第8夜 「裏社会のルール」
「マリア、アンナ居ねえのか?」初老の男がドアを蹴破りながら入ってくる。部屋の中には2段ベッドと二つの机が置かれていた。
一つの机には今時の若い女性用の雑誌や化粧品が並んでいたが、もう一方の机には罰印が付けられた男達の写真が貼り付けられ真ん中にナイフが刺さっていた。
「居ねえのかよ全く。」男が振り返って帰ろうとした瞬間突然二つの影が左右から襲い掛かる。
男は冷静に右側の襲撃者に蹴りを入れ、もう一方の襲撃者の腕を掴み床に叩きつけた。
「なんだ、二人ともいるじゃねえかよ」
部屋の明かりを付けると赤毛の少女が二人居た。
「クソッタレ!本気で蹴りやがったな!」ドアの前の少女が腹を抑えながら立ち上がる。
「全くジョーさんには敵わないな」地面に大の字になっていた少女も起き上がる。
「筋は悪く無かったぜ、だが俺から言わせればまだまだ子猫ちゃん止まりだな」ジョーが笑いながら言った。二人がジョーに路地裏で拾われてから5年二人はこの街を牛耳る派閥の一つであるファルコーネファミリーの暗殺者となっていた。
初めて人を殺したのは3年前14の頃だった、拾われてからずっと訓練に明け暮れていた二人をジョーが呼び出した。
「マリア、アンナお前達が俺の元に来て3年が経ったな」ジョーは二人を地下へと連れて行くそこは組織の処刑場として使われており二人も来るのは初めての事だった。
「お前達二人には最後の試験を行ってもらう」ジョーはが地下室の照明を付けると男と女の二人が繋がれていた。
「助けてお願い!」
「金ならいくらでも出す!だから助けてくれ!」
繋がれていた二人を見て二人が固まる。
「お姉ちゃんあれって」アンナが震えながらマリアの手を握る。
「もしかして、私達が逃げ出した孤児院の院長と理事長?」マリアがジョーを見ると静かに頷く。
「調べは付いているお前達二人はあの二人にそれは酷い目に遭わされたらしいな、特にアンナはあの変態院長の慰み者にされていたらしいじゃねえか」ジョーがゴミを見る目で繋がれた院長を見た。
「何を言っている!私はちゃんと子供達を愛していた!決してぞんざいに扱ったりなどしてない!」院長の言葉を聞きマリアが激昂する。
「ふざけんじゃねえよ変態やろう!あんた私の事覚えてる!?私はあんたに6歳の時にレイプされたアンナの姉のマリアだよ!あんたのせいで私の妹は汚されたんだよ!」マリアは院長を力一杯殴りつけた。マリアの拳が当たる度院長の口から血と歯が飛ぶ。
「その位にしろマリア、こいつはアンナの獲物だ」
ジョーはそう言ってアンナにリボルバーを渡す。
アンナは冷たく重い銃を渡されジョーを見る。ジョーは静かに一言だけ言った。
「お前が殺るんだ過去の自分を解放してやれ」
ジョーに言われアンナは静かに歩き出す。
「止めてくれ、私が悪かった!助けてくれ!お願いだ!私には娘と妻がいるんだ!」
その言葉を聞きアンナが一瞬固まる。
「君にした事は私が悪かった!金ならいくらでも払うし自首しよう!だからどうか命だけは助けてくれ!」
院長の悲痛な叫び声を聞きアンナの手が震える。
「私にあんな酷い事しておいて自分は助けてくれだって?」アンナは震える手でゆっくり銃口を向ける。
「あんたにも娘が居るならどうしてあんな酷い事ができるの!」アンナの脳裏にはあの晩部屋から連れ出されこの男のベットの上で行われたおぞましい記憶が蘇る。
「あの時私はあんたの汚いブツを突っ込まれて泣きながら止めてって言ったよね?でもあんたは余計に唆るって言って抜かずに朝まで続けたあの時の事を自分の娘がされたらどう思うの!」アンナの問いに院長が顔を上げて言った。
「大丈夫だ、君だけじゃなく私は娘とも既に愛し合ったよ」その言葉を最後にアンナが引き金を引き院長を殺した。
「くたばれ豚野郎!」アンナは空になるまで打ち続け暗闇の中には撃鉄音だけが響いていた。
「アンナ、アンナ!」マリアは弾が切れても打ち続ける妹を抱きしめ慰めた。
「もう大丈夫だよあの屑は死んだ、死んだんだよ!だからもう心配無いからね」マリアの胸の中でアンナは静かに泣いた。
「悪いのはその男だけでしょう!もう死んだんだし私は解放してよ!」理事長が恐怖の余り失禁しながら叫ぶ。
「駄目だよ、あんたは私の大事な妹を傷付けたこの男を見逃した。私は後からその事を知って直ぐにあんたに訴えたよね?でもあんたは子供の戯言と言って私を嘲笑いあの男を放置した。」
マリアが理事長に詰め寄る。
「仕方ないじゃない!あの男は表でも有名な名家の出だったのよ!それにあの男の家からの支援金があったからこそあの孤児院を続けられたの!」
「その為なら子供達を捧げても良いって言うの?しかも私の愛する妹を!」マリアの怒りに満ちた表情を見て理事長が恐怖に引きつる。
「マリア、使え」そう言ってジョーはマリアの足元にナイフを投げる。
「そいつはお前の好きにしな、じゃあ終わったら上がって来いよ飯作って待ってるからよ」ジョーはタバコに火を点けながら言った。
「待って!助けてお願い!」理事長が必死に懇願する。
「マダム、俺に懇願するんじゃなくあんたが蔑ろにしたその子達にお願いするんだな」ジョーはその言葉を最後に後にする。
「止めて、私が悪かったは助けてお願い!死にたくないの!」マリアは静かにナイフを拾う。
「お姉ちゃん」
「なあに?」マリアが振り向くとアンナが空になった銃を持って立ち上がる。
「私も一緒に殺ってもいい?」
アンナが静かに言うと、マリアが笑顔で返す。
「良いよ、後でジョーさんにお礼を言おうね」
「うん、そうだね」
「貴方達、止めて、止めて下さい!嫌ァァァ!」
その日二人は初めて人を殺した、普通の人間ならば信じられない事だろうが二人にとっては人生で一番の幸福な日だった。
第8夜 完
第9夜に続く