まさかのお仕事
お饅頭の準備が整ったので、身支度を調えることにした。今回も、メルヴの手を借りる。
今日、面会するのは国王夫妻だ。ドレスも、華美ではないものを着用しなければ。
メルヴたちと一緒に決めたのは、パールホワイトのアフタヌーン・ドレス。微妙な時間なのでイブニング・ドレスと迷ったが、晩餐会に行くわけではないので、昼用礼装を選んだ。襟や袖に真珠が縫い付けられていて、清楚で品のある一着である。
着替えが終わったらドレスの上から布が被せられ、化粧が始まる。メルヴたちは頭部から伸ばしたツルを使い、器用に化粧を施してくれるのだ。髪結いも同様に。
ティアラのように三つ編みを結い、後頭部にベルベットのリボンを結ぶ髪型を作ってくれた。
ダイヤモンドの耳飾りと首飾りを身につけ、最後に姿見で確認する。
「みんな、ありがとう。素敵に仕上がっているわ」
私がお礼を言うと、メルヴたちは小躍りしながら喜んでくれた。
なぜ、このように着飾って、国王夫妻にお饅頭を持って挨拶に行かなければならないのか。
溜息をひとつこぼし、イクシオン殿下、リュカオンと合流した。
王宮まで、リュカオンの転移魔法で向かう。今日は、扉の前に降り立つようにお願いしておいた。
いきなり部屋に転移し、気まずい思いをするのは一回だけで十分だ。
警備をする騎士たちを驚かせる形で、私たちは国王夫妻の私室の前に転移した。
一瞬ピリッとした空気が流れたものの、隊長格らしき中年男性が「第三王子イクシオン殿下のおなり!」と叫んだので、騎士たちの背筋がピンと伸びる。そのまま、国王夫妻の部屋へ通された。
「おお、イクシオン、来たか」
立ち上がったのは、口髭がダンディなイケオジといった雰囲気の五十代くらいの男性。
「待っていたのよ」
続けて声をかけてきたのは、金髪碧眼の四十代くらいに見える美しい女性だ。
彼らが、国王夫妻なのだろう。私はその場に膝を突き、頭を垂れる。
「父上、母上、彼女が私の婚約者である、アステリア・ラ・アストライヤーです」
「顔を上げてくれ」
「可愛い顔を、見せていただけるかしら?」
恐れ多い気もしたが、命じられた通りに顔を上げる。
「ふむ。見事にアストライヤー家の者の特徴が出ているな」
「ええ、燃えるような赤い瞳に、愛らしい薄紅色の髪。まさしく、アストライヤー家の者ね」
「アストライヤー家の者を我が王族に迎えられることを、嬉しく思う」
「今まで、アストライヤー家の者たちは領地から出たくないと言って、王家に嫁いでくれなかったのよね」
国境の統治を任されたアストライヤー家は、王家より厚い信頼を寄せられている。それは、耳にたこができるほど父から聞かされていた言葉だったが、嘘ではなかったらしい。
長椅子に腰を下ろしたあと、イクシオン殿下は私の膝の上に座るリュカオンを紹介した。
「父上、母上、こちらが、聖獣リュカオンになります。今は、力を温存させるために、小さき姿でありますが」
「かわっ……ふむ、事情があって、小さき姿であるのだな」
今、「可愛い」と言いかけたような。国王陛下は、リュカオンに熱い視線を向けている。一方、王妃様は素直な反応を見せていた。
「まあ、可愛い。陛下は、こういう小さくて愛らしい生き物が、大好きなのよ」
言っちゃった。国王陛下は隠そうとしていたのに。国王は恥ずかしそうに、もじもじし始める。なんていうか、威厳たっぷりな雰囲気だったのに、いっきに親しみやすくなった。
「でも、よかったわ。イッくん、自分の宮殿に引きこもって魔道具の研究に打ち込むばかりで、舞踏会や晩餐会に一回も顔を出さなかったから」
「母上、イッくんは止めてほしいと何度も言っているでしょう?」
「ごめんなさい、イッくん。癖が直らなくて」
「兄上たちは普通に名前で呼んでいるのに、私だけなぜ……?」
イクシオン殿下は、よほど「イッくん」呼びが恥ずかしいのか、耳まで真っ赤に染めていた。
