第9夜 「パーティー会場にて」
「紳士、淑女の皆様お集まり頂き光栄です。只今よりちょっとしたショーをご用意するので楽しんで頂けると幸いです」タキシードの紳士が去ると直ぐに二人の赤毛の少女が現れた。
二人はバニースーツに身を包み舞踏仮面を着用していた。片方の少女が手を後ろに回すと何処にしまっていたのかナイフの束を取り出した。
そしてもう一人の少女がハンドガンを取り出す、するといきなり少女目掛けて刃物が飛んでくる。
それを見た観客から悲鳴が上がるなか少女は冷静に銃を構え撃ち落とす、そして次々にナイフが投げられる中少女は息も乱さず正確に撃ち抜く。
そして最後のナイフが撃ち落とされた瞬間一斉に拍手が送られた。二人の少女は観客に一礼すると帰って行った。
「夜の兎達による素晴らしいショーでした!それでは皆様引き続きパーティーをお楽しみ下さい」
司会の男が告げると直ぐに活気が戻る。
「お疲れ様二人共とても良いショーだったぞ!」
パーティー会場の舞台裏の楽屋に中年の男が入ってきた。
「「今着替え中だ!」」
部屋の中では二人の少女がバニースーツから黒いスーツに着替えていた。
「これはすまねえな、レディの着替えを除くなんて野暮だよな」男は彼女達が投げつける椅子やナイフを避けながら急いで外を出る。
「このまま用件だけ伝えるぜ今日のパーティーはドン•ファルコーネとドン•ガンビオーネの平和協定の場だ、お前達にはガンビオーネの娘の護衛を頼む」
男性は壁に寄りかかりながらタバコに火を点ける。
「それで?その子の名前と見た目は?」部屋の中から質問する。
「名前はマギー•ガンビオーネ見た目はこの写真だ」
男が入り口に写真を向けると直ぐ様写真を掻っ攫われる。
「へえ、可愛いね」
「いかにも箱入りって感じね」
黒いスーツに身を包んだ二人の赤毛の少女が現れる。
一人は髪をポニーテールにしており落ち着いた雰囲気を出していた。そしてもう一人はショートカットの髪をなびかせ近寄り難い雰囲気を出していた。
二人が見る写真には白いワンピースを着たお淑やかなブロンド髪の少女が居た。
「それじゃあ任せたぞマリア、アンナ」
男性はタバコを吹かせながら楽屋を後にした。
パーティー会場はこの街で一番の劇場だった。ルネサンス調の気品溢れる建物に長年この街の権力者達が愛用した場所だった。
今夜のパーティーは長年この街の覇権争いをしてきた二人の裏社会のボスが和平協定を結ぶと言う名目の元政財界の大物やハリウッドのセレブやスポーツのスター選手など錚々たる顔ぶれが揃っていた。
「お嬢ちゃん、一人かい?良かったら僕と飲まない?」
「え、結構です」
会場の隅の方で一人の少女が言い寄られていた。相手は今売り出し中の青年俳優、世の女性達が憧れの的とする俳優だった。
「恥ずかしいのかな?大丈夫変な事はしないから少しお話したいと思っただけなんだ」青年は甘いマスクで微笑む、今までの女性達は彼のこの笑顔に堕ちてきただが目の前の少女はより一層断る。
「しつこいですよ?結構だって言ってるじゃないですか!」少女の明確な拒絶に男の表情が変わる。
「せっかく俺が誘ってやってんだからお前は唯イエスとだけ答えてればいいんだよ!」男はプライドを傷つけられたと思い少女に掴み掛かろうとする。
「何やってんのお兄さん?」突然背後から声を掛けられ青年が振り向く。そこには先程のショーを行っていた二人の少女が居た。
「あ?見て分からねえのかよ?今からこいつを俺の部屋に連れて行って躾てやるんだよ!」男が二人を睨みつける。
「困るんだよねそういう勝手な事されると」二人のうち一人がやれやれと肩をすくめる。
「俺が誰か分かってねえのか?今世を賑わせているブランドン•ジェームズだぞ!なんならお前ら2人も纏めて可愛がってやろうか?」ブランドンが二人の少女を値踏みする様な目で見る。
「止めて!その二人は関係ないでしょう!」
少女に言われブランドンが激昂する。
「小娘が!お前が俺の言う事聞かねえからだろう!お前は大人しく俺に媚びてれば良かったんだよ!」ブランドンが少女を殴ろうと拳を振りかざした瞬間。
「黙って聞いてりゃあ調子に乗んなよこの玉無しがあ!」さっきまで無言を貫いていたもう一人の少女がブランドンを殴りつける。
「てめえ!顔を殴ったな!俺がこの顔でいくら稼ぐとグァァァー!」
ブランドンが言い切る前に少女が馬乗りになりながら殴る。
「知るかよ!テメエの面みてると虫唾が走るんだよ!」少女は何度も何度も殴りつける。
「止めてくれ!顔だけは、止めて下さい!」
男は情けなく泣き叫ぶ。
「アンナ、その辺にしときな」
「分かったよ姉貴、命拾いしたな玉無し」アンナはブランドンに唾を吐き捨てると離す。
「あ、あぁ~顔が俺の顔が!」ブランドンの顔は鼻が潰れ所々腫れ上がり前の様な丹精な顔立ちとは程遠かった。
「前より良いんじゃない?ホラー映画の化物役にぴったりじゃん」マリアが吹き出すとアンナも続いて笑う。青年は泣きながらその場から逃げ出した。
「助けてくれてありがとう、でもちょっとやり過ぎなんじゃあ」少女が二人に礼を言いつつもさっきの出来事に怯えたのか声が震えていた。
「ごめんね、君見たいな可愛い子に纏わりついているのが気に入らなくて」マリアが手を差し出す。
「貴方がマギーね始めまして私達は貴方の護衛を頼まれたマリア•ウォーカー、そしてこっちが妹のアンナよ」マリアが笑顔でアンナの腕を引っ張りながら言った。
「よろしく」アンナはぶっきらぼうに言った。
「アンナったらマギーちゃんが怖がってるでしょう?もっと愛想よくしなきゃ駄目だよ?」
「これでも愛想よくしてるんだけど」アンナが冷たい表情のまま言った。
「お二人共もしかしてファルコーネさんの所の人なの?それならよろしくね!」マギーは優しい笑顔で返す。
「「天使」」
マリアとアンナが同時に言った。
「え?いきなりそんな事言わないでよ」
マギーが照れながら言った。
「それよりさマギーちゃん正直このパーティーつまらなくない?」マリアがマギーの肩に手を回しながら言った。
「え、確かに余り楽しくないかな」マギーはマリアの手を気にしながらも答えた。
「それならこんなクソつまんないパーティー抜けちゃおうよ」アンナがぶっきらぼうに答える。
「え?でもお父様やファルコーネさんが」
マギーが言い終わる前にマリアがさっとマギーをお姫様抱っこする。
「別にちょっと抜け出す位なら大丈夫だよ」
「それに夜遊びは初めてでしょ?お嬢様」
二人の説得を受けマギーも覚悟を決める。
「分かりました、それじゃあ私に教えて下さい」
「「やっぱり天使だ」」
マリアの腕の中で恥ずかしげに言うマギーを見て二人が同時に呟く。
「それじゃあ行くよ!」
「ようこそ夜の世界へ」
こうして3人はパーティー会場を抜け出し夜の街へと繰り出した。
第9夜 完 第10夜に続く。




