入学
主演 藤巻未来
今日は私たちの入学を歓迎するかのような、雲ひとつないキラッキラな良い天気だ。それでも、平田高校の桜の花びらはヒラヒラと舞い散っている。
私は藤巻未来。出身地はここからそこまで遠いわけではなく、通学手段はバスと徒歩だけである。今日は平田高校の入学式、4月7日だ。同中の友達もいるにはいるが、男子であるため1人きりでここまで来た。新しい空気と新しい友達、そして、私たちが作り上げる高校生活という名の新しい世界に胸が膨らむ。
事前報告で私のクラスは9クラスあるうちの1つである、11Rであることはわかっている。正門を抜けた先にある新しい出会いに期待しながら平田高校前にそびえる激坂こと「平田坂」を一生懸命登った。この1ヶ月間、運動という運動をしてこなかった私にとってはこれだけでもキツいものだった。そんな思いをしてまで登り切った先には、新しい出会いとは言い切れないが、先輩方が大勢並び立っていて、チラシのような何かを入学生に片っ端から声をかけながら配っていた。
「バスケ部入部しませんかー!」
「ソフトボール部なんてどうですか!青春一緒に作りましょう!」
正門前の人だかりはどうやら部活動の勧誘であったらしい。私は貰ったチラシを一通り目を通した。が、私の入りたい部活の名前はなかった。
「あ、あの!これもらってください!是非興味あったら見学だけでもお願いします!」
一際体の小さい女の子からもらったチラシは「剣道部」のチラシだった。
「は!先輩は剣道部なんですね!私も中学時代に剣道部だったので入部したいと思ってたんです!部活動見学ができるのはいつからなんですか?直ぐにでも行きます!」
「ほ、本当に!?勿論!是非!来てください!確か明日だったかな?今日は入学式が終わったら直ぐに帰されると思うから…!」
「そうなんですね!わかりました!明日必ず向かいます!」
「あと…もし誘えたらでいいから他の友達も誘ってみてほしい…!よろしくね!」
「了解しました!」
すぐさま先輩に向かって敬礼をして校舎に足を踏み入れた。にしても可愛らしい女の子だった。体は私よりも小さいのに目が私みたいじゃなくて、くりっくりだ。しかも黒髪ショート女子。必死に部活動の勧誘をしている感じも相まってとっても可愛らしく感じた。
11Rまでの道には案内役の先生方が沢山いらしていたので簡単に進む事ができた。ついに辿り着いた教室の中からは全くというほど物音がしなかった。何だか重たく感じる教室の入口のドアを、がらがらと音を立たせながら右側に引いて、教室に足を踏み入れた。教室の中にはすでに多くの生徒が席に着いていた。にも関わらず物凄い静けさだった。黒板に私の席の場所が書いてあったため確認直後、すぐに席に着いた。
それから5分ほど経過したが誰1人として言葉を発さず完全にお通夜状態になっていた。黙々とスマホをいじる人や勉強をする人、読書をしている人もいれば音楽を聴いている人もいる。誰かに話しかけようとキョロキョロしたり無意味に立ち歩いている人もごく少数だが見受けられた。私の隣にはスマホを黙々といじっている女の子とただの壁があった。どうして隣に壁があるのかというと、私の出席番号は38番で後ろから2番目だったからだ。前と後ろには男の子が座っているのでもう話しかけることはできなそうだった。仕方なくスマホをいじって時間を潰していたらジ○ムおじさんみたいな先生が教室に入ってきた。
「はーいこんにちは。いやー今日はいい天気ですねー。なのにここの教室ときたら、静かなもんですね!みなさんとりあえず挨拶しましょう、挨拶!ほら御一緒に、おはよう御座います。」
「おはようございます!」
今まで声を発せなかった鬱憤からとても大きな声が出てしまった。何人かに振り向かれて恥ずかしい思いをした。にしてもこの先生、太りすぎではなかろうか?それに加えて、声が大きい私が嫌いなタイプの先生だ。彼の名前は勝手に始めた自己紹介で山垣小枝、担当科目は物理だとわかった。彼は5分間にわたる世間話を繰り広げた後、私たちを廊下に並ぶよう先導した。
