救いを!
一日目は、野宿を行う。開けた場所に馬車を停める。馬を休ませ、朝になったら出発する予定だ。
護衛騎士が外にテントを張ってくれる。一晩、テントの中で過ごすことになるらしい。
外に敷物を広げ、料理の準備を始める。
「ねえ、リュカオン。何か食べたい料理がある?」
リュカオンはじっと、私を見つめる。前世の記憶の中から、食べたい料理を選んでいるのだ。
『うーん、そうだな。あ、〝らいすころっけ〟とやらを食べてみたいぞ』
「ライスコロッケか。いいわね。お腹も膨れそうだし」
『楽しみにしているぞ!』
イクシオン殿下が小型自動調理器を作ってくれたので、それを使ってライスコロッケを作る。
まず、コンソメでご飯を炊く。ご飯が炊けるのを待つ間、パンをすりおろしてパン粉を作った。
炊き上がったご飯に、刻んだパセリと粉チーズ、塩、コショウを加えて混ぜる。
清潔な布巾を濡らし、ご飯を平らに広げる。真ん中に角切りにしたチーズを置き、布を絞ってぎゅっぎゅっと丸めた。ここでよく固めていないと、揚げたときに形が崩れてしまう。
丸めたご飯に卵液を浸し、衣を付けた。自動調理器でカラッと揚げたら、ライスコロッケの完成だ。
「リュカオン、できたわよ」
『やったー!』
濃いめの味付けをしているのでそのまま食べることもできるが、今日はホワイトソースを添えてみた。
「どうぞ、召し上がれ」
『いただくぞ!』
リュカオンは鼻先でライスコロッケを転がし、ホワイトソースを絡ませる。そして、パクリとかぶりついた。
『おお、チーズが!』
ライスコロッケの中に包んでいたチーズが、糸のように伸びる。
『なんだ、これはー! サクサク衣とご飯の中から、チーズが出てきた!』
「オムライスのとき、チーズが中に入っていたら喜んだでしょう? だから、ライスコロッケにも入れてみたの」
『うまい! なんという至福! アステリア、心から感謝するぞ!』
喜んでもらえたようで、何よりである。
お月見団子のようにライスコロッケを積み重ね、リュカオンに献上する。
今宵は満月。月明かりの下で食べるに相応しい料理だろう。
『そういえば、イクシオンはどうした?』
「親衛隊と会議をしているみたい」
『ふむ。そうだったか』
一応、親衛隊の分もライスコロッケを作ってある。頃合いを見て、差し入れに行くとしよう。
イクシオン殿下を待つ間、お風呂に入らせていただく。テントに風呂自動湯沸かし器を設置し、浸からせてもらった。一日の疲れが、湯に溶けてなくなっていくようだった。
たき火を囲んでイクシオン殿下の帰りを待ちわびていたら、二時間後に戻ってきた。
「すまない、待たせたな」
「いえ、まだ、眠くなかったから」
スタンピートが発生した影響で、ヘルアーム子爵領までの整えられた道がところどころ壊されているらしい。迂回路を考えていたら、会議が長引いてしまったようだ。
「途中で、アステリアが差し入れを持ってきてくれたから、助かった」
「いえいえ」
「〝らいすころっけ〟と言ったか。初めて食べた。うまかったぞ」
『我は十個も食べたぞ!』
リュカオンは張り合うように言った。お腹は、もっちりふくふくに膨れている。ツンツン突くと、『破裂するから止めい』と言われてしまった。
『成獣体だったら、百個くらい食べられた。しかしそれだと、アステリアが大変だからな!』
ライスコロッケは、好評を博していたらしい。反応を聞き、ホッと胸をなで下ろす。
「驚いた。こんな野外でも、あのような料理が作れるのだな」
「イクシオン殿下が作った小型自動調理器のおかげよ」
「そうか」
もう、遅い。そろそろ眠らないと、明日がつらいだろう。
「あれ、そういえば、テントはひとつしかないけれど?」
「ここで、ふたりと一匹で一夜を過ごす。そのほうが、護衛の手もかからない」
「あ、そっか。そう、だよね」
