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#9 令嬢と騎士



アルが店のドアを開けると、カウンターにいた女性が振り向いた。

ややしばらく無言で見つめられたと思ったら、ツカツカと勢いよく近づいて来た。



「…あら…あら?」


「………いらっしゃいませ…?」



女性は、顔を覗き込むようにぐいぐいとアルに迫っている。仰け反ってそれをかわすが、女性は更に身を寄せてくる。

服装はとても豪奢で、見事な銀髪を華やかに編み込んでまとめている。

大きくパッチリとした薄桃色の瞳には、こちらへの興味がうかがえる。

その熱っぽい眼差しに見覚えがあり、アルは自分の事を知っている人物なのかもしれない、と感じる。



これはダメなやつかも―――体が硬直する。



「あなた、お店の方?どこかでお会いしたかしら?とてもキレイなお顔をなさっているのね…。お名前は何とおっしゃるの?」



やはりアルの顔に覚えがあるのか、記憶を辿っているようだが答えは出ない。

その間も視線を外さずにいるので、アルがとまどっていた。



「…思い出せないわ…。どなただったかしら…?」


「…う……」



アルがご令嬢の勢いに辟易していると、奥の部屋からエルザが慌てた様子で出てきた。



「お嬢様!あの、その方もお客様で…。おそれながら、…ご配慮下さいませんか?」



エルザの言葉で、自分が不躾だと気付いたのか、ご令嬢の勢いが薄れ、申し訳なさそうにうなだれた。



「ごめんなさい…お会いした事がある気がしてつい…。」



アルから距離をとって、軽く会釈をする。

その隙に『失礼します』と足早にカウンターに向かったアルを見ていたご令嬢が、何かに気付いたような小さい声をあげた。



「…………私、セレナと申します。近いうちにまた参ります」



セレナと名乗るご令嬢は素早くお辞儀をして、いそいそと店を出ていった。

声を掛けるのが躊躇われるほど焦った様子で、2人ともただ呆然とその様子を見ているしかなかった。





「…アルさん……大丈夫?」


「うん……体調は大丈夫…ちょっと座っていい?」



奥の部屋に入った2人は一息つく。

気付けのつもりだろうか、マギーがブランデーを勧めてくれた。

アルはグラスに口をつけ、テーブルに突っ伏した。



「……あー、ごめん…なんかガックリきちゃって」



苦手克服の訓練は順調だ。

今だって胃痛や吐き気もない、体調も悪くない。

しかしアルは、自身が何もできなかったという事に囚われ、嫌になるほど落胆していた。


エルザもご令嬢――セレナの勢いに圧倒されて、出ていったものの声をかけただけで終わってしまった。

帰り際の彼女の様子は気になったが、まずはアルの体調だ。

励ますつもりで、努めて明るい声を出した。



「突然だったし、私もビックリしちゃった。…素直に聞いてもらえてよかった」



エルザの言葉に、アルはハッと眼を瞠る。


エルザはセレナの行動を諫めるよう『お願い』をしたのだ。

貴族の中には、平民であるエルザからの進言に、怒りだす者も存在する。セレナはそういった人物ではなかったが、自分のために貴族にたてつかせた、エルザを危険にさらした事に変わりない。


また、エルザに助けてもらった。

守られてばかりで何が騎士だ、と自身に悪態をつく。



「……情けない…」



アルが険しい顔でボソボソ愚痴り始めた。

いつもは爽やかな好青年なのに、目がどんよりと据わっている。

エルザはさっきまでほぼ満ちていたはずのアルのグラスが、空になっていることに気づく。



『はや!』



叫びそうになるのをおさえ、エルザは話を聞くことにした。




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