#52 婚約はお早めに
国境の要、マイヤー辺境伯が三男、アルベルト・マイヤー。
マイヤー家は古くから王家に仕え、優秀な騎士が多く排出されている。
三代前の王女が降嫁したことにより、王族の血が紡がれてはいるが、その婚約時に今後の王位継承権は全て放棄されている。
アルベルトは王宮第一騎士団、副団長を務め、団長である王弟ロイ・フェル・ミケージョアに仕える。
その属性は規則により明かされる事はないが、多種の魔法を操るとされている。好きな食べ物は肉と果物。嫌いな食べ物は生のトマト――――――
あれから数日。
次々と明かされるアルの情報に驚くも、彼がエルザの壁を打ち消してくれたから、以前のように不安に感じる事はない。
騎士団の副団長も、マイヤー家のアルベルトも、エルザと一緒に居たいと願ってくれる、優しいアルに変わりないのだ。
「エルザ、来たよ!おはよう!」
「アルさん、おはようございます!どうぞ!」
ドアベルと共に、輝くような満面の笑みを浮かべたアルが入って来た。
同じく満面の笑みのエルザが、ソワソワと迎え入れる。
彼は以前と同じく、仕事の日には休憩中に顔を出して、休みの日には店の手伝いをしたい、と申し出ていた。
一緒に過ごせるのはもちろん、アルが少しでも2人の時間をとろうと動いてくれるのがエルザはとても嬉しい。
事件解決後、はじめての休日なので、美味しいものを食べてゆっくり過ごしてもらおう。
こんなことを考えると、アルとの『お付き合い』がとても現実味を帯びる。いや、現実なんだけれど。
エルザは今日が楽しみで、昨日の夜からニヤニヤとウキウキが止まらない。
いつもよりちょっと奮発したお茶とお菓子を並べて、アルの事を待っていたのだった。
◇
ソファに並んで座り、お茶とお菓子を堪能し、他愛のない話も一区切りした。
ちょっと庭の様子でもみてくるかな?などと暢気なエルザに向けて、アルからとんでもない破壊力の単語が飛び出した。
「そうだ、そろそろ婚約の話を詰めていこうかと思ってるんだけど」
「…こんやく?」
「うん、婚約」
アルは当たり前のように、しれっとお茶を飲んでいる。
ついこの間、想いを確かめあったばかりなのに婚約とは。
お付き合いって、そんなにスピード感溢れるものだったの?エルザは目をぱちくりさせる。
「は、早すぎないですか?あれからまだそんなに経ってないのに?」
「良いことは早い方がいいっていうよ?俺、すぐにでも一緒に居たいし。エルザも受けてくれたじゃない」
「ま、まぁ、それはそうだけど…」
突然の流れに狼狽えるエルザに対して、アルはにこやかな笑顔のまま、とても落ち着いている。
まるで、こうなることがわかっていたかのように。
「エルザも、俺との関係についていろいろ考えてくれてたのかと思うと、嬉しくて。あれで確信したんだ。きっとエルザは一緒に居てくれるってね」
「あ、あれはまたちょっと意味が…」
あの時は、添い遂げられない、というネガティブな想像だったけど…。
首を捻るエルザにニッコリ微笑むアルは、そっと席を立つと、彼女の前に跪く。
「と、いうわけで、エルザ。私、アルベルト・マイヤーと、結婚してもらえませんか?」
流れるようにエルザの手を取ると、軽く額に当てて、それから口元に運んだ。
「ずっと、隣に居て?」
ふに、と柔らかい感触。
アルの唇が、エルザの右手甲に口付けを落とした。
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次回、最終話です