「まずは出席番号順に1列に並んでくださーい。並び終わったら、1番後ろから1番前の人と隣り合うように2列になってくださーい。そうですそういう感じで並んでくださーい。」
何だかよくわからなかったが私の後ろの男の子が出席番号1番の人の隣に並んだので、先生の言いたいことを何となくだが理解し、私も同じように並んだ。隣にはまたしても綺麗な女の子が立っていた。私と同じく160cmくらいの身長で黒髪ロングの子だ。肌が白くて透き通っていて、彼女の目はなんだかキラキラしているように見える、いかにも美少女って感じの見た目だった。折角の機会であったので勇気を持って話しかける事にした。
「はじめまして!藤巻未来って言います!「みらい」でも「ふじまき」でもいいのでなんとでも呼んでください!あなたはなんていうんですか?」
「あ、はじめまして。私は麻倉御鈴です。「みらい」さんでしたっけ?これからよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!「みすず」ちゃんはどこの中学校の出身なんですか?」
「私は…妃姫学園っていう、ここからとても遠いところからきました。知らないですよね…?」
「えっ!知ってますよ!部活めっちゃ盛んな所ですよね!特に剣道が強くって全国大会何回も優勝してるっていう!」
話に夢中になっていたらもう既に列が進んでいる事に気付くのが遅れてしまった。急いで前の人を早歩きで追いかけた。
「みらいさんは剣道のこと詳しいんですね。なんか嬉しいです。」
「詳しいも何も私、剣道部に入部する気満々だよ!中学時代も剣道部だったしね!」
嬉しそうな顔をしたみすずちゃんは天使のようだった。私は気付けば敬語じゃなくなっていたが、友達関係の始まりだと思って考えない事にした。
「みらいさんも剣道やってるんですね!実は私もなんです。」
「うっそー!?じゃあみすずちゃんってすっごい強い人だよね!?もしかして全国大会とかにも出てたの!?」
「い、いや…私、部活はやってなくて…。でも、道場にはずっと通っています!」
偶然の剣道仲間との出会いに興奮してしまった。しかも彼女はあの最強と謳われる「妃姫学園」の一員でもあったのだ。しかし、部活には入らず道場に通ってたというと…やはり強豪校の練習は厳しいということを彼女を通じて痛感した。
「そうだったんだ…道場は週に何回くらい行ってるの?」
「週に3日通ってます。水曜日と土曜日と日曜日に。」
「へー結構やってるんだね!みすずちゃんも剣道部希望だよね?」
「入りたいです!絶対入りたい!です。」
急に強い声でそう言われたので少々びっくりしたが、いきなり部活仲間が増えたと思うと途端に嬉しくなった。
「おー!!やった!!明日一緒に部活体験しに行こうよ!」
「部活…体験?はい!行きます!」
「心配しなくても大丈夫!私についてくるだけで大丈夫だから!」
「本当ですか!お世話になりますみらいさん!」
「敬語じゃなくてもいいよ!と、武道場はあれかな?」
入学式の会場である体育館のすぐ隣には武道場が用意されていた。内部には防具や竹刀がきちんと並べられていて、しっかりとした部活である事が武道場を見ただけでわかった。
「武道場…!楽しみですね!みらいさん!」
「ねー!早く明日になってほしいね!とりあえず入学式楽しもっ!」
「はい!」
その会話を最後に、沢山の拍手と吹奏楽のファンファーレに先導されて別々の席へと足を運んだ。入学式が終わると各々の親と共に流れ解散となった。お母さんに友達ができた事を伝えると笑顔で「よかったね!」と言われて本当に良かったなと実感した。明日の部活体験でもっと仲を深められたらいいなと思うばかりだ。
ー藤巻未来
次はついに剣道やります