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お誕生日のお祝い料理!

 ある日の午後、リュカオンがイクシオンを呼びだした。


「私だけか?」

『そうだ!!』


 大事な話がある、と聞いてイクシオンはやってきたのである。


「して、大事な話とは?」

『今日はアステリアの誕生日だ』

「なっ――今日なのか!?」

『そうだ』


 アステリアの実家から贈り物がしこたま届いたため、リュカオンは気付いたという。


『その顔は知らなかったな?』

「あ、ああ……」

『好いた女の誕生日も知らぬとはな』

「返す言葉もない」


 何か贈り物を買いに行かなくては、というイクシオンをリュカオンは制止する。


『今日は我々二人で、〝料理〟を作ってアステリアに贈ろうぞ』

「アステリアに、料理を?」

『そうだ!』

「しかし、私は料理なんぞできないのだが」

『自動調理器があるだろうが! あれである程度はなんとかなる!』

「しかしあれは料理についての知識がないと使いこなせないのだが」

『我がいるではないか!』


 これまでアステリアが調理していたのをリュカオンは間近で見てきた。

 

『ようやく役立たせるときがきたようだな』

「お、おお……!」


 そんなわけで、アステリアのために料理を作ることにした。

 一応、保険としてメルヴ達にもケーキや鶏の丸焼きなどのごちそうを用意してもらうように頼んでいる。


『ふ……保身に走ったか』

「料理が成功するとは思えないからな。して、何を作るのだ?」


 これまでアステリアが作った料理はどれも難しい調理工程を経て完成していた。

 同じものは作れないだろう、とイクシオンは断言する。


『心配するな、今回の料理は〝くるくる巻く〟だけだ』

「おお、それならば私達にも作れそうだな」

『だろう?』


 その料理名は〝のり巻き〟だという。


『なんでもアステリアにとって、思い出の料理らしい』

「そうなんだな。しかし〝のり巻き〟とは初めて聞く料理だ」

『見た目を共有しておこう』


 そう言ってリュカオンはイクシオンに頭突きをする。


「ぐっ!!」

『理解したか?』

「あ、ああ」


 のり巻き――それは黒い筒状の物体に白や黄色、茶色など色とりどりの具が入った料理である。


「筒状に巻いたものを、カットしているようだな」

『そう見える』


 外側の黒い食材はいったいなんなのか――? リュカオンが断言する。


『あれは〝コンブ〟だろう!』


 いろいろあって国の名産となっている昆布が巻かれているのだろう、とリュカオンは意見する。


「たしかに、あのように黒い食材は昆布しか思い当たらないな」

『だろう?』

「では、中の白いものは?」

『あれは――カリフラワーではないのか?』

「ああ、なるほど。それだな」


 黄色いものはマンゴー、緑色のものはアボカド、ピンクのものはイチゴなどなど、どんどん材料を提案していく。


『よし、調理に取りかかろうぞ!』

「ああ」


 三角巾とエプロンを装着し、のり巻き作りに挑んだ。

 まず、昆布を自動調理器で柔らかくし、カリフラワーは茹でてみじん切りにする。

 他の食材も刻んでいった。


『カリフラワーは酢で和えるらしい』

「酢というのは、マリネなどを作る酸味の強い調味料のことだな」

『そうだ』


 不思議な味付けだ、と会話しつつ、イクシオンは思いっきりカリフラワーに酢を和えた。


 最後に巻きの作業に入る。

 広げた昆布の上にカリフラワー、マンゴー、アボカド、イチゴを並べて巻く――のだが、つるつる滑って巻くのは難しい。


「うう、この、どうして上手くいかない!」

『気合い、気合いだ!!』


 リュカオンの手では巻くことはできないので、イクシオン頼りとなる。

 途中、メルヴが心配そうにやってきて、巻いた昆布にネギを幾重にも巻いて結んでくれた。

 こうでもしないと、巻いた昆布が開いてしまうのだ。

 カットしたのり巻きを皿に盛り付ける。


「メルヴのおかげで、なんとか形になったな!」

『むう、しかしアステリアの記憶にあったのり巻きとは若干違うような?』

「気のせいだろう」


 そんな感じでなんとかのり巻きを完成させたリュカオンとイクシオンは、夜の誕生日パーティーを迎えたのだった。

 サプライズ開催だったので、アステリアは驚いていた。


「アステリア、誕生日おめでとう!」

「えっ……あ、ありがとう」


 誕生日の贈り物にのり巻きを作った、というとアステリアはさらにびっくりしたような反応を見せていた。


『これが我々が作った、のり巻きだ!』

「わ、わあ……」


 イクシオンとリュカオン特製ののり巻きを前にしたアステリアは、遠い目をしながら眺めている。


『どうした? のり巻きはアステリアの記憶にあった料理なのだろう?』

「ええ、そうよ」


 なんでものり巻きは学校の行事に母親が毎回作ってくれた料理で、アステリアの好物だったという。


「外に巻いている黒いの、もしかして昆布?」

『そうだぞ!』

「間違っていたのか?」


 アステリアは首を横に振って、「いいえ」と答える。


「ふたりとも、一生懸命作ってくれたのね。嬉しいわ。大変だったでしょう?」


 リュカオンとイクシオンは顔を見合わせ、首を横に振る。


「ぜんぜん苦ではなかった」

『むしろアステリアが喜んでくれると思うと、楽しかったぞ』


 アステリアの眦には涙が浮かんでいた。


「誰かに料理を作ってもらえるのって、こんなに嬉しいことだったのね。リュカオン、イクシオン、本当にありがとう」


 さっそくアステリアはのり巻きを食べる。リュカオンとイクシオンはドキドキしながらその様子を見守っていた。


「――!」


 アステリアは目を見開き、一瞬白目を剥きかけたものの、笑みを浮かべた。


「とってもおいしいわ!」

『そうかそうか!』

「よかった!」


 たくさんあるから独り占めしてもいいと言われ、アステリアは再度白目を剥きかける。

 リュカオンとイクシオンはアステリアがよろこんでくれてよかった、と思ったのだった。

本日、コミカライズ第3巻が発売しました。

ハマサキ先生の描き下ろし漫画&書き下ろし小説が収録されております。

ぜひぜひ、お手に取っていただけたら嬉しいです。

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