#49 やっと
「…んん?」
間の抜けた声の返事の後、部屋に静寂が訪れた。
にこやかなままで固まるアルと、口を結んで、目を潤ませているエルザ。
少しの間見つめ合った後、エルザが口火を切った。
「苦手じゃなくなっても、思いを寄せられたらどうなるか…アルさんに嫌な思いをして欲しくな…」
エルザの言葉が途切れ、視界が遮られる。
包まれるような暖かさに、抱き締められていることに気づく。
力強さを感じるその腕は、まるでエルザをアルの中に納めてしまうような、そんな熱のある抱擁だった。
「あ、アルさん!」
「もう…エルザのバカ」
「な、なんで、そんな、ひどい!」
「ひどいのはエルザでしょ?俺の心配ばっかりでどうするのさ」
体勢はそのままに、いじけるような、呻くような声でアルが愚痴る。
その度に、アルの吐息がエルザの首すじに掛かりこそばゆい。
「絶っ対に具合悪くならない。俺も好きなんだから、嬉しいだけでしょ」
「あ…」
「まだちゃんと言ってもらってないけど…」
少し体を離すと、アルはぷいっとそっぽを向いた。完全にすねている。
そのあまりの幼さにエルザの笑みが浮かんだ。
一番の憂いは溶けて消えてしまった。
エルザの中にそびえていた壁もアルがすべて壊してくれた。
溢れる気持ちを、もう抑えなくてもいい。
しっかりと受け止めてくれるアルが、隣にいてくれる。
エルザはいつかしてもらったように、指先でおそるおそるアルの顔に触れた。
「アルさん…、あの…」
「!、……なに?」
「あの、私、アルさんとまだ一緒にいたい、です」
紫の瞳がまじまじとエルザを見つめて、徐々に喜びの色に染まっていく。
確信しているのに、もっと直接的な言葉が欲しい。俺はこんなに欲張りだったろうか?
頬に触れたエルザの手を握って、囁いた。
「それだけ?」
「……好き、アルさんが好きです」
エルザが全てを言い終わる前に、待ちきれなくなったアルが彼女に抱きついた。
エルザのこめかみに口づけを落として、頬を擦り付けるようにぎゅうと抱き締める。
エルザはその行為に完全に動きを停められる。
かろうじて動く両手はわきわきとするばかりでなんとも所在ない。
頭の上では、アルが深く息をついて、独り言のようにぼやく。
「…あー、やっと。やっとだよ。もう遠慮しないからね」
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