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#53 それから2人は





アルさんがキスをした。私の手に。



エルザが認識したとたん、湯気が出そうなほどに顔が熱くなる。

プロポーズされたのならもう少しムードを出したらどうかと思うが、経験値の無さが仇となり、そんな余裕はない。

アルは優しい表情で、彼女の顔を覗き込み、返事を促した。



「…エルザの返事が欲しいな?」



照れくさいが、エルザだって同じ気持ちでいるのだ。

事の運びが思っていたよりも早急だったため、戸惑ってしまっただけ。



「…よろしく、お願いします、アルさんの隣に居させて下さい」


「ありがとう、あー、大好き!」



弾けるような、キラキラの笑顔。忘れるはずもない。

エルザがもう一度見たいと密かに願った、とろけそうな幸せの顔。予知の中で見たものと同じだ。



―――私が、彼の幸せに繋がっていたなんて…。


喜びで胸いっぱいになったエルザは感極まり、目の奥がぎゅうっと熱くなるのを感じた。



「大丈夫?」



慈しむような笑顔を浮かべて、アルはエルザのすぐ隣に座り直す。エルザの背中に手を回し、優しく体を寄せてきた。

当然、エルザはぴったりと彼に密着するような形になる。想いが通じても、この照れくささだけは変わらない。



「アルさんの笑った顔みてたら、幸せだなぁって…グッと来ちゃいました」


「んん゛っ………それはこっちのセリフ」



妙な咳払いをしたアルは、エルザの耳元に顔を寄せる。

アルの顔が近くなったことで、照れに拍車がかかり、思わず顔を背けてしまう。



「……やっぱり、恥ずかしい…」


「少しずつ慣れなきゃね?…それに、その顔もかわいいって、言ったでしょ?」


「い、意地悪だわ…!」



もじもじとするエルザに、アルはどこか茶化すような表情で、ニヤリと笑う。こういう時のアルは、照れるエルザをからかっているように感じる。

怒っている訳ではないが、やられっぱなしではいられない。

エルザは少しだけ、彼への意趣返しを企んだ。



アルの首に腕を絡ませ、抱き付くように体を寄せる。エルザの思わぬ動きに、アルの体がピクリと跳ねた。

目の前にある、彼のひんやりとした頬に、触れるようなキスをした。



「………」


「………、ん?」



微動だにせず、無言のアルの顔を覗き込もうと体を捻ると、エルザを包む腕の拘束が強くなる。

ただならぬ気配に、エルザはそこから逃れようと転移の術を発動させた……が。



「あれ…」



なぜか、ソファにいる彼の膝上に、横抱きのような体勢になっている。もちろん先程よりも密着して。

失敗?なんで?と首を傾げていると、上から楽しげな声がする。



「俺、同じ手は食わないよ」



とてもいい笑顔―――――先程のとは違う、吹っ切れたとか、迷いが消えたとか、そういった清々しい笑顔が見える。

アルがしっかりとエルザを抱き込んで、グイっと迫る。



「…そういうとこだよ?エルザの用心が足りないのは…。俺、我慢してたのに」


「我慢?…え?」


「キスしたい」


「キ」



エルザの言葉が終わる前に、アルの唇がふわりと触れた。

はじめての柔らかい感触と甘い空気に、エルザは目が回りそうだ。大体息はどうするの?止めるの?どうするの?と、パニックだ。


ふ、と感触が消えてアルが離れる。彼の顔も心なしか赤いように見える。アルの手がエルザの頬に触れ、優しく撫でる。



「…この続きはまた今度。止まれなくなりそうだし」


「止まれなく……!」


「さぁさぁ、婚約の詳しい話しようよ、もちろんこのままでね!あー、幸せだ!」









『魔女の相談室』―――――――



クマのぬいぐるみが案内役の、一風変わった占いとお守りの店。



人気商品の『お守り』は効きがよく、たくさんの噂や逸話が町に溢れていた。

『王室の御用達である』『身分差のある恋愛が成就した』『犯罪の芽を除いた』などの眉唾な話から、『商売が上手くいった』『腰痛がなくなった』『試験に合格した』などといった真実味のある話まで、話に事欠かない。



なかでも『幸せになった』という話が多く聞かれるのは、店主夫妻の仲の良さが原因らしい。

2人の仲睦まじい様子を見ていると、こちらまで幸せな気持ちになってしまうからではないか、といわれている。






おわり







よろしければ、評価、ブックマークをお願い致します。



これにて完結となります。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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