結婚前の男女が同じ空間で一夜を過ごすなど、ありえないことだ。けれど、護衛の手間を考えたら、一緒のテントで眠るしかない。リュカオンもいるし、正確にいったらふたりきりというわけでもなかった。
腹をくくって出入り口を跨いだ。テントの中は案外広く、畳二畳分くらいだろうか。
先ほど持ち込んだ風呂自動湯沸かし器は外に出され、布団と毛布、羽布団が用意されていた。
続いて、リュカオンを抱いたイクシオン殿下が入ってくる。
「アステリア、すまない。しばしの我慢だ」
「ええ、大丈夫よ。明日は、街で一泊だし」
横たわり、すばやく毛布と羽布団の中に潜り込んだ。灯りも消して、暗くする。
「あの、アステリア」
「何?」
「実は、だな。私は、真っ暗な部屋では、眠れない」
「冗談でしょう?」
「いや、本当なんだ」
「なんで、真っ暗闇だと眠れないの?」
「恐ろしい化け物が、攫いにくるのではと考えたら、怖くて」
「来ないわよ。来たとしても、外には護衛がいるし、心配いらないわ」
しんと静まり返る中、小さな声で「それでも怖い」と聞こえた。
「リュカオンは、どっち派なの?」
『我は、どっちでもいい派だ。明るかろうが、暗かろうが、眠れる』
「そう。暗い派ね」
「おい、アステリア。リュカオンはどちらでもいいと言っただろうが!」
「私が、暗い派にリュカオンを引き入れたのよ」
「ズルではないか!」
夜、明るくしたまま眠るのは、得策ではないだろう。私たちはここですと、主張しているようなものだから。
「敵に見つかりにくいのは、暗くして眠るほうなのよ」
「それは……まあ、そうだな」
心細いような声が聞こえたので、仕方がないと思い、イクシオン殿下に手を差し伸べる。
「どうぞ。私の手を握って眠ったら?」
「え!?」
「誰かに触れていたら、少しは怖くなくなるでしょう?」
「そう、なのか?」
「ええ、そうよ」
私も子ども時代、怖い夢を見たとき、兄の布団に潜り込んだことがあった。誰かのぬくもりを感じる中にいたら、不思議と怖くなかったのだ。
「手、握るの? 握らないの?」
答える前に、イクシオン殿下は私の手をぎゅっと握った。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
一日目の夜は更けていく。
二日目、三日目と、魔物に遭遇することなく、順調に進んだ。
ヘルアーム子爵領に近づけば近づくほど、魔物の巣窟となっていたらしい。それも、昔の話である。今は、聖獣リュカオンの守護の力がある。
魔物は一匹たりとも、いなくなっていた。
さすが、リュカオンの祝福だ。親衛隊員も、あまりにも魔物がいないので、驚いているようだ。
「あなた、本物の聖獣だったのね」
『疑っておったのか』
「いや、まあ……」
普段、ごはんをもりもり食べては眠るという行動しか見ていないので、そのうちただの子犬の世話をしている気分になっていたのだろう。
『しかし、この国は、思った以上に負の力に支配されていた。守護の力も、アステリアの食事抜きには長い期間は持続できなかっただろう』
「そうだったのね」
『お主が陰なる英雄よ』
「大げさに聞こえるけれど」
『謙遜するな、英雄よ』
そんな話をするうちに、ヘルアーム子爵邸に入った。
冬野菜の収穫期であるはずなのに、目の前に広がるのは荒れた田畑である。
農村らしき場所はあったが、まったく人の気配がない。かやぶき屋根の家は、半壊か全壊。木々は折れ、森は焼けていた。
「なんだ、これは」
イクシオン殿下の言葉に、答えられる者はいない。
国からの支援物資など、届いていなかった。
否、届いていたのかもしれないが、スタンピートの被害を受けた村の復興に使われることはなかった。
「村人は、どこにいるのだ?」
リュカオンが耳を澄ます。村人たちの〝声〟を、聞いているのかもしれない。