王妃様はさらに追い打ちをかける。
「女性にも興味がなくて、そのうち、魔道具で作った女性を紹介されるんじゃないかって、ヒヤヒヤしていたの」
引きこもりの息子を持つ母親の話を、どんな顔をして聞けばいいのかわからなくなる。視線を逸らそうとしたら、リュカオンをガン見している国王陛下に気づいてしまった。リュカオンを抱き上げ、差し出すと国王陛下は笑顔で受け取ってくれる。
「寝ても覚めても魔道具、魔道具、魔道具って言うばかりで、私たちのほうから魔道具の女性を探さなければならないのかと、陛下と真剣に話し合ったこともあったわ」
「母上、それはいくらなんでも……」
「だって、どんなきれいな女性を紹介しても、まったく惹かれないとか言い出すし」
「それは、本当のことを言ったまでで」
「でも、アステリアちゃんはイッくんが選んだのよね? どこに惹かれたの?」
イクシオン殿下はぶるぶると震え始める。なんだか気の毒に思えてきた。だが、相手は王妃様であり、実の母親である。私なんぞが対処できる相手ではない。
「アステリアは私の魔道具を理解し、褒めてくれました。それから、遠慮なく意見してくれるところも、気に入って、います」
「まあ。アステリアちゃんは、イッくんの一番の理解者なのね。素敵だわ!」
まさか、言うとは……。私まで恥ずかしくなってしまう。
「それから、彼女の作る料理はとてもおいしく、食事の時間が楽しみになりました」
「まあ、そうなの? イッくん、子どものときから小食だったわよね。ぜんぜん、食事を取らなくって。ここまで大きく育ったのは、奇跡だと思っていたのだけれど」
「そういえば、今日はアステリア嬢が料理を作ってきてくれたのだったな」
「カイロスがおいしい、おいしいと言っていたものだから、ずっと気になっていたの。リュカオンちゃんのお食事係とかで忙しいのに、作ってきてくれて、ありがとう」
「お口に合えばいいのですが」
ここで、白あんのお饅頭を差し出す。侍女の手によって、私が作ったお饅頭がオシャレに盛り付けられた。
国王陛下が口にする前に、毒味を行うらしい。年若い侍従が一歩前に出て、お饅頭をふたつに割る。
「これは……!」
侍従がハッとなったので、国王陛下が鋭く問いかける。
「どうした?」
「いえ、初めて見るお菓子でしたので、何のクリームが入っているのかと疑問に思ったものですから」
「紛らわしいことをするでない。さっさと食せ」
「御意に」
ひと口食べたあと、侍従は口に手を当て、「うっ!!」と声を漏らす。
「おい、どうした!?」
「う……まい」
「は?」
「うまい、です」
「だからお前は、紛らわしいのだ!」
見事な国王陛下の突っ込みが炸裂する。
この空気感、イクシオン殿下にそっくりである。ふたりはたしかに親子だった。
「では、問題ないということで、いただくとしよう」
何事もなかったかのように、国王陛下はお皿に載ったお饅頭をフォークで押さえ、ナイフでひと口大にカットする。
お饅頭ひとつでも、優雅に召し上がるようだ。
「むう! これは!」
国王陛下は、カッと目を見開く。
「生地はふわふわで、中に入っているクリームは濃厚。だが、後味はあっさりしていて、いくらでも食べられそうだ」
残った半分のお饅頭は、リュカオンにあげていた。心優しき国王である。
先ほどから芸を仕込もうと、お手を教えていたが、相手は聖獣。従うわけがなかった。続いて、王妃様も口にしていた。
「まあ! おいしい。初めて食べるお菓子だわ。中に入っているのは、何かしら?」
「インゲン豆をペースト状にしたものです」
「これは、インゲン豆なのね。バターに何かを加えたクリームかと思っていたわ」
「私もそう思っていた。いやはや、見事だ」
「本当に、おいしかったわ」
「リュカオンやイクシオンが、アステリア嬢の料理に夢中になるのも理解できた」
「カイロスが絶賛していたんだもの。相当な腕前だと思っていたら、期待以上だったわ」
