#50 事件について
その後、部屋を訪れたロイにより、事件のおおよそがエルザ達に告げられた。
フィリップは、隣国の窃盗団と密通し、こちらの国での仕事の手引きを行っていた。
元は古物商で、なくなった父親の後を継いだ後に魔道具へ手を拡げたようだ。
たまたまエルザのお守りを手に入れてすぐ、大口の契約が決まった。
業績が伸びる度に、お守りに心酔するようになり、いつしか頼りきるようになっていく。
その狂信が、エルザに向けられるまでそうかからなかった。
『彼女さえいれば、どんな仕事も上手くいく』と。
しかし、お守りだけの力で商売など続くわけがない。事業が停滞してくると、怪しげな話にも乗るようになっていく。
窃盗団が捕らえられ、自分の身を案じた彼は、エルザを手中にするべく、例の魔法薬を使い、なりふりかまわずに犯行に及んだ、
「……というのが、概要。何かとっても怖い目にあったらしくて、スルスルと話してくれたよ、彼」
ロイはソファの上のマギーに、感謝の意を込めた目線を送る。マギーはとても誇らしげだ。
ちなみに、フィリップに穴の中での出来事について尋ねても、『それだけは』と怯えたように震えて口を閉ざすという。
エルザのお守りは、その人の努力や想いがなければ力を発揮しない。人をそっと見守る『加護』のようなもの。
仕事が上手くいっていたのならば、それは彼の頑張りによるもので、決してお守りの力ではなかったのに。
お守りを信じるあまりに、努力を怠るようになる人間もいることは知っている。
作り手に責任がないことも、祖母から何度も言われてきた。
わかっている。
しかしエルザは、彼を止めることができなかったのかと、どうしようもないことを考えてしまう。
「彼はおそらく北の収容所に送られることになる。厄介な魔法持ちだから、それも封じると思う」
「……『擬装』だったって?」
「うん。アルの見立てが合ってた。彼は窃盗団のアジトのひとつを外から見えないようにしてたんだ。建物ひとつ丸々カモフラージュするなんて……惜しい才能だよ」
その力を他のことに使っていれば…。ロイの顔に珍しく憂いが浮かぶ。
考え込んでいたエルザが、もうひとつの気掛かりをロイに尋ねる。
「あの…、デイジー達は、どうなりますか?」
「デイジーは、自我を持って動ける古道具、ということで、僕の身の回りのお世話をお願いしたよ。マトリョーシカ達は動くけど言葉がまだだから、仕事はあげられないけど、デイジーと一緒に引き取るよ」
ホッとした表情のエルザに『心配しないでいいよ』と付け加えて、紅茶を一口含んだロイは、ニヤリと口角を上げる。
「こちらも上手いこと片付いたようで、よかったよかった」
「あれ、よくわかったね」
「あはは…」
そりゃ~わかるよ!
苦笑いを浮かべつつ、エルザの脳内でツッコミの嵐が起こる。
問題なのは、ぺったりとエルザにくっつくアルだった。
エルザの腰を寄せるように手が添えられて、もう一方はエルザの手を満足そうに握っていた。
エルザは『人前だから』と言ったものの、アルのしょげかえる様子に、ギュンと胸を射たれて、この体勢を許したのだ。
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