『――む、こっちだ!』
リュカオンは走り出す。丘を下り、焼けた森を抜けた先にあった川にたどり着く。川岸に、ボロボロの布を張ったテントがポツポツと立てられていた。
洗濯物が干され、石を積んで作った窯があり、開いた魚が風に吹かれている。明らかに、ここで生活をしているといった風景であった。
洗濯物はボロボロで、極限の暮らしをしているということが手に取って分かる。
やってきた私たちを見た人々は、すばやくテントの中に隠れてしまった。
「イクシオン殿下……!」
「あれが、ヘルアーム子爵領の村人か」
イクシオン殿下が近くにあったテントに近寄ろうとしたが、親衛隊の騎士のひとりに止められた。
「殿下はここに。話は、私が聞いてきましょう」
「わかった。あまり、刺激をしないようにな」
「承知いたしました」
騎士は剣を地面に置き、敵意がないことを主張しつつ村人のテントへ向かった。
テントから一メートルほど離れた位置から、声をかける。
「失礼いたします。我らは第三王子イクシオン殿下が親衛隊です。しばし、事情をお聞きしたく、まいりました」
返事はなく、代わりに石が飛んできた。攻撃は想定済みだったからか、騎士は涼しい顔をして石を避けた。
「我らは敵ではありません。聖獣リュカオンがあなた方の嘆きを聞き、馳せ参じたまでです」
反応はない。
もしかしたら、今までひどい目に遭ってきたから、騎士の言うことが信じられないのかもしれない。
「すまなかった」
イクシオン殿下はぽつりと呟き、一歩、一歩と前に出る。騎士が止めようとしたが、その手を振りほどく。リュカオンは『好きにさせておけ』と言って騎士たちを制した。
「嘆いている者たちに気づかず、私は、のうのうと暮らしていた。本当に、申し訳ないと、思っている」
テントへ近づくイクシオン殿下に、石が投げられた。額に当たり、血を流す。
「殿下!」
「近づくな! 村人たちが怖がるだろう」
イクシオン殿下はテントの前に跪き、頭を垂れた。
「私は、そなたらを助けたい。どうか、話を聞かせてくれないか?」
そっと、テントから顔を出したのは、十歳くらいの少年だった。奥には、三人の幼い子どもたちが見える。大人は、いないようだった。
「誰か大人は? 不在なのか?」
「死んだ。魔物に、殺されてしまったんだ」
「食事はどうしていたんだ?」
「家畜の鶏を潰して……なくなってからは野性のウサギとか、鳥とか食べていたけれど、肉付きは悪く、おいしくなくて……」
「そうか。いきなり声をかけ、驚かせてしまい、すまなかった。私たちは、そなたらを、助けに来た。もう、心配しなくてもいい。寒かっただろう。暖かい毛布と、料理を用意させよう」
イクシオン殿下がそう言った瞬間、少年は涙を流す。幼い子どもたちは、少年を心配そうにのぞき込んでいた。
今まで、幼い弟妹を少年がひとりで守っていたのだろう。
「すみません、私どもからも、詳しい話をさせてもらえませんか?」
ほかの村人たちもテントから出てきて、私たちを取り囲む。老若男女、年齢層はさまざまだ。
イクシオン殿下は深く頷いた。話を尋ねる前に、騎士や私に指示を飛ばす。
「親衛隊は支援物資の用意を。アステリアは今すぐ料理を準備してくれないか?」
騎士は短く返事をし、すぐに動き出す。
「すまない、苦労をかける」
「そのために、ここに来たんだから、気にしないで」
「ありがとう」
村人の人数は五十名ほど。給食みたいにいっきに大人数の料理を作るのは初めてだが、やるしかない。
何を作ろうか。とりあえず、温かいスープは必要だろう。あとは、元気になれる料理を作らなければ。
「ねえ、リュカオン、何がいいと思う?」
『我は、〝からあげ〟がいいと思うぞ!』
胃に優しいもののほうがいいのでは、と思ったが、彼らは普段から野性動物の肉を食べていたと話していた。きっと大丈夫だろう。
