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重版記念ショートストーリー お花見をしよう!

 寒さが厳しい冬が過ぎ去り、イクシオン殿下の離宮にも春が訪れる。

 土から顔を覗かせる若葉に、美しく咲く花々。

 こういう日は――。


『花見に限るのだな!!』


 いつの間にか隣にいたリュカオンが、またしても勝手に私の脳内を覗き込む。


『ふむ、異世界の春というのは、とてつもなく美しいものなのだな。花だけを咲かせる木というのもまた珍しい』

「サクラの木ね」


 たしかに、この世界に生まれ変わってからというもの、サクラみたいな木は見かけない。

 アーモンドやアンズの花はサクラに似ているものの、サクラ並木の美しさに勝るものではないだろう。


 さすがのリュカオンも、食い気よりもサクラの美しさのほうが気になったか。

 なんて思っていたのだが……。


『花見のときに食べている物も気になるぞ!』


 やはり、花より団子というわけだ。


『なんだ、その、三食の丸い球体の物は!?』

「お花見団子よ」

『薄紅色に白、黄緑はなんの味わいなのだ?』

「これは食紅で染めたもので、全部味は同じなのよ」

『そうなのか!? なにゆえ、このように色を付けるのだ?』

「それはたしか――」


 薄紅色は春を彩る花々を、白は雪の白さを、緑は初夏の草木を表現し、季節の移り変わりを味わうものとして作られた、なんて話だったような。


「諸説ありよ」

『ふむ、そうだったのだな!』


 リュカオンは瞳をキラキラ輝かせながら、想定していたことを口にした。


『我もお花見団子とやらを食べてみたいぞ!!』

「はいはい」


 私がお花見団子を作る間、リュカオンはお花見スポットを探してくるという。

 その間に作ってしまおう。

 お団子に必要な材料は上新粉。

 お米を粉末状にしたものである。

 イクシオン殿下が作った自動調理器でお米を粉末にして、調理に取りかかろう。

 まず、カップに水を張って竹串を刺しておく。竹串を水に浸すことによって、お団子が刺しやすくなるのだ。

 竹串はメルヴ達が以前開催された焼き鳥パーティーのときに作ってくれたものである。 ちなみに竹は以前、イクシオン殿下と新婚旅行のさいに発見した、レインボーカラーの竹みたいな物で作ったメルヴ達が作成してくれた。削ってもレインボーなので、大変派手な竹串である。


 お団子作りを開始しよう。

 ボウルにふるいにかけた上新粉、砂糖を入れ、熱湯を少しずつ注ぎながら混ぜていく。

 生地がまとまってきたら三つに分けて――ここからが問題である。

 この世界に食紅はない。

 メルヴ達に何か着色に使えそうな食材はないのか、と聞いてみたところ、紫キャベツとスモーキーグリーンの芋を持ってきてくれた。

 もっと他にいい色はなかったのか、と思いつつも、時間がないのでそれらを自動調理器で粉末にし、生地に混ぜていく。

 丸めた団子を茹でて冷水にさらして熱を取り、串打ちする。

 見事に毒々しい色合いのお花見団子が完成した。


 そうこうしているうちに、リュカオンが戻ってきた。


『おお、もう完成したのか!』

「ええ」


 紫、白、スモーキーグリーンのお花見団子を見たリュカオンは、怪訝な表情を浮かべる。


『アステリアの記憶で見たお花見団子とは異なるように思えるのだが』

「異世界風お花見団子よ!」


 紫色は王家の家紋の色で、白はリュカオンの毛色、スモーキーグリーンは平和の象徴であるメルヴ達の葉色!

 なんて適当に説明したら、リュカオンは納得してくれた。


『ふっ、我の毛色も入っていたとはな! いいではないか!』


 単純でよかったと思う。


「それはそうと、お花は見つかったの?」

『それが、見つけられなかったのだ』

「何を話している?」


 イクシオンがやってきたので、事情を打ち明けた。


「なるほど、花見か。そういえば、庭にアーモンドの木が一本あったような気がする」

『だったら、アーモンドの花を見ながらお花見としようではないか!』


 さっそく向かったのだが、都合良く花が咲いているわけもなく。残念ながらアーモンドの花は開花前だったようだ。


『どうして咲いていない!! おい、イクシオン、どうにかして花を咲かせろ!!』

「無理だ」

「花咲爺さんじゃないんだから……」


 思わず口にしてしまった言葉に、リュカオンは反応する。


『なんだ、それは?』

「異世界の童話よ。たしか、愛犬家だったお爺さんが、灰を降らせて花を咲かせる物語だったような」

『おお! だったら、犬役は我がして、花咲爺さん役はイクシオンがするとよい』

「アステリアよ、花咲爺さんとやらはどんな話なのだ?」

「いじわるなお爺さんがいて――」

「爺役は二人必要なのか……」


 リュカオンがイクシオン殿下に一人二役を命じる。無茶ぶりをするものだ。 


「愛犬を殺されたところから話が始まるんだけれど」

『我の役が序盤に死んでいるではないか!!!!』


 リュカオンは却下だ、却下! と言って花咲爺さんの再現は即座に諦めたようだ。

 花はないが、花見としようではないか、と思っているところにメルヴ達が登場する。

 何をするのかと思えば、メルヴ達の頭上に茎が伸び、蕾ができて、美しい花を咲かせる。


「メルヴ達が花を咲かせてくれたわ!」

『おお、なんと美しい』

「これで花見とやらができるな!」


 まさかメルヴ達が花を咲かせてくれるなんて。

 毒々しい色合いのお花見団子は食欲減退カラーなので、なるべくメルヴ達の花を見ながら食べる。

 うん、味はおいしい。


『お花見団子は、素朴な味わいでおいしいぞ!』

「初めてお花見をしたのだが、あんがいいいものだな」


 リュカオンとイクシオンもお気に召してくれたので、よしとしよう! 

コミカライズ版の第3巻が重版となりました!

ありがとうございました。

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