表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

20:

 恋愛小説を読んでいると、男女問わず一目惚れの描写が散見され、これには辟易とさせられる。一目見ただけで他人の内面を窺い知ることなどどだい不可能であり、つまりは外見が――主に顔が――好みのタイプであった、というだけにすぎない。


 一目惚れなど、私は断じてしない! 相手の内面をよく知ったうえで、じっくりと恋に落ちていくんだ!


 恋の一つもしたことのない私は、この手の甘酸っぱい恋愛小説を内心小馬鹿にしていた。自分が恋愛小説を書くのなら、恋に落ちるまでの描写をしっかりと描写していきたいものだ。これらの作品を反面教師にしようじゃないか。


 評論家ぶって、偉そうに恋愛小説を論じていた私だったのだが――ものの見事に一目惚れしてしまった。


 学前良樹。

 それが私の想い人の名前。


 好きなマンガの好きなキャラに似てるから好きになったんだ、というのは理由の後付けにすぎないのだろうか。初めて学前くんを見たとき、月並みな表現だけど雷に打たれたような――いや、違うな、ハートを弓矢で射抜かれたような――いや、うん、とにかく形容しがたい、今までの人生で味わったことのない衝撃的な感情に支配されたことだけは覚えている。


 当初、それが一目惚れなる現象であると、私は認識できなかった。相談相手のいない私は、一人悶々とその想いを抱え、しばらくして、ようやく自分が恋をしているのだと気づいた。


 しかし、自分の気持ちに気づいたところで、それを発露することなんて――告白することなんてできなかった。告白どころか、話しかけることすらできずにいた。だから、私にできることと言えば、学前くんの姿を目で追いかけることくらいで。たまに目が合うと、途端に恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。


 私の気持ちに気づいてくれないかな……でも、気づいてもらえたとて……。

 学前くんがモテるという話は聞かない。それは、ひとえにクラスの女子の人気が秦野くんに集中しているからだと思う。恋のライバルはいない、と思う。だから、こんな私にだってチャンスはあるはずなんだ、きっと。


 私は脳内で何度も何度も学前くんに告白した。放課後の教室で、青空が広がる屋上で、そよ風が吹く体育館裏で、様々なシチュエーションで告白し――成功させてきた。シミュレーションは完璧だ。後は実践あるのみ。

 でも、それが一番難しい。


 このまま、学前くんとまともに会話することなく二年に進級して、別々のクラスになってしまうのかな。ただでさえ、学前くんと会話する機会なんてほとんどないのだ。別々のクラスになったら、皆無になること間違いなし。


 そんなの……嫌だ。

 いじめに遭い、学校に行くのも憂鬱だった。そんな灰色の学園生活に、色彩を与えてくれたのが学前くんだった。付き合えなくてもいい。だけど、せめて友達になりたい! 連絡先を交換したい!


 皮肉にも、私と学前くんの距離を縮めたのはいじめだった。

 私がいじめられていることを知り、学前くんは助けてくれようとした。嬉しかった。初めてだ、学前くんとまともに喋ったの。学前くんがヒーローに見えた。でも同時に、いじめられていることを、彼に知られたくはなかった。それは私にとって汚点であり恥部であったから――だから、すごく複雑な気持ちになった。


 しかし、なにはともあれ、学前くんと仲良くなれたのは、まごうことなき事実である。連絡先を交換したし、一緒にスタバとかマックとか行けたし、共同作業(尾行)もできたし、バレンタインデーにはチョコも渡せたし。


 チョコといえば、私が渡したのは手作りでハート型の――本命チョコ。『義理か、本命か』学前くんに聞かれた際、どうして私は『ご想像にお任せします』なんて答えちゃったんだろう……。『本命です!』って答えておけば、それはすなわち告白となったのに。


 まあいいや。実は告白の台詞は決めているのだ。復讐が果たされたとき、私はきちんと告白するのだ――学前良樹くんに。


 告白、成功するといいな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