#51 ロイの爆弾
「…本当によかったよ。あのときのアルはひどかったから」
「ひどかった?」
「君が連れ去られた時の話。店に戻って異変に気づいた後、魔力切れのマギー君を連れて王宮に戻ってきたんだ。治療班にマギー君を預けて、収容されてる窃盗団を脅……説得して、フィリップの関与と、アジトを聞き出したんだ。もうね、鬼みたいだったよ~」
「おに……?」
エルザが思わずアルの顔を見ると、全くの他人事のような顔で彼が爽やかに微笑んだので、エルザはひきつった笑みを返した。
「マギー君が復活してからは早かった。君の魔力の残滓を辿ってもらって、アジトの目星をつけた。アルが先行してたんだけど、建物が擬装されていて、なかなか潜入できずにいたんだ」
「エルザの魔力の気配が強くなって、その近くに侵入路を作ろうとしたら、擬装が剥がれたんだ。そこから奴が君に掴み掛かるのが見えて……」
「壁をはずした、と」
助けてもらった本人、エルザの開いた口が塞がらない。
アルは悪びれる様子もなく、照れたようにえへへ、と笑う。
ロイが遠い眼で当時を振り返る。
「もう本当、アルがフィリップをヤっちゃわなくてよかったよ。マギー君もだけど、戻ってからずーっと殺気しか放ってなかったからね、僕達は怖くて怖くて…」
ロイを始め他の団員達は、2人が暴走しないように注視しつつ、余計な刺激を与えぬよう、ひっそりと行動していたという。
彼らの苦労を思うと、エルザはいたたまれない気持ちになった。
「それは、ご迷惑お掛けして、というか、なんというか……」
「エルザは悪くないよ?手を出した奴が悪い」
すっかりエルザ至上主義筆頭のアルが、すかさず庇うようにエルザの顔を覗き込む。
メロメロなアルに対して、わざとらしく肩をすくめたロイが立ち上がる。
「僕は戻るけど…エルザちゃん、うちのアルをよろしくね。実質うちのナンバー1だから、将来性もあるし、何より絶対に、エルザちゃんを大事にすると思う」
「ロイさん、ありがとうございます。本当にお世話になりました」
「これからも何かあったら、俺も力になるよ。もしかしたら親戚になるかも知れないんだしね」
「は?」
「あっ」
「へ?…あ。じゃあねっ」
不穏な空気を感じ取り、いそいそとロイが部屋を出ていく。
マギーは早々にソファを降りて、ベッドでぬいぐるみのようにじっとしている。
呆けた顔のエルザと、笑顔で固まるアルの2人が残された。
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