「そうね。からあげは、みんな大好きだもの。気に入ってくれるはずだわ」
騎士たちが調理器具と食材、小型自動調理器を持ってきてくれた。腕をまくり、エプロンをかけて調理を開始する。
まず、スープを用意する。大鍋に野菜とベーコンを入れ、強火でコトコト煮込む。次に、からあげの下準備をする。塩コショウ、香辛料を揉み込み、しばらく放置して味を染みこませる。
「あの、何か、お手伝いをしましょうか?」
声をかけてくれたのは、村の女性陣だった。
「ありがとう。助かるわ。鍋のあく抜きと、野菜を刻んでもらえるかしら?」
「ええ、任せてちょうだい」
手が空いたので、次なる調理に取りかかる。
元気になる食べ物といったら、白米だ。一番は梅おにぎりだけれど、都合よく異世界に梅干しや海苔はない。それに、ここの世界の人たちの主食はパンだ。いきなり梅おにぎりなんて手渡されても、おいしく食べられないだろう。
リゾットやオムライスみたいな、ご飯に味を付けたものは好評だった。今回は、ピラフの味付けにしたものをおにぎりにしよう。
ピラフそのままのレシピだと、パラパラになって握れないので、心なしか水分は多めに。ベーコンと女性陣に刻んでもらった野菜を入れ、自動調理器で作ったコンソメを入れて炊き上げた。
炊きたてのピラフにバターをひと欠片落とし、すばやく混ぜる。私はこれに醤油をさっと垂らして食べるのが好きだけれど、残念ながら醤油はない。
絹の手袋を嵌め、濡らした布に包んでおにぎりを握った。途中から、村の女性陣に任せる。
最後に、からあげを揚げる。温度調整がおいしさの決め手なので、これは誰にも任せられない。
油を張った鍋に小麦粉を落とす。しゅわしゅわと、気泡が生まれる。これくらいでいいだろう。
味付けした鶏肉をどんどん鍋に滑り込ませた。
じゅわじゅわと、揚がっていく。香ばしい匂いが、辺りに漂った。
空腹であろう子どもたちが、キラキラした瞳を向けてくる。その中に、リュカオンの姿もあったので、笑いそうになってしまった。
鶏肉をすべて揚げ、おにぎりピラフも握り終えたという。スープもおいしく煮えたようだ。
唐揚げを求めて行列ができている。今から、村人たちに食事をふるまう。お皿を持参してもらい、女性陣と協力して配った。
大人は子どもたちを優先させていた。今まで、満足に食事ができていなかったのだろう。一心不乱で食べる姿があちらこちらに見える。
先ほど、弟妹を守るために石を投げてきた少年の姿もあった。弟妹たちがからあげを頰張る様子を、笑顔で見ている。
反対を押し切ってやってきてよかったと、心から思った。
長い列も、そろそろ途切れそうだ。ホッとしていたら、最後尾に思いがけない存在を発見してしまう。リュカオンだ。大人の後ろに並んでいたので、姿が確認できなかったのだ。
『ふう、やっと我の番になるな』
被災地の方々を優先させ、最後に並んでいた健気な様子にきゅんとしてしまう。
順番が回ってきたら、口をパカっと開いてきたので、からあげを食べさせてやった。
『おおおおお! 皮はパリパリ、中はジューシー! やはり、〝からあげ〟とは、至高の食べ物よ!』
「お口に合ったようで、何よりだわ」
食事をしている間、新しいテントが立てられ、毛布や水、食料などが配られる。
イクシオン殿下と数名の騎士は、ヘルアーム子爵邸へ向かったようだ。
「リュカオン、イクシオン殿下は大丈夫かしら?」
『まあ、大丈夫だろう。ここにいるのは、極悪人ではない。小悪党だ』
リュカオンの言葉の通り、ヘルアーム子爵の従弟だという分家の男とその一家は拘束された。
なんでも、王都から届いた支援物資をすべて横領し、不必要な品は横流ししていたようだ。管理を任せていたヘルアーム子爵には虚偽の報告をしていたらしい。
すぐさま、王都に伝わり、裁かれることとなった。
