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ポンコツ令嬢に転生したら、もふもふから王子のメシウマ嫁に任命されました  作者: 江本マシメサ
第四話 心も身体も温かくなる『ほかほか肉まん』

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寒い日にはこれだ!

 私がイクシオン殿下の宮殿にお邪魔をしてから、一ケ月が経った。

 相変わらず、イクシオン殿下は便利な魔道具を発表しては、製品化できないと却下される毎日を送っている。

 先日開発したのは、〝お天気シート〟。曇天や雨天の日に空に広げると、一定範囲を晴天にできるのだ。非常に使い勝手がいい魔道具だが、一枚の値段が金貨十枚。日本円にしたら、百万円。

 いったい、誰が買うというのかと、帰宅後の反省会で突っ込んだ。


「なるほど。金貨百枚は、なかなか手出しできない金額なのか」

「労働者階級の平均賃金は、金貨一枚くらいだから」

「それは、一日の給料なのか?」

「一ケ月!」

「なっ……彼らは一ケ月働いて、金貨一枚しかもらっていないのか!?」

「そうよ」

「金貨一枚で、どうやって生活しているのか、想像できない」


 王族として何不自由なく暮らしていたので、無理もないのだろう。

 ただ、普及を目指す魔道具作りをしている者としては、国民の生活水準を知らないのは致命的だ。


「アステリアは、裕福なアストライヤー家の出自なのに、よく下々の者たちの生活を把握していたな」

「それは、私の前世がドのつく庶民だったからよ」

「その話、本当だったのだな」

「信じていなかったの?」

「話半分程度に聞いていた」


 なんだと!?と返しそうになったが、自分の立場に置き換えてみる。もしも、イクシオン殿下が、「前世はアラカン独身王子だった」なんて言っても、「ふーん」としか思わないだろう。大事なのは、生まれ変わったあとどう生きるか、なのかもしれない。


「イクシオン殿下は国民の生活を豊かにするために、魔道具を作っているのでしょう? 開発費はいくらだってかけてもいいから、低価格で買える物を考えないと」

「それもそうだな」

「難しいのであれば、魔道具を売る層を変えるとか」

「富裕層に売るのか?」

「ええ、そうよ。それか、外国向けに販売するの。国庫が潤ったら、国民の生活も豊かになるはず」

「ああ、なるほど。そういう考えもあるのか」


 落ち込んでいる様子だったが、だんだんと元気を取り戻す。単純で本当によかった。


「あの、アステリア。新しい着想を思いついたら、作る前に相談してもいいか?」

「ええ、もちろん」

「ありがとう」


 イクシオン殿下は私の手を握り、安心したように微笑んだ。

 信頼しきったような笑顔に、胸が高鳴ってしまう。

 イケメンの素朴な笑顔は、耐性がない者にとって破壊力が抜群だ。なんでも許してしまいそうになるので、雰囲気に流されないよう注意をしなければ。


「ああ、そうだ。アステリアに申すことが、あったのだ」

「何? 急ぎの用事?」

「父と母が、今日の夕方くらいにアステリアの料理を食べたいと言っていたのだ。何か作ってくれないか?」

「は!?」

「だから、両親がアステリアの料理を食べたいと――」


 なんでも、カイロス殿下が私の料理について、おいしかったと国王に報告したらしい。リュカオンも気に入っているとも話したことから、いったいどんな料理を作るのか、是非食べてみたいという流れになったのだとか。


「なんで、その話を先にしないの? 夕方って、あと五時間もないじゃない!」

「すまぬ……」


 いったい、何を作ればいいのか。イクシオン殿下に質問する。


「ねえ、国王夫妻はどんな料理がお好みなの?」

「知らぬ」

「は?」

「両親の食の好みなど、話題に上がらなかった」


 会話することなく、黙々と食事をするのが当たり前だったようだ。


「なんで、何も話さないの?」

「食事中での会話は、晩餐会(ばんさんかい)のときくらいだ。私は参加したことはないが、あれは、社交が目的だからな」

「そ、そんな!」

「アストライヤー家では、食事中会話をするのか?」

「あ……しない、わね」

「だったら、前世の記憶に残っているのか?」

「ええ、そう、だったわね。食事のときに、一日にあった出来事を話したり、どの料理がおいしいとか言ったり、野菜を残して怒られたり、おかずを取り合ったり。それが、家族の食卓の当たり前だったの」


 社会人になってからは、ひとりで黙々と食事を取ることも多かったので、生まれ変わってもそれが当然だと思っていたのかもしれない。


「ならば、私たちはもう、家族なのかもしれない」

「私と殿下……リュカオンも?」

「そうだ。毎日、アステリアの料理の感想を言ったり、おいしいと伝えたり。家族でするものなのだろう?」

「そう、ね」

「私はアステリアが料理を作ってくれるようになってから、食事の時間を楽しく思うようになった。いつも、感謝している」

「別に、私は、料理が好きなだけだから」


 イクシオン殿下の言葉は、私の心をきゅんと刺激する。

 生まれ変わって、物足りないと思っていたことは、貴族社会の家族のあり方が前世とまったく違っていたからなのだろう。今になって、気づいた。

 ぽっかり空いていた心の隙間に、いつの間にかイクシオン殿下とリュカオンが収まっていたのだ。

 彼らは、いつの間にか私の家族のようになっていた。


「アステリア、どうかしたのか?」

「ごめんなさい。ちょっと、胸が、苦しくて」

「なんだと? 医者を呼ぶか?」

「ううん、大丈夫」


 そう答えたのに、イクシオン殿下は侍医を呼んで診察を受けさせようとした。


「今は、国王夫妻のために料理を作らなければいけないから」

「しかし、胸が苦しいのならば、診察を受けたほうが――」

「比喩だから! あと、切ないという言葉の意味を百万回調べてきて!」


 しばらく言い合いをしていたが、フワフワの尻尾を左右に揺らしながらリュカオンがやってきて『アステリアは健康だ』と断言してくれた。「リュカオンがそう言うならば」と納得してくれたのだ。

