表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

#49 やっと




「…んん?」



間の抜けた声の返事の後、部屋に静寂が訪れた。

にこやかなままで固まるアルと、口を結んで、目を潤ませているエルザ。

少しの間見つめ合った後、エルザが口火を切った。



「苦手じゃなくなっても、思いを寄せられたらどうなるか…アルさんに嫌な思いをして欲しくな…」



エルザの言葉が途切れ、視界が遮られる。

包まれるような暖かさに、抱き締められていることに気づく。

力強さを感じるその腕は、まるでエルザをアルの中に納めてしまうような、そんな熱のある抱擁だった。



「あ、アルさん!」


「もう…エルザのバカ」


「な、なんで、そんな、ひどい!」


「ひどいのはエルザでしょ?俺の心配ばっかりでどうするのさ」



体勢はそのままに、いじけるような、呻くような声でアルが愚痴る。

その度に、アルの吐息がエルザの首すじに掛かりこそばゆい。



「絶っ対に具合悪くならない。俺も好きなんだから、嬉しいだけでしょ」


「あ…」


「まだちゃんと言ってもらってないけど…」



少し体を離すと、アルはぷいっとそっぽを向いた。完全にすねている。

そのあまりの幼さにエルザの笑みが浮かんだ。



一番の憂いは溶けて消えてしまった。

エルザの中にそびえていた壁もアルがすべて壊してくれた。

溢れる気持ちを、もう抑えなくてもいい。

しっかりと受け止めてくれるアルが、隣にいてくれる。


エルザはいつかしてもらったように、指先でおそるおそるアルの顔に触れた。



「アルさん…、あの…」


「!、……なに?」


「あの、私、アルさんとまだ一緒にいたい、です」



紫の瞳がまじまじとエルザを見つめて、徐々に喜びの色に染まっていく。

確信しているのに、もっと直接的な言葉が欲しい。俺はこんなに欲張りだったろうか?

頬に触れたエルザの手を握って、囁いた。



「それだけ?」


「……好き、アルさんが好きです」



エルザが全てを言い終わる前に、待ちきれなくなったアルが彼女に抱きついた。

エルザのこめかみに口づけを落として、頬を擦り付けるようにぎゅうと抱き締める。

エルザはその行為に完全に動きを停められる。

かろうじて動く両手はわきわきとするばかりでなんとも所在ない。

頭の上では、アルが深く息をついて、独り言のようにぼやく。



「…あー、やっと。やっとだよ。もう遠慮しないからね」







御覧いただきありがとうございます


よろしければ評価、ブックマークをお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