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虹色硝子  作者: 猫目aka
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第10話 祝詞

 一夜が明け、外出する日になった。

「服は動きやすい格好になったね?」

「はい」

「はいっ!」

子どもたちが着ていた乗馬服を着てもらうことにした。服も買いに行かないとな。

「じゃあ…出発だ!」

勇んで扉を開けたら、扉にある段差でころんだ。締まらないな。

 街までは、馬に乗っていくことにした。私の家では馬を2頭飼っている。街まで行くのに時間がかかるからだ。2頭もいるのは、ちょっと前まで別の子どもたちが一緒に住んでいたから。最も、もう独り立ちしているので、2頭同時に家を出ることはなかなかないのだが。

「馬、乗れる?」

「僕は乗れます」

「私は…乗馬は苦手でして」

ヒューゴは乗れてアリスは乗れないのか。意外だな。二日間一緒に暮らした感じだとアリスのほうが活発なイメージだったから予想外だ。まあ、ヒューゴには一人で乗ってもらって、アリスは私の前に乗ってもらう形でいいだろう。

「じゃあ、ヒューゴはそっちの栗毛の方に乗ってもらって、アリスは私と一緒にこっちの青毛に乗ろう」

子どもたちは頑張って馬に乗ろうとしているが、なかなか乗れていない。微笑ましいが、あまり時間もないので、抱えて乗せた。ヒューゴが馬の手綱を握ったのを確認してから、馬を駆け出させる。

 もう少しで町につくぐらいのとき、一つ気になったことがあるので質問した。

「そういえばさ、君たちって何歳?」

年齢をまだ聞いていないことを思い出したのだ。おそらくは8歳と6歳程度だろうが、正確かはわからない。特に幼いうちだと正確性に欠けるからな。

「私達、ですか?私は8歳で、ヒューゴは6歳です」

予想通りの年齢だったな。二人ともこころなしか年齢よりも身長が低い気がするが、まあ、誤差の範囲内か。

「そっか。まだまだ小さいね」

「リ…リマイスさんだって、私達と15歳ぐらいしか違わないでしょう!」

どうやら、勘違いをしているようだ。見た目年齢的には、たしかにそのぐらいだろうか。

「残念。私、28歳」

「…若い、ですね?」

「そうだろうそうだろう。もっと褒めてもいいんだぞ」

「わーすごーい。リマイスさん美人ー」

…棒読みだな。その言い方だとあいつの顔がちらつく。今度うちに来たら腹いせに殴ろう。

「そんなことより、街についたよ」

「「…わぁっ!」」

 眼の前には巨大な門とどこまでも続く無機質な壁。その中にはきれいな町並みが広がっている。奥には大きな王城が見える。門から王城まで続く道はこの巨大都市の…“首都ガレニア”のメインストリートだ。

「いつ見てもまるで要塞だな。あながち間違ってないのかもしれないが」

「どういう…ことですか?」

「そのまま。戦争で攻め込まれる前提で街が作られてるねって話」

 ここまで来る道は曲がりくねっており、敵を疲弊させる作りになっている。ここから後の道は一本道だが、いたるところに兵が潜める区画の作り方だ。首都まで攻め込まれることを想定しているのは流石だな。区画から首都侵攻を考慮しているものになっているのは、軍事国家なだけのことはある。以前はこんな作りではなかったはずだが、大規模な区画整理でも行ったのだろうか。

 目的地のブーフ初等学校は、門からすぐ近くの場所にある。少しだけ馬を走らせると、すぐに到着した。入口の前には長い行列ができている。子どもたちとともにそこに並んだ。子どもたちの方を見ると、いつになく緊張した面持ちをしている。

「大丈夫だよ。落ち着いて、深呼吸して」

「…はい」

大きく呼吸する子どもたちを横目に、私は、小声でとある祝詞を唱える。


───『掛まくも畏き最高神、闇の大神ノルバスよ。その大いなる力で子らの力を隠し、ヴァルヘーゼから守り給え』───


故郷で伝えられていた、古い祝詞だ。随分と久しぶりに唱えたな。幼い頃はよく聞かされていたのだが。

小さな声で言っていたつもりだったのだが、子どもたちには聞こえていたようだ。

「今の、どんな意味なんですか?」

アリスから質問された。

「簡単に言うと、悪戯好きの神様に見つからないように守ってねって、闇の神様に頼んでる祝詞だよ」

故郷では神隠しのようなことが頻発していた。なんの前触れもなく行方をくらましたかと思ったら、半年ほど後にいつの間にか戻ってきていたり。それは、悪戯が大好きな神、ヴァルヘーゼの仕業だと伝えられていた。

「そうなんですね。聞いたことがない言語だったので。リマイスさんって、もともと別の国に住んでいたんですか?」

「ああ。15歳ぐらいのときに国から出てきてさ。私の店…イースブライトを開いたんだ。………ほら、次が君たちの番だよ」

話をしているうちに、いつの間にか順番が来ていたようだ。子どもたちの表情が、ぐっと緊張したものになる。会場内には親は立ち入れないのが心苦しい。

「行って、きます」

「頑張ってね。幸運を祈る」

中に入っていく子どもたちの背中を見つめる。大人びた態度に似合わない、ひどく小さな背中だった。

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