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麻倉御鈴の剣道日記(あさくらみすずのけんどうにっき)  作者: フェリオ
麻倉御鈴という女
8/23

青風

主演 御鈴の母

 御鈴(みすず)は1人で起きるようになった。中学校の頃に自力で起きた事なんて1度も無かった。入学式があっても体育祭があってもはたまた受験当日であっても。そんな我が娘が高校に入ってからは毎日しっかり起きて朝食を済ませて学校に向かっている。母親の私からすると少し寂しくもあるのだが、娘の人生に光が差している予感がして、胸が熱くなる。


 御鈴を剣道の世界に手向け(たむけ)たのは他でもない、私だ。親子で共通する話のネタを作りたいという軽い気持ちで娘に勧めてみたのだ。私が剣道を始めたのは高校生の時で始める時期としては遅めだった。そのおかげか、卒業した後も近所の道場に通うなど、剣道の世界にどっぷりハマった。そんな私に呆れたのか、夫は私と娘を置いて姿を消した。それを機に私は剣道を辞め、シングルマザーとして社会に出ていく事になった。娘が「1人」で道場に通い始めたのは中学生になってからだった。


 私の娘はみるみるうちに強く美しく育った。巷では最強美少女剣士なんて噂になった事もあった。何の取り柄もない私は、それを自分の事のように誇らしく感じてしまった。私は間違いに気づけなかった。私は娘を女子中学剣道界、現代最強と謳われる妃姫学園(ひひめがくえん)に入学させてしまったのだ。


 入学後間もなくして娘に異変を感じた。明らかに何かを隠しているようだったが話してはくれなかった。授業参観に行っても、三者面談で探って見ようとしても何もわからなかった。ただ、1つだけわかる事があった。娘は剣道部に入部していなかった。


 妃姫学園の剣道部は娘にとってとてつもなくハードだったに違いない。剣道を「続けるだけ」ならば近所の道場に通っていれば良かったのだ。娘の中学生というたった一度の青春を奪い去ったのは間違いなく私だ。私は娘に出来るだけ明るく接した。少しでも幸せに生きて欲しかった。そういう事でしか私は償う事ができないと思った。


 中学3年生の秋。中学生になって初めて、本心を話してくれたように思えた。娘は地元とはかけ離れた「平田高校(ひらたこうこう)」に行きたいと言ったのだ。私は一切の反論もせずゴーサインを出した。そこが何処かも何なのかも分からなかった。それでも、私が私を信じるよりも娘の事を信じようと、そう思った。


 平田高校は何の不自由もない、普通の高校生活を送れる場所だったのだろう。そこには私が奪った世界が目一杯に広がっているのだろうか。勿論娘は剣道部にも入部し、本物の学生生活を送っているようだ。さらに最近良い事があり、1週間ほど前に金メダルを照れくさそうに見せてきたのだ。私は色んな感情が溢れ出てしまい、ボロ泣きしながら抱きしめてしまった。それでも娘は私を抱き返して、笑ってくれた。ありふれた普通の毎日が私達親子にとって、1番の幸せなのだ。


 今日は日曜日で、仕事は休みだ。そのため、娘が部活から帰宅してくるのを自宅で待っている。いつも通りだと帰ってくるのは14時くらいになるだろうか。それまでに連絡が来るのでそれを待つのは12時くらいになるだろうか。


 「今日みんなと一緒に防具屋さん行ってみる!だから遅くなるかもしれない!」

 

 「了解!!色々見てきなね!」


 「はい!」


 娘からの連絡は今までに無かったようなものだった。そこには学生生活を楽しんでいる様子が垣間見えるような言葉が綴られていた。本当はもっと早くから浴びるはずだった青い風に娘が走り向かって行く姿が脳裏に浮かんだ。御鈴の青春はまだ始まったばかりだ。母親が介入する幕では無い。でも、今吹き荒れている青い風が止んでしまったその時は、小さい小さい私のうちわで桜吹雪でもなんでも吹かせるつもりで見守って行こうと思う。頑張れ御鈴、頑張れ私。


御鈴(みすず)の母


次回主人公は新キャラです。

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