ふたりとも、お饅頭を気に入ってくれたようだ。ホッと胸をなで下ろす。
任務は完了となったので、そろそろお暇したい。イクシオン殿下に視線で訴えると、承知したとばかりに頷く。
「では、父上、母上、私たちは宮殿に戻ります」
「待たれよ。まだ、本題に移っていない」
「実は、お願いごとがあって」
何やら嫌な予感がする。また今度ゆっくりと言いたいところだったが、逃げられるような雰囲気ではなかった。
「一ケ月後に北に位置する大国『スノウベリー国』の王太子夫妻が来訪することとなった。ちょっとした歓迎のパーティーを開く予定なのだが、そこで出す軽食を、アステリア嬢に考えてほしい」
「私が、ですか?」
「ええ。このお饅頭のような、珍しくておいしい料理を考えてほしいの」
甘い物ではなく、小腹が満たされる軽食がいいらしい。
「突然、すまない。実は、宮廷料理人にも同様に、軽食を考えるよう命じたのだが、ピンとくるものがなくてな」
「スノウベリー国の王太子夫婦は、目新しいもの好きだと噂されているので、食べたことがないような軽食だと、喜ぶと思って」
軽食のアイデア出しは、私以外の料理人からも募っているらしい。
十日後、コンペティションを行い、国王夫妻が決めた料理が歓迎パーティーの軽食として提供されるという。
私だけでなく、ほかの料理人も参加する競合だというのであれば、俄然燃えてくる。ふたつ返事で了承した。
その後、ようやく解放される。
イクシオン殿下の宮殿に戻ったあと、ハッと我に返った。
「私、大事な歓迎パーティーの軽食コンペティションに参加するって、なんで安請け合いしちゃったの!?」
料理関係の競いごとと聞くと、ついつい闘志に火がついてしまうのだ。悪い癖だろう。
「アステリアならば、すばらしい着想が浮かぶだろう」
『そうだぞ。今までも、おいしい料理を作ってきただろう?』
まさか、イクシオン殿下とリュカオンに勇気づけられる日が来るとは。
……まあ、今まで作ってきた料理は、私が考えた物ではないけれど。ふたりの、私を励まそうという気持ちだけ受け取っておく。
「参加者はアステリアだけではない。ほかの者もいる。そこまで責任を重く捉えずに、心を軽くして考えるといい」
『イクシオンの言う通りだ』
「リュカオン。初めて意見が合ったな」
『そういえば、そうだな』
ふたりからの応援を受け、歓迎パーティーで出す軽食を考えることにした。
◇◇◇
パーティーの軽食といったら、カナッペやピンチョス、エッグドスタッフ、タルティーヌなどの、ひと口で食べられるフィンガーフードだろう。
けれど、国王夫妻は定番を欲しがっているのではない。一風変わった軽食を欲しているのだ。
「うーん……!」
『苦労しているようだな』
頭を抱える私の背後に現れたのは、リュカオンだ。
「リュカオン、何か私の記憶の中に、お客さんが喜びそうな軽食はある?」
こうなったら、聖獣頼みである。
『そうだな……この、〝すし〟というのはどうだ? 色鮮やかで、パーティーで映えるのではないか?』
「寿司、かー」
日本人ばかりでなく、外国人までも魅了するお寿司。たしかに、彩りはきれいである。しかし、しかしだ。この世界の人たちは、魚を生食しない。それに、酢飯も好みじゃないだろう。
『どんな味がするのか、非常に気になる!』
「だったら、作ってみるわ。ちょうど、魚はいろいろあるみたいだし」
魚の養殖場へ行き、鮪らしき魚と、鮭らしき魚、蛸らしき軟体生物をもらってくる。
自動調理器で米を炊き、酢飯を作った。蛸は茹で、魚はすばやくさばき、ネタを作る。
「あとは握るだけ――あ!」
『どうした?』
「醤油がないんだった」
ワサビもないが、もっとも重要なのは醤油だろう。
『〝ショウユ〟、か。以前、話していたものだな?』
「ええ。お寿司に付けるソースでもあるのだけれど」
