番外編2:マギーのとある1日
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番外編第2弾です。
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5時―――――
ぬいぐるみの朝は早い。
ふかふかのベッドに別れを告げた私は、縮こまった体をぐっと伸ばす。
洗面台によじ登り、まずは全身の毛並みをチェックする。毛が寝てしまっているところは、固く絞ったタオルで叩くように拭く。
ホコリが溜まりやすい、耳の中と裏、鼻の横と口元もきっちり拭かねば。
『目が曇った店員』などと言われては大変なので、ガラス目の曇りを拭き取るのも忘れてはならない。
その後は魔法で熱風を起こし、濡れた毛を乾かしながらブラッシング。これを怠ってはふわふわの毛並みを維持することはできない。
顔にかからないように後ろに撫で付けるようにセットする。
商売人にとって清潔感は大切なのだ。よし!
今日も良い日でありますように
8時―――――
エルザに朝食後のお茶を出す。
朝は決まって、濃いめにいれた紅茶にレモンを添えている。
心なしか小綺麗にしているな、と思ったら、今日は彼が来る日だった事を思い出す。
妹のようなエルザの、女の一面を垣間見た気がしてむず痒いが、まぁ幸せならいい。
2人の仲を、売り上げアップに繋げられたらいいのに。
10時―――――
アル君来店。彼はいつも早めにやって来る。
どこぞの有名店のお菓子をお土産に、エルザに抱きつ……挨拶する。今日もめいっぱい恋をしているようで何より。
恋はいい…。私も機会があれば…。
アル君に、昼前に済ませたい畑仕事と、お守りの袋詰めをお願いすると、彼は目をきらめかせて良い返事をくれる。
まさか、やんごとなき血筋に身を置く者が、ニコニコで泥まみれになり、雑草とりに精を出すとは……。わからないものだ。
その隙に地下倉庫に行って、昨日の整理の続きをしよう。
昼休憩―――――
倉庫から戻ると、アル君の膝の上にエルザが横抱きで座っていた。エルザは顔を真っ赤にしているが、アル君は相変わらずニコニコと楽しそうだ。
以前、初めて恋の話をしたときは、恥ずかしそうに顔を赤らめていたのに、あんなにも堂々と不埒な真似が出来るようになるとは…。
恋は人を成長させるのだろうか…?
お昼はアル君の差し入れのキッシュとスープ。
キッシュはなんと、王弟殿下に引き取られた人形…彼女達が、今日のために作ったものらしい。
具はお決まりのベーコンとほうれん草、ジャガイモとチーズも入っている。タルト生地もしっとりしていて、ボリュームのある一品だ。食べていないが、なんとも美味しそうな匂いがする。
彼女達には、エルザがお世話になったと聞く。
事件の時は忙しく、顔を合わせられなかったので、いずれきちんとした形でお礼を言いたいものだ。
15時―――――
店内を若い恋人たちに任せて、私は営業に出よう。
広場に行くと、『マギー!』『くまちゃん!』『せんせい!』と、子ども達がわらわらと集まって来た。
彼らも立派なお客様だ、バカにすることはできない。
ここでは主に接待中心の営業だ。
彼らの希望に応じて、柔軟に動けるかが成功のカギとなる。
一例として、ヒーローと敵対する悪役を求められた場合。
必要なのは、敵らしい、尊大で憎々しい態度。
『くははははは!破壊の限りを尽くしてやる!』
『罠にかかったな、小僧ども!』
『…コノ体ニモヨウヤク馴レテキタゾ…』
などの台詞をつけると大変喜ばれる。
ちなみに小さい子など、こういうシーンを好まない子にこれをやると、キョトンとされるか、『ふわああっ』と泣かれるので気を付けたい。
そういう子達は、かわいいマギー(裏声)で喜んでもらえる。
ひととおり遊び倒し、一人、また一人と広場に迎えがやって来る。
広場が赤く染まっていく。もうそろそろ閉店準備に戻ろう。
18時―――――
閉店作業が終わる頃、カインとドロシーが遊びに来た。
明日は休息日なので、皆で食事を、ということらしい。
エルザとアル君がキッチンに立ち、カインとドロシーでテーブルで準備をしている。
私もティーセットを磨き、茶葉の用意をしていると、ライトの燃料である魔石の屑石が少ないことに気付く。
私はやはりできるクマだ。補充するために外の物品庫へと向かった。
それがこんなことになるなんて、微塵も思わずに。
物品庫に閉じ込められてしまったようだ。
外に取り付けてある閂が下りてしまったらしく、こちらから開けられない。
しかし困ることはない。魔法を使えばすぐ出られるのだから。
魔法を起こそうとすると、ベールのような光が、さぁっと眼前を通っていった。
見上げると、明かり採り用の小さな窓から、月が顔を覗かせている。強い風にあおられた雲に、出たり入ったりを繰り返しているようだ。
格子付きの窓からの月を見ていると、なんだか寂しくなってきた。1人で懸命に辺りを照らす月が、己を思い起こさせたのかもしれない。
たまに、ごくたまに、たった独りで生きているような感覚になる。
友人達は皆、気づいたら旅立ちを迎えて、それを幾人も見送ってきた。これからもそれは続くのかもしれない。
私はこのまま、誰かと共に生きることも、旅立つこともできないのか――――――
不意に外の騒がしさを感じる。
ガチャン、という音と共に、人影がなだれ込んできた。
準備をしていたはずの4人である。
「よかった!マギー居た!」
「師匠大丈夫?破れてない?」
「閉じ込められたみたいだけど、無事みたいね」
「ゴメンよマギー。僕が後で魔石を取りにいこうと思ってたんだ。ついていけばよかった」
口々に私の心配をしている彼らを安心させようと、『魔法を使えば出られたのです』と告げると、エルザが頬を膨らませた。
「そんなことわかってるけど、マギーが心配で、いてもたってもいられなかったのよ、皆」
あぁ、そうだ。
逆の立場なら、私もきっとそうするでしょう。
今までも、これからも。
あたたかな友人達の厚意に礼をいい、皆で勝手口へ向かった。
ふと空を仰ぎ見ると、雲は晴れて、月の周りには小さな無数の星がキラキラと瞬いている。
なんだ、あなたも独りではないのですね。よかった。
22時―――――
固く絞った温タオルで全身を拭き、乾かす。
汚れを落とすことはもちろん、ちょっとしたリラクゼーションも兼ねているのだ。ホカホカしてとても気持ちがいい。
アル君とカインは酔って、屍のようにあのままごろ寝。エルザとドロシーはエルザの私室で休むことになった。
私もこうして自分の部屋に戻り、休む支度をしているところだ。
エルザのポプリは落ち着くし、良く眠れるので枕に忍ばせている。今日はいろいろな事があったから、興奮して目が冴えるかもしれない。
ベッドに入り、ゆっくりと暗くなるように、ライトを調整する。室内が優しい明るさになると、とたんに眠気が増す。
瞼が落ちるとはこの事か。私に瞼なんてありませんけど。
明日も良い日でありますように!消灯!
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