 さすが、私の父親より頭が固い王子である。一筋縄ではいかない。


『アステリア、今から何を作るのだ?』

「前世でよく食べていたお菓子に挑戦してみようと思って。リュカオンの分も作るから、安心して」

『おお! 楽しみだ』


 尻尾を振って喜ぶリュカオンを見て、ほっこりしている場合ではなかった。

 もう、時間がない。イクシオン殿下の作った自動調理器の力を借りつつ、私の得意な和スイーツ〝お饅頭(まんじゅう)〟を作ることに決めた。

 小豆はないので、インゲン豆で白あんを作る。ちなみにこの国でのインゲン豆は、主にポタージュなどに使用されるらしい。

 ちなみに、生のインゲン豆には毒がある。うっかり生食すると、吐き気や下痢の症状が出るので、注意が必要だ。

 インゲン豆を水にさらし、自動調理器の中に入れる。半日ほど水にさらして、ふやかすのだ。

 魔法仕掛けの自動調理器は、一瞬でインゲン豆をふやかしてくれる。

 小豆と違い、インゲン豆は皮を剝いてから煮込む。毒抜きしなければならないので、ここできれいにあくを取り除いておくのもポイントだ。

 念のため三回ほど茹でこぼし、舌触りをよくするために裏漉しを行い、ようやく煮込む作業に移る。

 鍋に水を加えて、落とし蓋をした状態で煮崩れるまでしっかり煮た。インゲン豆がホロホロになった頃に、砂糖と塩を入れて、水分がなくなるまでぐつぐつ煮込む。

 水分がなくなったら、練って硬さを調節した。


「よし、こんなもんか」


 白あんが完成したら、今度は生地作りに取りかかった。小麦粉に酵母と重曹、砂糖、水を入れて混ぜる。生地がまとまってきたら、布巾をかけて休ませた。

 三十分後さらに捏ねて、十分ほど休ませる。

 蒸し器はないので、水を注いだ鍋を重ねてなんちゃって蒸籠(せいろ)を作った。

 生地に白あんを包み、十分ほど蒸したら、〝白あん饅頭〟の完成だ。

 もくもく湯気があがる鍋を、リュカオンは嬉しそうにのぞき込む。


『おお、これが、〝まんじゅう〟か!』


 蒸したてアツアツのまんじゅうを、手袋で掴んでふたつに割った。


『中も白いのだな!』


 リュカオンにまんじゅうの中身を見せていたら、イクシオン殿下がやってきた。


「できたのか?」

「できましたが」

「なぜ、敬語を使う?」


 私の顔色を(うかが)うイクシオン殿下は、雨の日に散歩に行けるか視線で問いかけてくる犬のようだった。

 お伺いを立ててくるような態度に、笑いそうになったがぐっと耐える。

 ゴホンと咳払いし、敬語を使う理由を説明した。


「今から国王夫妻に拝謁するので、失礼がないように練習しているのですが」

「すまなかった。私が無茶を受けてきたものだから、怒っているのだろう?」

「まあ、そうね」


 自動調理器のおかげでなんとかなったけれど、なかったら絶望していただろう。


「今度、頼まれたときは、まず、アステリアに相談するから」

「そうしてくれると、助かるわ」


 正直しばらく許さんと思っていたが、素直に謝ってきたので、許してあげることにした。


『アステリア! 夫婦喧嘩はそれくらいにして、我に〝まんじゅう〟を食べさせてくれ!』

「夫婦じゃないから」


 まだ、まんじゅうはアツアツだ。ふーふーと冷ましたあと、食べさせてあげる。


『むむっ! これは、初めて食べる甘味だ! 生地はふっかふかで、あんは品がある甘さだ! うまい、うまいぞ!』


 どうやら、おいしく仕上がっているようだ。


「アステリア、私にもくれ」

「はいはい」


 イクシオン殿下の分もふーふー冷まし、口元へと持っていった。

 すると、イクシオン殿下は目を見開き、驚いた顔で私を見つめる。頰も、心なしか赤くなっているような。

 それを見た途端に気づく。イクシオン殿下は別に食べさせてあげる必要はないと。

 手を引っ込めようとしたが、イクシオン殿下が口を開いて食べるほうが早かった。口元を押さえ、ボソリと呟く。


「甘い……!」


 イクシオン殿下が恥ずかしがるので、私まで照れてしまった。

 いったい何をしているのやら。


『おい、いちゃつくのは、我がいないところでしろ。〝ぴゅあ〟すぎて、目に毒だ』

「い、いちゃついてないから」


 一応、訂正しておく。


「それと、私の脳内の語彙を調べて使うのは禁止!」

『減るものではないし、よいではないか』

「よくない!」


 こんなところで、リュカオンと言い合いをしている場合ではなかった。

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