『イクシオンに探させていなかったのか?』
「ええ。バタバタしていて」
『作り方は、知らないのだな?』
「さすがの私も、醤油の作り方は知らないわ」
『そうか』
醤油がなければ、お寿司のおいしさは半減するだろう。腕を組んで考える。
『アステリアの記憶から、〝ショウユ〟に関するものを視てもよいか?』
「ええ、どうぞ」
『失礼する』
リュカオンは目を瞑り、うんうんと頷いている。
『なるほど。豆を発酵させて作るソースなのだな』
「ええ」
『作業工程の映像はいくつかあったが、詳細はないようだ』
それは、私がテレビで見た醤油の製造工程だろう。たいてい、詳しい材料など作り方は企業秘密であることが多いので、詳細を知るすべはなかった。
『関連して、〝すし〟に何かソースを塗って食べるものもあったが』
「あ、江戸前寿司!」
江戸前寿司は醤油に浸けて食べるのではなく、甘く煮詰めた醤油を塗って食べるものだ。パーティーの軽食にするならば、江戸前のほうが食べやすいだろう。
問題は、ソースだ。この国でポピュラーなワインを使ったソースは絶対に合わない。
試行錯誤した結果、牡蠣ソースがもっとも醤油に近い風味を出すことができた。これをお寿司のネタに塗って、なんちゃって江戸前寿司に仕上げた。
鮭っぽい魚のお腹からいくらも出てきたので、レタスをお皿代わりにして、酢飯といくらを載せ牡蠣ソースをかけたプチいくら丼も作ってみる。
イクシオン殿下とリュカオンに、味見をしてもらう。
「アステリア、もう完成したのか?」
「ええ、これなんだけれど」
彩りをきれいに見せるために、ネタと酢飯の間に牡蠣ソースを塗った、〝なんちゃって江戸前寿司〟である。
「これは、美しい。まるで、宝石のように輝いている」
『見た目は合格だな』
問題は、味である。ドキドキしながら、ふたりが試食する様子を見守った。
イクシオン殿下とリュカオンは、同時に食べる。
「うっ!」
『おお!』
反応は、まったく正反対であった。イクシオン殿下は苦しそうに白目を剝き、リュカオンは尻尾をぶんぶん振っている。
「アステリア、こ、これは、むぐぐ、無理」
「あー、やっぱダメか。あ、どうぞ、こっちに」
「……すまぬ」
イクシオン殿下は、鮭握りを呑み込むことができなかった。
一方、鮪っぽい魚の握りを食べたリュカオンは瞳を輝かせながら言った。
『うまい、うまいぞ! 最高だ! 〝マグロ・ニギリ〟は、海のルビーだ!』
気持ちいいくらい、パクパクと食べてくれた。イクシオン殿下は青い表情のまま、口元を押さえている。口直しに、バニラアイスクリームを与えた。
落ち着いたところで、詳しい話を聞いてみる。
「やっぱり、生魚はダメだった?」
「うむ、そうだな。あの、生魚のにゅるり、という食感と、魚臭さがダメだった」
「なるほどなー」
『とんでもなくうまいのに、口に合わないとは気の毒なものだ』
リュカオンに『魚卵だったら食べられるだろう!』と勧められ、イクシオン殿下は涙目で挑戦しようとしていたが、また吐きそうな気がしたので止めておいた。
『これが口に合わないとは。人生損をしているな。この、プチプチの食感が、たまらないというのに! 我は犬生の楽しみが多くて幸せだぞ!』
いや、あんた聖獣じゃなくて、犬カテゴリーなんかい。という突っ込みはさておいて。
リュカオンだけでも、喜んで食べてくれてよかった。ありがたいことに、作った分はすべて平らげてくれた。
イクシオン殿下はシュンとしつつ、謝罪の言葉を口にする。
「アステリア、本当に、すまない」
「気にしないで。好みや魚を生食しない文化の違いもあるだろうから」
イクシオン殿下は今までなんでも食べていた。好き嫌いはなかったので、きっと彼をこの世界の人々の好みの基準として問題ないだろう。
「お寿司がダメならば、何を作ればいいのか」
『寒い国から来るのだから、温かいものを作ればいいのでは?』