そして、村の復興が始まる。
「アステリア。私は、王都へ報告しに、リュカオンと共にいったん戻る。あとのことを、任せてもいいだろうか?」
危ないから一緒に戻ろうと言うのかと思っていたが、護衛騎士を全員私に付け、現場の指揮を任せてくれるらしい。
なんというか、出会った当初は王族の自覚がない甘ったれた王子様という印象だった。けれど今は、凜々しく見える。
「不安だろうが……そなたしか、頼める者はいないから」
「大丈夫よ。任せてちょうだい!」
そんなふうに答えたら、イクシオン殿下は安堵したように微笑んだ。
イクシオン殿下はリュカオンの転移魔法で王都へ戻る。
私は王都から戻ってきたリュカオンと共にヘルアーム子爵領に残った。毎日料理を作って、村人たちをお腹いっぱいにしている。
こうして、毎日せっせと料理を作っていると、レストランで働いていたときを思い出してしまった。
みんなが、私が作った料理を食べて、幸せそうな顔をしている。
私がやりたかったのは、料理を作って食べた人を笑顔にすることなのだと、ひしひし痛感してしまった。
一ケ月後――イクシオン殿下が私とリュカオンを迎えにくる。
王都から支援団体が派遣され、村の復興もずいぶん進んだ。
食堂も、今は主力となって作る人たちができて、私がここにいる必要はなくなりつつあったのだ。
食堂の裏口から外に出て、イクシオン殿下と共に復興しかけた村を見る。
皆、生き生きとした表情で働いていた。無残に荒れ果てた土地は、再生しつつある。もう、嘆きはどこからも聞こえてこない。
「アステリア、ご苦労だった」
「イクシオン殿下も、いろいろ大変だったでしょう?」
「そなたの苦労に比べたら、なんてことはない。心から、感謝する」
イクシオン殿下は私の腕を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
「王都に、私たちの宮殿に、帰ろう」
「ええ」
いろいろあってイクシオン殿下の婚約者になった。最初は「最悪」のひと言だったが、しだいに彼を支えたいと思うようになる。
今は、結婚してやってもいいかな、と思うようになった。
私も大人になったものだ。
「イクシオン殿下ー! アステリア様ー!」
子どもたちを先頭に村人たちがやってきた。
「ありがとうございました!」
「イクシオン殿下万歳!」
あっという間に村人たちに取り囲まれ、万歳三唱が始まる。
イクシオン殿下は淡い微笑みを浮かべ、村人たちの声に応えていた。
「聖女、アステリア様、万歳!」
「聖女様、万歳!」
「え?」
なぜ、私が〝聖女〟なのか?
「ちょっと、意味がわからないんだけれど」
イクシオン殿下はいじわるそうな微笑みを浮かべながら答えた。
「さしずめ、村人たちを空腹から救った聖女といったところか」
頭を抱え、どうしてそうなったのだと叫ぶ。(※四ケ月ぶり、五回目)
私の嘆きは歓声にかき消され、人々に届くことはなかった。
まあ、何はともあれ、めでたしめでたしと言ってもいいだろう。
◇◇◇
このように聖獣であるリュカオンは次々と私達のもとへ事件を引き寄せる。
それをリュカオンと一緒に解決していくうちに、いつの間にか国民達からも聖女扱いされるようになっていた。
イクシオンの魔道具の開発も、父の融資で成功し、人々の暮らしは快適になっていく。
私とイクシオンはしだいに、英雄扱いされるようになった。
お似合いのふたりだとはやし立てられ、悪い気もしなかったから、勢いで彼と結婚してしまった。
王子妃になるなんて未来など、誰が想像できただろうか。
しかしながら、彼らと過ごす毎日は幸せに満ち溢れ、前世とは違った私が望む人生を歩むことができただろう。
「ポンコツ令嬢に転生したら、もふもふから王子のメシウマ嫁に任命されました」完




