが食べている姿を見つめる。ハンバーグは少し熱かったらしい。ふーふーと息を吹きかけながら食べている。
二人とも、宣言通りすべて食べきった。
「ごちそうさまでした!もうお腹がいっぱいです」
「ごちそうさまでした」
子どもたちは満足そうな表情だ。こころなしか少し眠そうな顔をしている。
「少し休んだら、買い物に付き合ってもらっていいかい?」
「はい。リマイスさん、服を買わないと、なんですよね」
「そうそう。アリスから聞いた?」
昨日帰ってきたとき、ヒューゴは寝ていたはずだ。
「そうです。以前はオルディースのものを着ていたそうですけど、今回もそれを?」
「そのつもりだけど、どうかした?」
「いえ。……ただ、かなりお値段が張るものだと記憶しているので」
ヒューゴもオルディースの値段を知っているのか。冒険者服のブランドなんてなかなか一般人じゃ知らないはずなんだけどな。決して有名ではない、知る人ぞ知るブランドだ。
「値段は張るけど、やっぱり品質が高いんだ。そのあたりの店とは一線を画す」
「なるほど」
オルディースの服の品質からすると、その値段も見合っていない。同じ品質のものを別の店で買おうとするともっと張るだろう。
「さて。そろそろ出発していいかな?」
「僕は大丈夫です。姉さんは?」
「私も大丈夫です」
「よし、じゃあ、行こうか」
食堂を出て、大通りに向けて歩き出した。