心と身体をほかほかにする、温かい料理。いいかもしれない。何があるのか、腕組みし考える。
『アステリア、〝おでん〟はどうだ?』
「おでん……!」
出汁が染みこんだダイコンに、つるんとしたこんにゃく、争奪戦になる餅巾着に、ホクホクなジャガイモ、辛子をちょこんと載せて食べたい卵。
おでん――それは、寒い日にもっとも食べたい料理かもしれない。
「私も食べたい、おでん!」
『〝おでん〟!』
「でも、材料が、ないの!」
『ないのか!?』
「まず、この国に昆布ってある?」
おでんでもっとも重要なのは、昆布から取る出汁だろう。あれで、おでんは最高に深みがある料理となるのだ。
『その食材は、初めて聞く』
「イクシオン殿下はご存じ?」
リュカオンと共に、イクシオン殿下を見る。
「なんだ、〝こんぶ〟とは?」
「海中で繁殖する海藻の一種なんだけれど」
昆布というものは太くて長くて、海の深い場所に生えている。棒状の道具に巻き付け、獲るのだ。
「そのようなものは、食べない。なぜ、海には豊富な魚介や貝類があるというのに、海藻なんかを食べるのか?」
真顔で聞かれ、「たしかにそうかも」と流されそうになる。
「海藻といえば、話を聞いたことがある。その昔、私たちの大祖父が王太子時代、船で釣りを楽しんでいたら、遭難してしまったと」
魚が釣れず、絶体絶命となった。そんなときに、船をこぐオールに何かが巻き付いた。
「黒く、長い海藻だったらしい」
食べるものは海藻しかない。空腹に耐えきれなかったイクシオン殿下の大祖父は、海藻を口にしたらしい。
「腹は膨れたが、激しい腹痛と吐き気に苛まれ、ひどい目にあったのだとか。以降、海藻は危険な食べ物だと代々伝えるよう、遺言を残していた。当時、大祖父が食べた海藻が、〝こんぶ〟だったのかもしれない」
「なるほど」
そういえば、以前「生の海藻類を消化できるのは日本人だけ」という話を聞いたことがあったような気がする。
日本人の腸内には、海藻の細胞層を分解させる微生物が存在するとかしないとか。ずっと前に聞いた話なので、信憑性については謎だけれど。
「イクシオン殿下、海藻類は加熱したら、害にならないの」
「そうなのだな」
「昆布出汁は、加熱するから心配いらないわ」
昆布出汁のすばらしさについて語っていたら、イクシオン殿下もだんだんと興味がそそられてきたようだ。
「そこまで言うのならば、アステリア。今度、休みが取れたら、海に〝こんぶ〟を獲りに行ってみよう。心配するな。船は、王族専用のものがある」
何かカッコイイ感じに誘ってきたが、要は、海に昆布を獲りに行くというだけの話である。
「〝こんぶ〟を獲る魔道具も、用意しておこう」
「えっと、急ぎではないので、暇なときにお願い」
「わかった」
昆布についてはひとまずおいておく。歓迎パーティーで出す軽食を決めなければ。
「寒い日にぴったりの、一品……」
おでんは材料がないので却下。次に、寒い日に食べたくなるものは――。
『アステリア、その、記憶の中のガラスケースに入っているのは、〝まんじゅう〟なのか?』
「ガラスケースのお饅頭?」
『カウンターの向こう側の店員が、出したり入れたりしているな』
「カウンターの店員が、出し入れ……? あ!」
リュカオンが言っているのは、コンビニで売られているホットスナックのことだろう。
「それは、肉まんよ」
『ほう? 〝まんじゅう〟ではないのだな』
「ええ。中に、ひき肉のあんが入っているの」
『それも、ほかほかしていて、おいしそうだ』
「そうね」
肉まんか。たしかに、冬になったら食べたくなる。しかし、正直な話パーティーにふさわしい料理ではないけれど。この世界では目新しさがあるかもしれない。イクシオン殿下にガラス製の保温器を作ってもらって、アツアツの肉まんを提供するのもおもしろいだろう。
「肉まん。いいわね。試作品を作ってみましょう」
『楽しみだ!』




