私たちのクリスマス特別SS (君の手のひらで今日も踊る〜振り回される恋も悪くない?踊らにゃ損です!〜)
・宮本いづみのクリスマス
中学三年生の冬。
「綺麗だなぁ」
宮本いづみは街のイルミネーションを見上げながら、つぶやいた。
まるで夜空から降り注ぐ星の光のように、色とりどりのライトが街を照らしている。
明るいその光を見ていると、不思議と心が落ち着く。
そんな風に思いながら、いづみは一人で歩いていた。
彼女はいつも明るく、太陽のような存在だと言われていた。
どこにいても笑顔で、人とすぐに打ち解けられる天真爛漫な性格。
踊ることが好きで、その表現力と輝きで、みんなの視線を一身に集める存在だった。
でも、そんな自分に違和感を抱く瞬間がある。
「私、そんなに輝けてるのかな。」
心の奥底に小さな不安を抱えながら、いづみは街の中を歩き続けた。
表面は明るくても、その内側にはぽっかりと空いた穴があるような気がしてならない。
みんなにとっての太陽みたいな自分だけど、自分自身を照らしてくれる光がないと感じていた。
「太陽だって、自分を照らすことはできないもんね。」
そうつぶやき、いづみは笑ってみせた。
でもその笑顔はどこか力が入っていて、ほんの少しだけ寒さを感じさせるものだった。
どんなに明るく振る舞っても、自分が本当に心から安心できる場所を見つけることは難しい。
それでも、誰にもその不安を気づかれたくなかった。
明るい宮本いづみでいることが、自分の役割だと思っていたから。
「……誰か、私を照らしてくれないかな。」
ぽつりとつぶやくその声は、イルミネーションの光に吸い込まれるように消えていった。
カフェの窓際に座り、手の中でカップを温める。
クリスマスの夜の街は賑やかで、人々の笑い声が遠くから聞こえてきた。
そんな景色を眺めながら、いづみはぼんやりと考える。
自分はいつも周りを元気づけようとしている。
でも、それだけじゃ足りない気がする。
もっと自分を支えてくれる何かが欲しい。まるで太陽の光に包まれるような、安心感や温かさが欲しい。
「私も誰かに頼ってみたいな。」
自分をしっかりと見てくれる人。
無条件に受け入れてくれる存在。
そんな人が現れることを、心のどこかでずっと願っている。
外を見ると、ふとイルミネーションの中で一際輝く星が目に入った。
「あんな風に、私も輝けるといいな。」
心の中でそう思いながら、いづみは静かに笑った。
・高塚咲乃のクリスマス
中学三年生の冬。
夜空に浮かぶ満月を見上げながら、高塚咲乃はふと幼い頃の記憶を思い出していた。
まだ小さな子どもだった頃、公園の砂場で出会った男の子。
その男の子は、明るくて、眩しくて、まるで太陽みたいな存在だった。
咲乃が物静かでひとり遊びが好きな子どもだったのに対して、彼はいつも元気で、どんな人ともすぐに仲良くなれるタイプだった。
「一緒に遊ぼうよ!」
初めて声をかけてくれたときの彼の笑顔を、咲乃は今でも覚えている。
初めて自分を外の世界に引っ張り出してくれた存在だった。
その日から、咲乃は彼の後を追いかけるように遊んだ。
彼の明るさや、周囲を巻き込む力強さに惹かれたからだ。
自分も少しでも彼みたいになりたくて、真似をしようとしたこともあった。
でも、それは長くは続かなかった。
彼は自然に輝く太陽のような人。でも自分は……そうじゃない。
私じゃ、太陽にはなれないんだ。
それに気づいてから、咲乃は彼の真似をすることをやめた。
「……元気にしてるかな。」
そうつぶやいて、咲乃は息を吐く。
白く染まったその吐息が、月明かりの中で一瞬輝いて消えた。
あの男の子のように、自分はなれなかった。
太陽のように誰かを照らす存在にはなれない。
でも、ふと気づいた。
月だって、太陽がいれば輝けるんだ。
彼のそばにいるとき、自分も少しだけ輝いているような気がしていた。
だから、また彼に会えたなら、月として、彼のそばでその光を受けて輝きたい。
「もう一度、会えるかな……」
咲乃はつぶやく。
冷たい風が頬をかすめ、遠くから聞こえるクリスマスの賑やかな音が少しだけ心を暖めてくれる。
夜空に浮かぶ月を見上げながら、咲乃は願った。
いつかまた、彼のそばにいられる日が来るように。そしてそのときは、自分らしくいられるように、と。
・平野佳奈のクリスマス
中学生最後のクリスマスパーティーが終わり、静かな部屋に戻ると、佳奈はふうっと息をついた。
ポニーテールをほどき、鏡に映る自分をぼんやりと見つめる。
「楽しかったはずなんだけどな……」
部屋には友人たちからのプレゼントが並んでいる。
開けるたびに「佳奈っぽい!」と笑って渡されたものばかりで、彼女自身もそれが合っていると思っていた。
でも、それがすべてじゃない気がする。
佳奈はベッドに座り、手に持った小さなアクセサリーを眺めた。
それは親友からのプレゼントで、「佳奈の好きそうなものを選んだよ」と渡されたものだ。
「本当にこれが、私の“好き”なのかな……」
いつも明るくて、みんなに囲まれて、笑いの中心にいる。
そんな自分が佳奈自身も嫌いじゃない。
けれど、誰かが自分の本当の姿を見つけてくれることを、どこかでずっと望んでいた。
「あの子は天然だから」
「佳奈ちゃんはそういう子だよね」
その言葉が時々、心に引っかかる。
天然って何? 私って、どんな子?
佳奈はカーテンを開けて、冬の夜空を見上げた。
街のイルミネーションの光は遠く、静かな星が瞬いている。
「いつか……私のことを、本当にちゃんと見てくれる人に出会えるのかな。」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
誰かに話したことなんてない気持ち。
どんなときも笑顔でいる彼女の、その裏に隠しているほんの小さな願い。
「見つけてほしいな……」
そうつぶやくと、いつものように少し恥ずかしくなった。
けれど、佳奈の心の中にあるその想いは、確かに本物だった。
星空に向かって目を閉じる。その願いが、いつか未来の誰かに届くことを信じながら。
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